CA1711 – 米国議会図書館における録音・映像資料の保存と活用の状況 / 川野由貴

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カレントアウェアネス
No.303 2010年3月20日

 

CA1711

 

米国議会図書館における録音・映像資料の保存と活用の状況

 

1. はじめに

 米国議会図書館(Library of Congress;以下、LCとする)の映画放送録音物部(Motion Picture, Broadcasting, and Recorded Sound Division;以下、MBRSとする)は、100万点を超える映像資料(映画フィルム、テレビ番組等)と300万点近くの録音資料(音楽CD・レコード、ラジオ番組、歴史的音声等)を所蔵する、世界有数の規模を誇る録音・映像アーカイブである(1)。所蔵するコレクションには、あらゆる記録メディアが含まれており、古いものでは、エジソンが発明した円筒型レコードや、1950年代頃まで使われていたナイトレートフィルムといわれる強い可燃性をもつ映画フィルム等が保存されている(2)

 国立国会図書館で音楽・映像資料室に勤務する筆者は、2009年10月から11月にかけてLCを訪問する機会を得た。本稿では、LCにおける録音・映像資料の保存と活用の状況について紹介する(3)

 

2. 保存状況と保存設備について

 MBRSでは主に、納本制度による納入、寄贈、購入の方法で資料を収集している。録音資料については、納本制度が整備されたのが1972年と比較的遅く、それまでは主に寄贈により資料を収集しており、それが現在のコレクションの基礎となっている。収集された資料は、これまでLC内部と米国内数か所の倉庫で管理されていたが、2007年、ワシントンD.C.から約100キロメートル離れたバージニア州カルペパーに国立視聴覚資料保存センター(National Audio Visual Conservation Center;以下、NAVCCとする)(4)が開館し、LCが所蔵する視聴覚資料が全て集められ、収集・整理から保存、デジタル化までが一貫して行われるようになった。

 NAVCCは丘陵地を利用して建てられており、丘の斜面に横穴を掘って書庫が作られている。建物は3階建てで、総面積は約41.5万平方フィート(約38,500平方メートル)、書庫スペースは棚の長さにして約90マイル(約145キロメートル)にも及ぶ。その他、124のナイトレートフィルム専用保管庫なども備えられている(5)

 建物の内部は、資料の受入れから整理、書庫に収めるまで効率よく作業できるように設計されている。1階が映像セクション、2階が録音セクションの作業フロアと書庫になっており、搬入された資料は、映像資料は1階、録音資料は2階で受入れ、整理された後、それぞれそのまま同じフロアにある書庫に運ばれる。書庫内には、各媒体の大きさに合ったキャビネットや収納棚が空間に無駄なく設置されており、温湿度も各媒体に最適な設定が維持されている。録音資料は一律、華氏50度(摂氏10度)・湿度35%、映像資料は媒体に応じて華氏25度(摂氏-3.9度)から華氏50度まで4段階の環境(湿度は30%から35%)が整えられている(6)。地中のため、温度・湿度を調節しやすいとのことである。

 資料の整理にあたっては、LC分類(Library of Congress Classification)ではなく、独自の分類方法(資料の形態による分類)がとられており、書庫にも分類別に収められる。なお、新しい出版物よりも、利用者の要望の多い、古い資料の整理を優先して行っているとのことである。

 3階は、デジタル化や映画フィルムの保存作業のためのフロアである。録音資料のデジタル化は音響設備の整った専用ルームでエンジニアの手作業により行われており、ビデオカセットのデジタル化には、全自動のデジタル化システムSAMMA(System for the Automated Migration of Media Assets)(7)が導入されている。デジタル化作業では、保存用ファイル、再生専用ファイル、メタデータが作成され、保存用ファイルはNAVCC内に設けられたデータセンターに保管される。なお、デジタル化された後も、オリジナル資料は必ず保存される。このように、NAVCCは、保存やデジタル化のための最先端の設備と、大規模かつ長期保存に最適な保管庫を備えており、世界的にも注目される施設となっている。

図 NAVCCの外観

図 NAVCCの外観

 

3. 利用方法と活用状況について

 録音・映像資料はすべてNAVCCに保存されることになったが、利用者はこれまで通りワシントンD.C.中心部(キャピトルヒル)にあるLC(8)の閲覧室でサービスを受けることができる。マディソン館1階で録音資料レファレンスセンター(Recorded Sound Reference Center)が、同3階で映画・テレビ資料閲覧室(Motion Picture and Television Reading Room)が運営されており、利用方法は各閲覧室で若干異なる。録音資料の場合、利用申込みがあるとNAVCCで再生専用のデジタルファイル(保存用デジタルファイルとは異なる)が作成され、閲覧室に送信される。利用者はその音源を備え付けのPCで利用する。ジャケットや歌詞カードの閲覧を希望すれば、それらの画像もデジタル化して提供される。著作権上の問題があるため、利用できるのは閲覧室内のPCに限られる。映像資料の場合、録音資料とは異なりファイル容量が大きくなるため、オンデマンドによるデジタル化には対応していない。そのため、デジタル化済みでない資料については、コピー資料があるものに限り、週に一度NAVCCから運搬して閲覧に供している(オリジナル資料しかないものは利用不可)。いずれの場合も、利用は研究目的に限られ、資料の準備に時間を要するため閲覧には予約が必要とされる。また、著作権者の許諾を得られれば、複製サービスを受けることができる。

 資料の検索手段として、LCのメインのオンライン目録(9)および一部の録音資料でSONICと呼ばれる独自のオンライン目録(10)が利用できるが、一部では依然としてカード目録が使用されており、タイトルからしか検索できないものも多い。今のところ、全ての資料を網羅的に検索できるデータベースは無いとのことである。そのため、特定の主題から資料を探したい場合などは、レファレンスライブラリアンに相談をしながら探すことになる。レファレンスは、直接来館のほか、“Ask a Librarian”システム(11)、メール、電話等でも受け付けている。

 情報発信事業として、LCでは“American Memory”と題し、米国の歴史に関わる資料の一部を主題別にホームページ上で公開しており(12)、MBRSからも録音・映像資料などのコンテンツを提供している。最近では、MBRS以外でも、音楽部(Music Division)が中心となって、“Performing Arts Encyclopedia”として、音楽や舞台芸術に関する資料の公開に積極的に取り組んでいる(13)。公開される資料には、楽譜や音源、映像、写真、手稿等の様々な形態の資料が含まれる。このような、資料の形態にとらわれない情報発信は、デジタル化によって可能となった所蔵資料の活用方法の一つであろう。

 また、マディソン館3階とNAVCCには映画の上映ホールがあり、定期的に上映会が開催されている。NAVCCのホールには無声映画の伴奏ができるスペースも設けられている。さらに、ジェファソン館1階には展示室とコンサートホールがあり、ホールでは定期的に演奏会が開催されている。その音源も録音・保存されており、MBRSのコレクションの一つとなっている。

 

4. おわりに

 NAVCCの開設により、録音・映像資料の保存と利用・活用方法は大きく様変わりした。デジタル化によって、利用の度に資料を動かさずに安全な場所で長期的に保存することが可能になるだけでなく、これまで劣化の恐れがあるために利用を制限してきたような資料も提供できるようになり、「保存」と「利用」という二つの役割を同時に果たすことが可能になった。筆者が訪問した時点では、閲覧システムはまだ試行段階であったものの(14)、オリジナル資料を一か所に集中管理し、デジタル化したものを利用者に提供するという基本的な閲覧体制は、良好に機能しているものと思われた。ただし、保存のためのデジタル化作業はまだ始まったばかりの状況であり、今後は、デジタル化作業の進展に加え、デジタルコンテンツをいかに活用していくか、その動向を注視していく必要がある。

資料提供部電子資料課:川野由貴(かわの ゆき)

 

(1) “Experience the Collections”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/avconservation/collections/, (accessed 2010-01-12).

(2) Dalrymple, Helen. The scope of the collections. Library of Congress Information Bulletin. 2007, 66(7/8), p. 149.
http://www.loc.gov/loc/lcib/07078/scope.html, (accessed 2010-01-12).

(3) 録音・映像資料以外の音楽資料(楽譜等)は音楽部(Music Division)が、野外録音により収集された資料(民族音楽や方言等)はアメリカン・フォークライフ・センター(American Folklife Center)が所管する。紙幅の都合もあり、本稿ではMBRSの所管する録音・映像資料を取り上げる。各部門の概要はそれぞれ以下のURLを参照。
“Performing Arts Reading Room”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/perform/, (accessed 2010-01-12).
“The American Folklife Center”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/folklife/, (accessed 2010-01-12).

(4) NAVCC設立の背景には、パッカード財団からの多額の寄付がある。そのため、“Packard Campus”と冠される。

(5) “The Packard Campus”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/avconservation/packard/, (accessed 2010-01-12).

(6) 数値は現地での取材による。

(7) Media Matters.
http://www.media-matters.net/index.html, (accessed 2010-01-12).

(8) ジェファソン館、マディソン館、アダムス館の3館から成る。

(9) Library of Congress Online Catalog.
http://catalog.loc.gov/, (accessed 2010-01-12).

(10) “SONIC(Sound Online Inventory and Catalog)”. Library of Congress.
http://star1.loc.gov/cgi-bin/starfinder/0?path=sonic.txt&id=webber&pass=webb1&OK=OK, (accessed 2009-01-12).

(11) “Ask a librarian”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/askalib/, (accessed 2010-01-12).

(12) “American Memory”. Library of Congress.
http://memory.loc.gov/ammem/index.html, (accessed 2010-01-12).

(13) “Performing Arts Encyclopedia”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/performingarts/, (accessed 2010-01-12).

(14) 閲覧システムが本格稼動すれば、利用者各自にログインID・パスワードが付与され、個人専用画面で資料の検索、申込、閲覧および複写申込ができるようになるとのことであった。

 

Ref:

Library of Congress Motion Pictures, Broadcasting, Recorded Sound Division. Motion Pictures, Broadcasting, Recorded Sound : An Illustrated Guide. Washington D.C., Library of Congress, 2002, 88p.

“Audio-Visual Conservation”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/avconservation/, (accessed 2010-01-12).

“Recorded Sound Reference Center”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/record/, (accessed 2010-01-12).

“Motion Picture and Television Reading Room”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/rr/mopic/, (accessed 2010-01-12).

Dalrymple, Helen et al. A remarkable gift. Library of Congress Information Bulletin. 2007, 66(7/8), p. 147-154.
http://www.loc.gov/loc/lcib/07078/packard.html, (accessed 2010-01-12).

Dalrymple, Helen. Film & sound treasures in the mountain lair. Library of Congress Information Bulletin. 2006, 65(7/8), p. 167-171.
http://www.loc.gov/loc/lcib/06078/navcc.html, (accessed 2010-01-12).

2006年度文化庁委嘱調査 音楽情報・資料の保存及び活用に関する調査研究「報告書」(2). ニッセイ基礎研究所, 2007.

岡島尚志. 米国の公的フィルム・アーカイブ(2) : 議会図書館・映画放送録音物部. NFCニューズレター. 2004, (57), p. 14-16.

 


川野由貴. 米国議会図書館における録音・映像資料の保存と活用の状況. カレントアウェアネス. 2010, (303), CA1711, p. 16-18.
http://current.ndl.go.jp/ca1711