CA1697 – 縮小する雑誌市場とデジタル雑誌の動向 / 湯浅俊彦

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カレントアウェアネス
No.302 2009年12月20日

 

CA1697

 

縮小する雑誌市場とデジタル雑誌の動向

 

1. はじめに

 日本における出版販売額は1996年をピークに長期下落傾向にあり、出版産業は深刻な事態に陥っている。とりわけ雑誌の販売不振がその大きな要因となっており、このままでは新聞(CA1694参照)とともにメディアとしての雑誌が終焉に向かうのではないかという論調も見られるようになってきた(1)

 本稿では雑誌メディアの現状を概観し、デジタル雑誌やインターネットとのクロスメディア戦略を模索する出版業界の動向を紹介する。

 

2. 雑誌販売の低迷と情報環境の変化

 『出版年鑑2009』によれば、2008年(1月~12月)の雑誌の実売総金額は1兆1,731億円(前年比4.1%減)とピーク時である1996年の1兆5,984億円より4,252億円も減少している(2)。この12年間に減少した4,252億円という数字は国内最大の取次である日本出版販売の年間売上高6,327億円(2009年3月)(3)の約7割に匹敵する額であり、雑誌市場がいかに凄まじい勢いで縮小しつつあるかが分かるのである。また、返品率も36.3%と前年の35.3%より1.0ポイント増加し、売り上げ不振と流通コスト高の悪循環を繰り返している。

 一方、『出版指標年報2009』でも雑誌販売金額は1兆1,299億円(前年比4.5%減)、金額返品率は36.5%(前年比1.3ポイント増)となっている(4)。さらに、日本ABC協会が発表した2008年下期の公査部数でも調査対象52社157点の総販売部数は2,051万5,364部(前年同期比3.7%減)となっており(5)、いかに雑誌が売れなくなってきているかを顕著に示しているのである。

 2008年に『月刊現代』(講談社)、『論座』(朝日新聞社)、『主婦の友』(主婦の友社)などの有名雑誌が休刊して話題を呼んだが、2009年も『ロードショー』(集英社)、『Lマガジン』(京阪神エルマガジン社)、『就職ジャーナル』(リクルート)、『諸君!』(文藝春秋)などが相次いで休刊し、雑誌の時代が終わりつつあるかのような印象を人々に与えている。

 雑誌の販売金額の大幅な減少と相次ぐ休刊は、いくつかの影響が考えられるが、大きくは雑誌に対する読者の需要が後退しているためであり、その要因としてまず考えられるのがインターネットによる情報環境の変化である。

 インターネットの急速な普及で芸能情報、企業情報、時事問題など、たいていの情報は紙の雑誌を購入しなくてもパソコンで検索して必要な部分だけをダウンロードし、印刷することができるようになった。さらにiモードなどの携帯電話のインターネットサービスによって、多くの人々が占いから旅行・グルメ情報、乗換案内、時刻表、ファッション情報など様々な情報を簡単に入手することができるようになったのである。つまり、これまで紙の雑誌で得ていた様々な分野の情報がデジタル化され、パソコンや携帯電話で読まれるようになってきたということである。

 

3. デジタル雑誌の動向

 出版業界ではこのような状況を受けて、紙媒体だけではなく、デジタル雑誌あるいはインターネットとのクロスメディア戦略を模索する取り組みが始まっている。『デジタルef』(主婦の友社)、『雑誌の市場SooK』(小学館、2008年9月終了)、『Newsweek日本版・デジタル版』(阪急コミュニケーションズ)などがデジタル雑誌として登場し、また富士山マガジンサービスが「デジタル雑誌ストア」を開始したことから2007年は「デジタル雑誌元年」と呼ばれたが、最近では次のような新たな取り組みが展開されている。

 第1に、携帯電話向けの雑誌記事立ち読みサービスの開始である。雑誌の総合情報ポータルサイト「zassi.net」を運営する雑誌ネットが、2009年4月から携帯電話向けに雑誌記事の「立ち読みサービス」を開始している(6)(7)

 第2に、雑誌発売と同時にインターネットで無料公開する動きが出てきたことである。例えば月刊漫画誌『モーニング・ツー』(講談社)は、2008年10月から12月までの3か月間と2009年5月からの1年間にわたり雑誌丸ごと1冊のインターネットでの無料公開を試みており、そのうち2009年5月から7月までは雑誌発売と同時に無料公開するという取り組みを行っている(8)

 第3に、休刊雑誌の記事を電子書籍化する試みがスタートしたことである。秋田書店が2003年に休刊した歴史雑誌『歴史と旅』の記事を、携帯電話向け電子書籍サイト「よみっち」で2009年5月から販売を始めている(9)

 第4に、雑誌、単行本、インターネットの三位一体で読者に提供する雑誌のクロスメディア戦略が展開されたことである。2008年末に休刊した『月刊現代』の後継誌として2009年9月に創刊したノンフィクション雑誌『G2』(講談社)は、インターネット上での全文公開によって雑誌本体と掲載作品の単行本の売上げ増を図ろうとしているのである(10)

 

4. 「雑誌コンテンツのデジタル配信」実証実験

 日本における雑誌発行部数の約80%を占める有力雑誌出版社で構成される日本雑誌協会は2009年1月、「デジタルコンテンツ推進委員会」を新設した。これは2008年11月に日本雑誌協会・国際雑誌連合(FIPP)が共催した「アジア太平洋デジタル雑誌国際会議」を受けて、デジタル雑誌に関する常設委員会が必要との認識から発足したものである(11)

 2009年4月、総務省の「ICT利活用ルール整備促進事業(サイバー特区)」の実施テーマの一つとして、同委員会が応募した「雑誌コンテンツのデジタル配信プラットフォーム整備・促進事業」が採用された。8月には、そのための調査研究プロジェクトを日本雑誌協会が落札し、実証実験を開始することになっている。また、同委員会はビジネスモデルを検討するため、広告代理店やIT関連のパートナー企業と「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」を設立するとともに、権利処理やワークフロー・インフラ、データベース化などの7つのワーキンググループを立ち上げている(11)(12)(13)

 具体的な実証実験は2010年1月下旬から2月にかけて、100誌の参加雑誌を得て、雑誌を定期購読している人1,000名以上と、雑誌を定期購読しておらずインターネットにアクティブな人500名以上を参加モニターとして行われる予定である(14)(15)

 

5. おわりに

 出版コンテンツのデジタル化は「書籍」と「雑誌」の区別をあいまいにしただけではなく、「新聞」と「雑誌」、あるいは「インターネット情報源」と「雑誌」というメディアの垣根を取り払いつつある。しかし、編集過程を経た出版コンテンツとしての雑誌メディアは書き手の育成やジャーナリズムとしての役割という重要な機能を果たしてきたことを忘れてはならない。また学術情報流通における電子ジャーナルだけでなく、書店店頭で販売されているタイプの様々な雑誌がデジタル雑誌へ移行するとすれば、これまでの出版流通システムはもちろんのことながら、図書館にも大きな影響を与えるに違いないのである。

夙川学院短期大学:湯浅俊彦(ゆあさ としひこ)

 

(1) 例えば、以下のような文献がある。
小林弘人. 新世紀メディア論―新聞・雑誌が死ぬ前に. バジリコ, 2009, 301p.

(2) 出版年鑑 2009 資料・名簿編. 出版ニュース社, 2009, p. 286.

(3) “会社概要”. 日本出版販売.
http://www.nippan.co.jp/nippan/gaiyo.html, (参照 2009-10-14).

(4) 出版指標年報 2009. 全国出版協会・出版科学研究所. 2009, p. 27-28.

(5) ABC公査部数2008年下半期. 新文化. 2009-05-28, 6面.

(6) デジタルで“雑誌ビジネス”に活路 : 「雑誌ネット(株)」篠塚社長に聞く. 新文化. 2009-03-26, 10面.

(7) “立ち読み”. 雑誌ネット.
http://www.zassi.net/latest_art_list.php?read=1, (参照 2009-10-14).

(8) “モーニング・ツー無料公開”. 講談社.
http://morningmanga.com/twofree/, (参照 2009-10-14).

(9) デジタル事業盛ん. 印刷雑誌. 2009, 92(7), p. 64-65.

(10) “G2とは?”. 講談社.
http://g2.kodansha.co.jp/?page_id=426, (参照 2009-10-14).

(11) 雑協が薦めるデジタルコンテツ推進(上). 新文化. 2009-06-25, 1面.

(12) “デジタルコンテンツ推進委員会の活動概要”. 日本雑誌協会.
http://www.j-magazine.or.jp/doc/consortium_katsudogaiyo.pdf, (参照 2009-10-14).

(13) “コンソーシアムの設立について”. 日本雑誌協会.
http://www.j-magazine.or.jp/doc/consortium_setsuritu.pdf, (参照 2009-10-14).

(14) “雑誌デジタル配信モニター大募集”. 日本雑誌協会.
https://jmpa.modd.com/, (参照 2009-10-14).

(15) “電子雑誌実証実験に定員の倍を超す応募、参加雑誌も100誌に拡大”. ITpro. 2009-11-11.
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20091111/340407, (参照 2009-11-16).

 


湯浅俊彦. 縮小する雑誌市場とデジタル雑誌の動向. カレントアウェアネス. 2009, (302), CA1697, p. 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1697