CA1682 - インドの電子図書館と機関リポジトリ / 水流添真紀

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カレントアウェアネス
No.299 2009年3月20日

 

CA1682

 

インドの電子図書館と機関リポジトリ

 

 近年、情報技術産業の発展が著しいインドではあるが、電子図書館や機関リポジトリ等はどの程度開発されているのだろうか。インドの電子図書館事情について紹介したい。

 

概要 

 インドにおける電子図書館の開発は1990年代後半に始まったとされる(1)。しかし、様々な機関で電子図書館が公開されるようになったのは、21世紀に入ってからである。

 インドでは、科学技術関係機関や政府機関を中心に電子図書館の構築が進められてきた(CA1516E527参照)。表に、コレクション数の多い電子図書館・機関リポジトリを示す。現時点では多くが各機関独自での構築にとどまっているが、学位論文に関しては、マイソール大学の“Vidyanidhi”(2)、大学図書館ネットワークセンター(Information and Library Network Centre:INFLIBNET)の学位論文総合目録(3)など、複数大学の学位論文を収録するデータベースが作成され、機関を越えた取り組みが行われている。

表 インドの電子図書館・機関リポジトリ

表 インドの電子図書館・機関リポジトリ

出典 Mittal (2008) を元に作成 ※レコード数はROAR (accessed 2008-12-17) を参照した。

 公共図書館では目立った電子図書館は存在しないようだ。インド国立図書館(4)では、6,600冊の書籍を電子化しているが、CD-ROMに収められているだけで、現時点ではインターネット上で利用することができない。数少ない一般市民向けの事業としては、インド先端電算技術開発センター(Centre for Development of Advanced Computing:C-DAC)による“Mobile Digital Library”がある(5)(6)。これは、衛星アンテナやコンピュータ、プリンタ、製本機を搭載した自動車を地方に派遣し、図書データをダウンロードしてその場で書籍を作成し、市民に提供する、という事業である。現在のところ、短い物語、フィクション等105冊の図書が対象となっており、インターネットから自由にダウンロードすることもできる。しかし、インドでのインターネットの普及は2007年度で人口100名あたり6.93名である(7)ことを考えると、多くの人々は電子図書館へのアクセスが困難である、というのが現実であろう。 

 なお、2008年4月にユネスコから刊行された “Open Access to Knowledge and Information: Scholarly Literature and Digital Library Initiatives; the South Asian Scenario”では、インドのオープンアクセスサービスとして、電子図書館が13プロジェクト、オープンコースウェア6プロジェクト、オープンアクセス雑誌6プロジェクト、メタデータの収集・提供サービス5プロジェクト、全国規模のオープンアクセスリポジトリ5プロジェクト、機関リポジトリ19プロジェクトが紹介されている(8)。 

 以下では、インド特有の事情が垣間見える特徴的な電子図書館と機関リポジトリを紹介したい。 

 

特徴的な電子図書館 

  • Digital Library of India (9)(10) 


     ミリオンブックプロジェクト(Million Book Project)(E727CA1678参照)によって電子化された資料を収録している。このプロジェクトは米国のカーネギーメロン大学が中心になって実施され、インドではインド科学大学(Indian Institute of Science:IISc)やインド情報技術大学(International Institute of Information Technology:IIIT)等、多数の機関がスキャニングに参加している(11)。IISc、IIITの2サイトから利用でき、データの一部は重複している。2007年の時点では、インド国内では289,000冊以上の本がスキャンされており、そのうち170,000冊あまりが英語以外のインドの言語であるとされている(12)
  • Traditional Knowledge Digital Library(13)


     インドの伝統文化に関する知識を集めた電子図書館(E293参照)であり、ヨガやアーユルヴェーダに関する資料を収録している。先進国が、インドの伝統的な医学知識を利用して不正に特許を取得することを防ぐ目的で作成された(14)。国立科学コミュニケーション情報資源研究所(National Institute of Science Communication and Information Resources:NISCAIR)など4つの政府機関による共同プロジェクトである。
  • Kalasampada(15)


     インディラ・ガンディー国立芸術センター(Indira Gandhi National Centre for the Arts)による、インドの文化遺産を集めた電子図書館。画像、映像、図書、手稿類等、多様な媒体の資料を含んでいる。英語とヒンディー語での検索が可能である。

 

機関リポジトリ 

 機関リポジトリは、上述のように科学技術関係機関、大学等の研究機関で多く構築されている。ただし、表を見ても分かるように、収録されているコンテンツの数は多くない(日本では、レコード数が10,000以上の機関が18機関ある)(16)。国内に多くの教育研究機関が存在するにもかかわらず、コンテンツが増えない原因としては、電子データの収録が義務化されていないことが指摘されており(17)、今後の課題と言えるだろう。 

 機関リポジトリの構築にあたっては、全世界でオープンソースのソフトウェアが多く使われており、インドでも同様である。日本でもよく知られている代表的なソフトウェアとしては、DSpace(CA1527参照)やEPrintsがある。インド国内での2007年後半の調査では、一般に公開されている電子図書館・機関リポジトリのうち、DSpaceを使用している機関が22機関、EPrintsは11機関、Greenstone Digital Library(GSDL)(18)は4機関、機関独自に開発しているのは5機関との結果が出ている(19)。GSDLとは、発展途上国における電子図書館の構築を支援する目的で、ニュージーランドのワイカト大学がユネスコとベルギーのHuman Info NGOと協力して開発し、無償で配布しているソフトウェアのことである(E744E873参照)。2008年12月時点で49言語に対応しており、ベンガル語、タミル語、マラーティ語、カンナダ語等、インドの言語も多数含まれる。インドにおいては、インド経営大学コジコデ校(Indian Institute of Management, Kozhikode)が中心となって南アジア地域での普及のサポートを行っている(20)

 

課題

 これまでインドで発表された電子図書館に関する論文は、技術、資料の電子化といった事項に偏っており、人材育成や管理運営、著作権や政策に関するものはほとんど見られない(21)。こういった面での研究が今後の課題であろう。 

また、インドで使われている言語は、憲法で制定されているものだけでも22言語、すべての言語を含めると200とも300とも言われている(22)。電子図書館においても、欧米言語に限らず多様な言語への対応が必要である。今後も、インドの電子図書館開発の推移を見ていきたい。

関西館アジア情報課:水流添真紀(つるぞえ まき)

 

(1) Mahesh, G. et al. Digital Libraries in India: A Review. Libri. 2008, 58(1), p. 16. 

(2) Universiry of Mysore. “Vidyanidhi : Digital Library and E-Scholarship Portal”. 
 http://www.vidyanidhi.org.in/, (accessed 2008-12-16). 

(3) INFLIBNET Centre. “IndCat : Online Union Catalogue of Indian Universities”.
 http://indcat.inflibnet.ac.in/, (accessed 2008-12-16). 

(4) “National Library, India”. 
 http://www.nationallibrary.gov.in/index2.html, (accessed 2008-12-16). 

(5) C-DAC. Mobile Digital Library.  
 http://mobilelibrary.cdacnoida.in/, (accessed 2008-11-13), 

(6) C-DAC. “C-DAC releases for new products at ELITEX’ 2003”. 
 http://www.cdac.in/html/events/elitex/elitex.asp, (accessed 2008-12-19). 

(7) International Telecommunication Union. “ICT Statistics Database”. 
 http://www.itu.int/ITU-D/ICTEYE/Indicators/Indicators.aspx, (accessed 2008-12-16). 

(8) UNESCO. “Open Access to Knowledge and Information: Scholarly Literature and Digital Library Initiatives; the South Asian Scenario”.  
 http://portal.unesco.org/ci/en/ev.php-URL_ID=26393&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html, (accessed 2009-2-20). 

(9) International Institute of Information Technology, Hyderabad. “Digital Library of India”. 
 http://dli.iiit.ac.in/index.html, (accessed 2008-12-17). 

(10) Indian Institute of Science, Bangalore. “Digital Library of India”.
 http://www.new.dli.ernet.in/index.html.en, (accessed 2008-12-18). 

(11) IIScのサイトから、スキャニングに参加している機関ごとの作業冊数・ページ数が見られる。 
 Indian Institute of Science. “ Scanning Centre Wise Report”. Digital Library of India.
 http://www.new.dli.ernet.in/cgi-bin/status.cgi, (accessed 2008-12-26). 

(12) Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 299. 

(13) “Traditional Knowledge Digital Library”.
 http://www.tkdl.res.in/, (accessed 2008-12-17). 

(14) 伝統的な知識は、口承されたり、サンスクリット語など非ローマ字で記録されたりすることも多かった。欧米言語に翻訳してWeb上に公開することにより、(多くは先進国の)企業が不正に特許申請したとしても、審査機関が感知することが可能になる。 

(15) Indira Gandhi National Centre for the Arts. “Kalasampada”.
 http://ignca.nic.in/dgt_0001.htm, (accessed 2008-12-17). 

(16) Registry of Open Access Repositories(ROAR)に登録されている日本のリポジトリのうち、レコード数が10,000件以上の機関の数(国立情報学研究所(NII)も含む。2008年12月17日時点)。 

Registry of Open Access Repositories.
 http://roar.eprints.org/. (accessed 2008-12-17). 

(17) Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 301. 

(18) “Greenstone Digital Library Software”. 
 http://www.greenstone.org/. (accessed 2008-12-17). 

(19) Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 286-302. 

(20) CDDL-IMMK. “Greenstone Support for South Asia”.
 http://greenstonesupport.iimk.ac.in/. (accessed 2008-12-17). 

(21) Mahesh, G. et al. Digital Libraries in India: A Review. Libri. 2008, 58(1), p. 22. 

(22) 広瀬崇子ほか. 現代インドを知るための60章. 明石書店, 2007, p. 196-198.

 

Ref.

Mittal, Rekha et al. Digital Libraries and Repositories in India: an Evaluative Study. Program: Electronic Library and Information Systems. 2008, 42(3), p. 286-302. 

Mahesh, G. et al. Digital Libraries in India: A Review. Libri. 2008, 58(1), p. 15-24. 

 


水流添真紀. インドの電子図書館と機関リポジトリ. カレントアウェアネス. 2009, (299), p. 5-7.
http://current.ndl.go.jp/ca1682