CA1222 – IFLA書誌部会書誌調整と全国書誌に関する調査結果 / 長嶺悦子

カレントアウェアネス
No.231 1998.11.20


CA1222

IFLA書誌部会書誌調整と全国書誌に関する調査結果

1996年,国際図書館連盟(IFLA)書誌部会は書誌調整と全国書誌に関する調査を行った。この調査の目的は以下の点についての現状把握である。1)国家機関による書誌調整の対象範囲,2)機械可読形態の採用は増えているか,3)全国書誌の出版形態は従来の印刷形態の他,新しい形態にも対応しているか,4)納本制度が採用され,有効に機能しているか,5)全国書誌レコードがオンライン利用可能か,6)全国書誌を提供する理由,7)最近2年間,全国書誌に大きな改訂があったか,また今後2年間に全国書誌の内容や提供形態の改訂を計画しているか。

この調査は英語のみで行われた。多肢選択式の設問を主として,調査票の最終ページに補足意見の欄が用意されている。調査対象は国立図書館長会議のメンバーとした。ただし,国立図書館と関係がないオブザーバーは除いている。最終的に世界各国・各地区から64の有効回答を得た(回答率52%)。書誌調整について回答できる機関が単一ではない国もあり,必ずしも1国1機関ではない。

これらの回答を各国の経済的地位によって区分し,集計比較を行った。

経済発展レベルによる回答分布は,先進国26機関(40.6%),旧ソ連圏12機関(18.8%),発展途上国26機関(40.6%)であった。調査全体の目標には発展途上国からの情報を得ることも含まれていたので,このグループから得られた回答は満足のいく数といえよう。

1. 書誌調整対象

図書,逐次刊行物はほぼ全ての機関で書誌調整の対象となっている。以下,自国の政府刊行物,会議録,教科書,国外刊行の自国に関する図書,地図などが続き,伝統的なテキストフォーマットほどよく扱われていることが分かる。

2. 書誌調整の標準化と機械可読レコード

英米目録規則(AACR)が英語圏に限らずもっとも多く採用されており,AACR-II準拠の独自の目録規則を使用している機関もあった。AACR以外では,国際標準書誌記述(ISBD)を採用している機関も少数だが存在した。

分類に関しては,デューイ十進分類法(DDC),続いて国際十進分類法(UDC)が圧倒的である。詳細は不明だが,独自の分類表を用いているとの回答もあった。

件名標目は更に複雑である。主題アクセスには分類を用いていると回答した機関が1割程度存在した。3割の機関がアメリカ議会図書館件名標目表(LCSH)を用いていたほか,LCSH準拠の独自の件名標目表,シソーラスやシアーズ件名標目表,連鎖索引(chain indexing)を用いている機関も少数あった。将来,件名標目については詳細な調査をするべきであろう。

機械可読形態の採用については,8割の機関が既に作成,または2年以内に導入を計画中である。機械可読形態の計画がないのは全て発展途上国の機関であった。フォーマットはUNIMARC,USMARC,UKMARCを含むMARCフォーマットが殆どである。

3. 全国書誌

全国書誌を作成しているか,という質問には,ほとんどがYesと回答している。Noは米国議会図書館のみで,作成はしていないが国内出版物の書誌調整は行っている,という少々含みのある回答であった。書誌調整の対象資料全てが全国書誌に掲載されるかどうかは,1/3がNoと回答している。新しい形態の資料と特別資料を除外する傾向があるようだ。

全国書誌の提供媒体の変化を見極めることは,この調査のポイントであった。9割が印刷媒体での提供だが,CD-ROM,磁気テープ,フロッピーディスク,マイクロフィッシュ等も採用されている。また,多くの機関は複数の媒体で提供している。累積版を提供していない機関は2割を超えている。旧ソ連圏や発展途上国でも,磁気テープ,フロッピーディスク,CD-ROMが多く利用されている。

納本制度は9割の機関で存在する。ここでは,技術の変化や新しい出版形態に関して,納本制度を強化すべきだとのコメントが見られた。

オンラインでの提供は7割程度で実施していた。発展途上国でも半数の機関が実施しており,オンラインアクセスが先進国以外にも広がりつつあることが分かる。この質問に回答した内,旧ソ連圏や発展途上国を含む半数近くがインターネットアクセスを提供していたことは特に興味深い。当該機関で所蔵がない自国発行資料へのオンラインアクセスが可能な機関は,約半数であった。

全国書誌の利用目的で最も重要とされたのは「自国の出版物の記録」で,以下,「他機関の目録,国内出版資料の書誌調整のために書誌データを提供するため」,「他の図書館や機関の国内出版物選書のため」,「分担目録のため」,「IFLAが策定する世界書誌調整のため」と続いた。おおざっぱな傾向だが,これらの回答から全国書誌の重要性は,各国の知的生産物の国家記録という点にあることが確認された。

全国書誌の改訂について,半数以上の機関が過去2年間に何らかの改訂を行っている。詳細は不明だが,たとえばCD-ROMへの移行,電子出版のような新しいフォーマットへの移行などが含まれる。また,収録範囲,サービス範囲,整理方法,索引の変化もあろう。将来の改訂計画には,全国書誌の内容,従来に加えての対象資料の拡大,という回答が見られた。

また,提供方法の変更を計画している機関も存在する。多くは機械可読形態の追加である。驚くべきことに,マイクロフォーマットを検討している機関も3機関あった。それらを代替手段とし,紙媒体の廃止を計画している機関もいくつかあった。機械可読形態への切り替え計画は,特に旧ソ連圏,発展途上国で顕著である。これらの国々でもコンピュータ利用環境が整いつつある。

4. おわりに

この調査では選択肢を用いたが,全国書誌に関する情報はインタビューなしに集めることは不可能である。この点で調査は不十分だったとの反省点が残った。また,調査は各機関が単一の全国書誌を発行しているという前提に立っていたが,機関によっては形態や更新期間が異なるものを別扱いとしている傾向があったこと,「わかりません」という回答が多かったことも分析を阻害する要因として挙げられる。しかし,その点を考慮しつつも,ある程度の調査結果を得られたといえよう。

現在,IFLAでは新たなアンケートを行っている。納本制度,全国書誌サービス提供における協力,全国書誌作成機関のありかたに関するアンケートであり,文章回答を求めている。使用できる言語も7カ国語に増え,調査の成果が待たれる所である。

長嶺 悦子(ながみねえつこ)

Ref: Holley, Robert P. Results of a “Survey on bibliographic control and national bibliography, IFLA Section on Bibliography”. Int Cat Bibliogr Control 27 (1) 3-7, 1998