カレントアウェアネス
No.222 1998.02.20
CA1174
英国における“セルフサービス・ライブラリー”の流れ
近年,図書館関係の雑誌に,図書自動貸出返却装置の広告を見かけるようになった。これは,閲覧者自身に貸出や返却を行わせる一種のセルフサービス・システムで,いわゆる“無人カウンター”を目指すものである。現在主流となっているのは,銀行のATM(現金自動引出・預入機)と類似のもので,利用者が指示に従って利用者カードや図書を出すと,システムは,利用者が貸出制限冊数を超えていたり,延滞等により貸出が停止されていないかを確かめて,貸出を記録し,返却期限票を発行する。BDS(資料盗難防止装置)を設置している図書館では,磁気を抜いてBDSが作動しないようにする。予約や返却まで自動処理するシステムもある。
しかしながら,一見すると極めて合理的なシステムのようであるが,それがメリット,デメリット両方を兼ね備えていることをも考慮しなくてはならない。この種のシステムの導入が進むイギリスでの議論が参考になる。
報告では,メリットとして,1)スピードの向上,2)人件費の削減,3)耳の不自由な利用者にとって非常に利用価値が高い,といったことを挙げている。確かに,利用者が長蛇の列を作っている図書館にとっては,処理スピードの向上とそれによる混雑緩和のメリットは大きい。また,英国の財政赤字で人件費を抑えざるを得ない状況の中で,週に50時間以上の開館を要求する利用者に応える唯一の選択は,やはり「自動貸出」に見出されるのである。深夜までの開館が期待される大学図書館などでこの傾向は顕著である。3)についてはわが国でも考慮すべきではないだろうか。目に見えるかたちで応答する機械であればこそ,耳の不自由な利用者には操作が容易であろうし,求めがあれば職員が貸出を援助するといった仕組みにすれば,もっと多様な人々が利用するようになるのでは,と思われる。OPACに組み込み可能な点も見逃せないところである。
無人であることに伴う不正使用の可能性が最大のデメリットであろうが,他に挙げると,スキャナーが読みとれない位置にバーコードがあると反応を示さない,ということであろう。極めて正確な位置にバーコードを貼らないと,機械が読みとれないばかりでなく,貸し出そうとする利用者を憤慨させ,その対応に時間が取られてしまうことがある。不正使用の防止のために,利用者に認証番号の入力を求めるシステムでは,自分の番号を忘れて機械を操作できない利用者も少なくないという。
大学図書館などでは,まずまずの好評を得ているらしいが,新しい機械を操作することに躊躇する老人や児童が集う公共図書館にはあまり支持を得ていないことも事実なのである。
「自動貸出」を導入した図書館員は,成功のためには周到な準備と広報を怠らないことが不可欠だと語る。バーコードを正確に定められた位置に貼ること。そして,スタッフが「「自動貸出」は合理的なサービスを提供する」といった確信を持ってその宣伝をすることが重要であるという。
職員全体のなかでは,「自動貸出」の導入は自然の流れであって必要悪ではないか,との見方が強い。決して職員にとって代わるものなのではなく,限られた時間の中で,今までの単調な作業から離れて仕事の範囲を広げることを可能とする。経済的側面から見ても,スタッフを最小限に抑えて人件費を上げることなく,今後ますます増えていく利用者に対応しうるのである。
かつて,「自動貸出」を導入するに当たって,今まで対応してくれたスタッフがいなくなってしまうのではないか,との不安が閲覧者の間で広まったという。だが逆に,利用者のためにより細やかなサービスを持つゆとりが生まれつつあるのである。
こういった“セルフサービス・ライブラリー”をコンセプトとした技術の発展は,24時間開館といった可能性をも秘めている。日本国内の図書館においても,“セルフサービス”の概念が知らない間に広がりつつある。長野県川上村では,それぞれ図書とビデオの自動貸出機が設置してあり,利用者が自分で手続きをする「24時間図書館」に挑戦している。この,図書館界を変える試みは,当国会図書館にも受け入れられる日が来るのだろうか?
鈴木 三智子(すずきみちこ)
Ref: Morrow Virginia. To serve or not to serve, that is the issue. Libr Assoc Rec 99 (6) 312-314, 1997
澤田みな 小さな図書館の挑戦 図書館雑誌 91 (8) 634, 1997