CA1154 – ドイツにおける日本研究の現状および関係する図書館の資料構築の動向−日本関係情報の現状(5)− / Junko Bauermeister

カレントアウェアネス
No.218 1997.10.20

 

CA1154

ドイツにおける日本研究の現状および関係する図書館の資料構築の動向
−日本関係情報の現状 (5)−

ドイツにはいわゆる総合大学が現在50あまりあるが,そのうち半数以上の約30の大学に日本関係の講座が置かれている。一部は語学コースだけしか置いていないか,平行して日本の概要を紹介する程度の講義を設けているだけであるが,19校には独立した日本学科が置かれ,語学のほかに日本研究をテーマとする講義やセミナーが常設され,日本学の分野での修士号や博士号が授与される。

これらの日本学科のほとんどが哲学部に属することからわかるように,日本学の講座は伝統的には人文分野の文献学的研究が中心であった。1970年代の中頃に日本学者の一部から「文学・言語の領域だけでなく,社会科学の分野では現代日本における社会問題,経済学では日本経済の構造的変化と国際関係に力点を置いた研究を促進すべし」と論ずる動きがあった。そして1970年代後半から80年代初めにかけて,日本学がどうあるべきかをめぐっての論議が起こったのである(1)。「西ドイツの日本研究は何らの実効性のない趣味的な,いわゆる‘蘭の学問’に陥っているのではないか」という問題提起に対して,「日本−それは歴史と文化のない国か?」という反論がなされたのである。

日本への関心はこの頃から高まる一方で,1980年代の後半には各所に日本研究を推進するべく研究所や学会が設立されている(2)。また,1992年には政財界からの援助を受けて,ミュンヘン大学に従来の伝統的な方向を目指す日本学科とは別に,日本センターが開設された。ここでは日本の現状についての講義やセミナーや語学コースが大学外にも開放されている。

現在,社会科学的な分野にも日本研究の重点を置いているのは,ベルリン自由,ボッフム,ボン,デュイスブルク,ハレ,ハイデルベルク,コンスタンス,マールブルク,ミュンヘンなどの各大学である。1997年夏学期のプログラムによれば,このほかにも,デュッセルドルフ,エアランゲン,ハンブルク,ライプチヒなどの大学でも,たとえば「日本の政治形態とその経済への帰結」といったようなテーマで,講義やセミナーがおこなわれている。また,ミュンヘン大学の日本学科でも最近,日本の企業系列についての博士論文が提出された。

では,こうした傾向に対して,資料を提供する側の図書館にはどんな対応ができているのだろうか。財政状態が年々悪化している中では,研究の動向が変わったからといって大量に新しい分野の資料を購入することは不可能である。図書館相互の協力を充実させ,収集と利用の両面を合理化することが唯一の手段であろう。

ドイツではドイツ学術振興会(Deutsche Forschungsgemeinschaft)により戦後間もなく制定・実践された学術図書館資料分担収集の制度が,今もなお機能している。これは簡単に言えば,それぞれの図書館にもともと存在した蔵書の重点をそのまま生かして,各図書館に分野を割り振って収集させ,全体的に無駄をなくし,かつ,広く深く蔵書を構成しようとするものである。日本関係では,人文系のものはミュンヘンのバイエルン州立図書館,社会科学系はベルリンのプロイセン文化財団国立図書館,経済関係はキール大学付属の世界経済研究所図書館,そして技術関係のものはハノーヴァー大学・技術情報図書館がそれぞれ担当することになっている。最近では,たとえばデュイスブルクやマールブルク,ベルリン自由大学などの学科図書館や,Ifo経済研究所その他の専門研究所で,特徴のあるコレクションを持つところもある。

こうした,各所に点在する資料の利用を有効かつ合理的にするためには,目録を広く公開することとコピーサービスや相互貸借の手続を簡単にすることが必要である。相互貸借については東アジア関係資料用の青い請求票(3)等の工夫がかなりの成果を上げている。目録については,個々の図書館のOPACが外部からも簡単に利用できれば理想的である。また,ドイツ語圏なりヨーロッパなりの単位で総合目録があれば最良であろう。ただここには日本語というかなり厚い壁が存在する。

いずれにせよ,一層広く深くなる研究の関心,どんどん増える資料の数,限られた予算などの事実を見れば,専門資料を扱う図書館の相互協力の必要性が以前に増して強いのは当然である。ヨーロッパ全体では日本資料専門家欧州会議(EAJRS)に1990年以来,東西ヨーロッパはもとより,日本やアメリカからの参加者が研究発表や問題提起や議論のために毎年集まっている。ドイツ語圏でも2年ほど前に日本資料図書館連絡会が発足し,お互いのコンタクト,情報の交換,問題点の共同解決などにおいて活動している。また,最近になって電子化に伴う問題点を議論するワークショップも持たれた。こうしたイニシアチブの今後に期待したい。

Ifo経済研究所日本情報センター:Junko Bauermeister

注:(1)転換期の日本研究 西ドイツの場合 国際交流 (29) 26-39, 1981
(2)1986年にミュンヘンのIfo経済研究所に日本研究センター,87年にベルリン日独センター,88年にドイツ日本研究所(東京),89年に日独社会科学学会(Deutsch-Japanische Gesellschaft fur Sozialwissenschafte)その他が設立される。
(3)ベルリンの国立図書館東アジア部のイニシアチブによる,東アジア資料を扱う図書館に限られた相互貸借制度。