CA1069 – カンボジアの図書館の現状 / 宮島安世

カレントアウェアネス
No.202 1996.06.20


CA1069

カンボジアの図書館の現状

歴史的な不幸と東南アジア共通の自然の悪条件の中で多くのダメージを受けてきたカンボジアの図書館は,様々な問題をかかえながらも,今復興の道を歩んでいる。

カンボジアには,約50の図書館と記録センターがある(基本図書をわずかに備えているだけの学校図書館は除く)。国立図書館,国民議会図書館,仏教研究所,国立博物館に加え,省庁図書館が6館,高等教育機関の図書館が約10館,国際組織とか外国民間組織に付属する図書館が約20館,このうち4館以外はすべて首都プノンペンにある。

国立図書館(NLC)は,1924年12月創立,フランス植民地支配(1863-1953)の影響から,かつてはフランス語の図書を主体に約3万冊の蔵書を持っていたが,クメールルージュの支配(1975-1979)で,建物は食物や料理用品を蓄える倉庫となり,庭は豚や鶏の飼育場にされ,本や目録カードはまき散らされてしまった。それでも,1975年以前の蔵書は約80%が残っているが,保存状況はひどく悪い。1979年以後のものは専ら寄贈にたよるが,古いものが多く逐次刊行物はほとんどない。カンボジアの国語であるクメール語の出版物を出版すること自体非常に難しい状況であるため,収集はほとんどが外国の出版物である。職員も少なく,給与は月に20ドルから30ドルと低い。カンボジアの官僚機構の中で,NLCの権限は小さく,些細なことでも所轄官庁であるマスコミ文化省の決裁を受けなければならない。

1930年に設立され,仏教学,クメール文化の重要文献を所蔵していた宗教省の仏教研究所は1921年設立の王立図書館の機能を全て継承していたが,貴重な図書と文献資料は散佚し,建物も破壊されたため,再建復興のための支援を訴えている。

プノンペン大学(UPP)は,言語,科学,社会科学,歴史の4学部で6千人近くの学生が在籍している。中央図書館は約5千タイトルの英書コレクションを持ち,小さいがレファレンスコレクションももつ。最近やっと少額の補助金がつき,選書や購入の仕事が可能になった。第2キャンパスに,小さいが分館が設立され,海外からの寄贈本の受理や他館への配布を行うクリアリングハウスの役割を果している。

古い資料は,ほこり,虫,湿気,泥などによる被害が大きい。仏教国カンボジアには,パーリ語で,やしや桑の葉に書かれた写本がある。1989〜90年に,コーネル大学チームが,NLC,国立博物館,王立図書館の写本の保存に着手し,300点以上の貴重書を修復し空調整備の整った場所に別置した上で,マイクロ化し目録を作成した。

技術面では,フランスやオーストラリア政府からコンピュータ等が提供された。6つの図書館が,ユネスコで開発されたCDS/ISISという図書館用データベースソフトを用いている。また,クメール文字を処理するワープロソフト,クメール・インオフィス(KIO)が開発された。同様にウインドウズ対応のクメール語のソフトも開発された。破壊の中から再生の動きははじまったばかりだ。しかし,何よりも希望がもてるのは,国が,教育や文化遺産を維持するという図書館の役割を尊重してきた様に思えることである。

宮島 安世(みやじまやすよ)

Ref: March, E. A new beginning: redeveloping Cambodia's libraries. Asia-Pacific Library Conference, Brisbane, 1995.5.28-6.1: Conference Proceedings, Vol. 2. Brisbane, State Library of Tasmania, 1995, p. 1-13
カンボジア仏教研究所 カンボジア仏教研究所の存在価値 1995. 3 2枚(私信)