E630 – 都市をより強くする,公共図書館の役割

カレントアウェアネス-E

No.104 2007.04.11

 

 E630

都市をより強くする,公共図書館の役割

 

 都市はどうすればより「強く」なるのか?その目標において,公共図書館はどのような位置づけにあり,どのような役割を果たすべきなのか?都市図書館協議会(ULC: Urban Libraries Council)が,2007年1月,研究レポート「都市を強化する: 公共図書館は地域経済発展に貢献する」(Making Cities Stronger: Public Library Contributions To Local Economic Development)を発表した。

 ULCは,1971年に設立され,30年以上にわたり都市の公共図書館の強化に努めてきた図書館関係団体である。全米の約140の大規模・中規模都市の図書館,図書館関連企業,州の図書館協会などが参加する。研修や出版活動の他,21世紀における都市の図書館のあり方に関する様々な調査を手がけている(CA914参照)。イリノイ州エバンストンを本拠地にして活動を続けてきたが,この春にはシカゴにオフィスを移転し,さらに機能強化を図っている。

 このULCが発表した本報告書は,都市経済が製造・サービス産業を中心とするものから情報・知識産業を中心とするものへと変容し,都市が新しい経済競争の中で発展していくため戦略を再構築する中で,公共図書館がその中で果たすべき役割を改めて問い直す内容となっている。具体的には4つの事項について,実践事例を挙げつつ重要性を浮き彫りにしている。

  1. 子どもに対するリテラシー教育
    子ども,特に就学前の子どものリテラシー教育に対して投資することと,長期的な経済の成功との間に,強い正の相関関係があることを指摘し,図書館がその役割を果すことの重要性を説明している。優良事例としてロードアイランド州プロビデンス,カルフォルニア州サン・ルイス・オビスポなどを挙げている。
  2. 新しい情報技術の研修
    図書館のコンピュータ,インターネット,デジタルコンテンツなどが,多くの利用者にとって新しい情報技術への入り口となることを指摘し,就職活動を行う人などにとって新しい仕事への準備となることを説明している。実際92%の図書館が毎月コンピュータに関する研修を提供しており,優良事例としてテネシー州メンフィス,コネチカット州ハートフォードなどを挙げている。
  3. 小規模ビジネスへの支援
    小規模なビジネスにとって障壁である,製品,供給者,財務等に関するデータの入手を,オンラインのビジネス関係のデータベースなどを駆使して支援することの重要性を説明している。優良事例としてオハイオ州コロンバス,アリゾナ州フェニックスなどを挙げている。
  4. 図書館の建物自体が持つ都市の物理的発展の触媒としての機能
    図書館が高く認知されている建築物であり,建物の存在自体が地域の安定性,安全性,生活の質の向上に寄与するものであること,特にビジネス街の本館,商業地区に溶け込んだ分館の重要性などを説明している。

 このレポートからは,米国の都市の公共図書館が21世紀の社会経済の仕組みの中で作り上げてきた,あるいはこれから作り上げようとしている図書館の姿が垣間見られる。ビジネス支援,起業支援等のサービスの展開を考える上で参考になるレポートであろう。

Ref:
http://www.urbanlibraries.org/files/making_cities_stronger.pdf
http://www.urbanlibraries.org/jan1006makingcitiesstronger.html
http://www.urbanlibraries.org/
CA914