E2079 – 図書館員のファッション:第84回IFLA年次大会から<報告>

カレントアウェアネス-E

No.358 2018.11.22

 

 E2079

図書館員のファッション:第84回IFLA年次大会から<報告>

 

 本稿では2018年8月24日から30日にかけてのマレーシア・クアラルンプールにおける世界図書館情報会議(WLIC):第84回国際図書館連盟(IFLA)年次大会(E2078参照)で開催されたセッション,“Librarian fashion: what does the way we dress say about us?”について報告する。

 本セッションは8月27日の午前,他の部屋と比較し広大なカンファレンスホールで行われた。本セッションは図書館員としての尊厳を保ちつつ,多様なファッションを探るという目的のもと実施された。なお,本セッションの位置づけはNew Professionals Special Interest Group(NPSIG),Management of Library Associations Section(MLAS)および Public Libraries Section(PLS)による協同セッションである。

 セッションのリード文には以下のような問題設定がなされていた。「図書館員は制服を着用すべきだろうか。」「タトゥーは許可されうるものだろうか。」宗教的,あるいは文化的に多様な背景があるなかで,図書館員にはいかなる服装が望まれるのだろうか。

 本セッションは米国図書館協会(ALA)会長のLoida Garcia-Febo氏の講演により始まった。氏の講演の骨子として,ステレオタイプな図書館員のファッションから抜け出すこと,そして図書館員一人一人が,“Unique individual”であると示すことの必要性が論じられた。本講演では“Librarian Wardrobe”というウェブサイトの紹介がなされた。このウェブサイトは図書館員の服装を紹介・記録するものであり,現在も図書館員たちがそれぞれのファッションを投稿している。

 その後,各国の図書館員から髪型や服装など,ファッションをテーマとした7つの講演がなされた。

 特に印象に残った講演として,マレーシア・サラワク州立図書館の図書館員3人による“Wear the past in the present for the future”があった。ここではマレーシアの伝統的な生地“Batik Borneo”の服を着用し,図書館員が業務にあたっている事例が紹介された。また,髪型の変化が自己イメージの変容や利用者に与える印象の相違を紹介するため,壇上で実際に散髪を行う登壇者すらおり,セッション参加者からは,どよめきと好意的な反応をもって受け止められていた。

 本セッションにおける講演や事例報告に通底していたテーマは,多様性の重要さである。ステレオタイプ的な「図書館員」のファッションから抜け出し,図書館員一人一人のユニークで自由なファッションを認めていくことが,ひいては多様性や図書館サービスの向上に繋がっていくということが繰り返し論じられていた。また同時に,前述のマレーシアの事例でも触れられていたが,伝統的な服装をすることは未来への文化保存にも繋がるため,図書館員のファッションに採り入れることには意義があるということが議論された。

 約1時間半にわたるセッションの終盤では,実際にファッションショーが行われた。セッションの参加者がステージ上にあがり,一人一人の個性的なファッションを披露していた。アジアで開催されたこともあるせいか,鮮やかな伝統衣装を着て登壇した参加者もおり,会場では大きな歓声があがっていた。和服を着て登壇する日本からの参加者もおり,他国の伝統衣装と同様,多くの注目を集めていた。日本から本セッションに参加した複数名から「度肝を抜かれた」という発話があったことを記しておく。なお,このファッションショーの様子はFlickrのPhotostreamで見ることができる。

 本セッションはファッションという視点から図書館員像を検討したものであった。ややもすれば,日本における図書館員も常にある種のステレオタイプにとらわれた視線に晒されており,同時に「図書館員らしい」服装を図書館員自身が自己規定しているケースが多いと想定される。しかし,それぞれの文化的背景により,伝統的な衣服を着用することが伝統を守り,未来につながるケースもあれば,図書館員「らしくない」服装が,図書館の多様性を担保しているという事例があることが示されていた。本セッションで述べられた,“happy confident librarian is the better librarian(幸せで自信を持った図書館員が優れた図書館員である)”というフレーズはきわめて示唆に富むといえるだろう。

同志社大学図書館情報学研究会DUALIS・古畑花南子
愛知淑徳大学人間情報学部・岡部晋典

Ref:
https://npsig.wordpress.com/2018/08/26/librarian-fashion/
http://librarianwardrobe.com/
http://library.ifla.org/2271/1/142-jawi-en.pdf
http://library.ifla.org/2245/1/142-pun-en.pdf
https://www.flickr.com/photos/ifla/with/43722448475/
E2078