カレントアウェアネス-E
No.343 2018.03.08
E2003
学校図書館でのリブライズの活用と地域住民への開放の取組
岐阜県山県市(以下「当市」)では,2016年度に公立小中学校として全国で初めてコミュニティ型図書館ウェブサービス「リブライズ」を学校図書館の蔵書管理システムとして導入し,蔵書のデータベース化,ネットワーク化を進めている。2017年11月,他の学校に先駆けて約6,500冊の蔵書のデータベース化が完了した桜尾小学校では,リブライズの導入を機に将来的な地域住民への学校図書館の開放を目指し,2017年12月1日に一部地域住民への学校図書館の開放を始めた。ここでは,当市におけるリブライズの導入までの道のりと新たに始まった取組について紹介したい。
●リブライズ導入までの道のり
当市には市立小中学校が12校あり,うち4校では学校独自にパッケージ製品の学校図書管理システムを導入していた。全校共通のシステム整備の要望が学校側から市に継続的にあげられるなかで,「リブライズ」というコミュニティ向けの図書館開設ウェブサービスがあることを知り,このサービスの学校図書館における蔵書管理での利用の可能性について検討を始めた。
リブライズは書籍のISBNバーコード(ISBNがない場合は専用の書籍シール)を利用して蔵書のデータベース化を容易に実現できるウェブサービスであり,Facebookのアカウントがあれば無料で利用できる。蔵書登録及び貸出管理機能は,Facebookページを作成することで利用できる。Facebookアカウントを使用する代わりにリブライズ専用の管理者IDカード,利用者IDシールをリブライズから購入することで,蔵書情報や貸出情報を非公開にしてプライベートな環境で使用することもできる。プライベートな環境で使用する場合,リブライズのウェブページの「各地の本棚」に表示されず,グローバル検索の検索対象ともならない。専用のカードやシールの購入といっても,パッケージ製品の購入や有料のクラウドサービスの利用に比べれば圧倒的に低いコストで導入することができる。学校での利用にあたっては,児童生徒の貸出履歴などの個人に関する情報の扱いの観点からプライベートな環境での利用について検討を進めることにし,2016年11月に桜尾小学校において先行的に導入して実証実験を行い,学校図書館で使用するにあたっての課題の確認を行うこととした。
●実証実験で分かったこと
桜尾小学校では,リブライズへの蔵書登録を進めながら児童への貸出管理にも使い始めた。リブライズでの貸出返却処理は,利用者カードに貼り付けた利用者IDシールのバーコードと借りる本のISBNバーコードを管理端末のバーコードリーダーで読み込むことで実施できるため,主に図書委員の児童が実施することにした。また,リブライズに登録をした蔵書には小さなシールを背表紙に貼って登録済みであることを分かるようにした。リブライズによる管理と従来の手書きの図書カードによる管理の並行運用は,児童や学校の先生にとっては負担が大きかった。一方,児童は,管理端末で利用者IDシールのバーコードを読み込んだ際にその利用者が以前借りた本の表紙が一覧で表示されるという,リブライズ特有の画面を楽しみ,登録された本を好んで借りるなど面白がって使い始めた。このことは児童の読書活動を推進するうえで,リブライズを単なる貸出管理のツールとしてだけではなく,楽しんで読書をするために活用できるのではないかと考え始めるきっかけとなった。また,蔵書の登録完了後は貸出返却処理がスムーズに実施できるようになり,未返却本の管理の手間も軽減した。
一方で,パッケージ製品にはある貸出履歴の集計や図書台帳などの管理機能が,リブライズでは弱いことが改善点としてあがった。これに対しては,リブライズの開発者に学校現場を視察してもらう機会を設け,学校図書館での利用の様子を見てもらうなかで機能追加を要望し,蔵書一覧や貸出履歴などのデータのダウンロード機能を改善してもらうなど,解決に向け取り組んでいる。
また,プライベートな環境での利用であっても,管理者アカウントをグループ化してもらうことでグループ内の他校の蔵書のネットワーク検索ができ,リブライズによりネットワーク化も実現できることが分かり,全小中学校に導入を進めることになった。
●リブライズの活用~学校図書館のネットワーク化,地域開放の取組
2017年4月に全小中学校でリブライズを利用できる環境を整え,各学校において蔵書登録を進めてもらっている。2018年2月現在,約2万5,000冊の蔵書がリブライズ上に登録されネットワーク化されている。全学校で蔵書登録が完了すれば10万冊を超える蔵書が共有される見込みである。
桜尾小学校では,全蔵書の登録が完了したことを機に,児童や学校のためにリブライズをどのように使っていくかを考え,その一つとして地域住民への学校図書館の開放の取組を始めた。地域住民への開放を考えるにあたっては,単に蔵書の有効利用のみを目的とするのではなく,さらにその先に,学校図書館を地域住民と児童の交流の場とし,地域と学校の繋がりを強めていきたいという思いがある。これはまさに,本のある場所や本を媒介としたコミュニティ作りというリブライズの思想に通じるものでもある。まずは学校運営協議会のメンバーなどの教育活動に関わってくださっている地域住民に,利用者IDシールを貼り付けて作成した利用者カードを発行し貸出を始めている。開放の対象とする地域住民を広げていくにあたってのセキュリティ面の検討や開館の時間などのルール作りは,学校運営協議会において学校と地域が共に考えている。貸出を始めて3か月余りが経過し実際に借りた方に聞いてみると,小学校の蔵書でも大人が楽しめるものは意外とあるようである。
今後もリブライズで検討中の「読書ノート機能」や「蔵書へのコメント登録機能」などを活用したり,ネットワーク共有機能を活用したりし,児童生徒が読書を楽しむための新たな取組が各学校で始まることを期待している。また,当市の一部地域も含め,山間部の過疎地域では,近隣に書店や公共図書館がない地域もあり,学校図書館そのものの有効な活用方法があるのではないかと感じている。
山県市教育委員会・平野裕也
Ref:
http://www.city.yamagata.gifu.jp/lsc/lsc-upfile/article/02/46/10246_1010_file.pdf
http://www.city.yamagata.gifu.jp/lsc/lsc-upfile/article/04/19/10419_1013_file.pdf
https://librize.com/pages/20171127-adopted-by-yamagata-city-schools
https://librize.com/places