E1910 – プログラミング教育と図書館:ALAによる調査と提言

カレントアウェアネス-E

No.324 2017.04.27

 

 E1910

プログラミング教育と図書館:ALAによる調査と提言

 

    2017年3月に公示された次期学習指導要領では,小学校でのプログラミング教育が2020年度から必修とされた。プログラミング教育の目的は,国の経済的発展や将来の雇用のために,子どもにプログラミング言語を用いたコーディング技術を身に着けさせることにあるのではなく,試行錯誤しながらコンピュータに意図した処理を実行させる体験をすることで,問題解決力・論理的思考力・創造性といった,これからの時代に必要な「プログラミング的思考」を育成することにあるとされている。

    世界的にも,プログラミング教育を,国の教育カリキュラム内に位置づける流れがある。米国では,2016年1月,オバマ政権(当時)が,全ての子どもに,学内外でコンピューターサイエンスを学べる機会を提供する“Computer Science for ALL”事業を開始した。これを受け,米国図書館協会(ALA)の情報技術政策局(OITP)は,2016年4月,Google社の助成金を得て,“Libraries Ready to Code”プロジェクトを立ち上げた。

    同プロジェクトは,学校図書館・公共図書館(以下,図書館)で実施されている子ども向けのプログラミング教育活動の現状を把握するとともに,その活動を普及させることを目的としている。その最初の取組として,立地や規模が様々な図書館の職員を対象としたインタビュー(個別,フォーカスグループ)や,図書館ウェブサイト・文献のレビューを通じた現状調査が行われた。本稿では,2017年1月に発表された調査報告書のなかで述べられている,図書館でプログラミング教育活動を実施することの利点と,活動のさらなる進展のための提言を紹介する。

    報告書では,放課後に利用でき,かつ,プログラミング教育に対応可能な職員やパソコンやインターネットへのアクセス回線といった設備が存在し,学校や地域といったコミュニティの連携拠点となっている特徴から,図書館がコミュニティ内でのプログラミング教育の要と位置付けられていることを指摘する。また,図書館が学外で実施することで子どもの関心を維持し高めていること,学校カリキュラムに位置づけられていない場合には,図書館の取組が学習の契機となっていることが紹介されている。加えて,偏見や貧困,不十分な設備やサービス等の理由から,学外で学ぶ機会に恵まれない,女性・有色人種・貧困層や,地方在住の子どもが,通信料金を気にせず,また,大型のディスプレイを用いて学ぶことができるといった,デジタル包摂社会を実現する場(E1874参照)としての図書館の機能にも言及されている。

   そして,このような利点を発展させるため,職員の能力開発,財源の確保,コミュニティ内での戦略的連携の拡大といった施策の必要性が指摘され,次のような提言がなされている。

    まず,図書館員へは,プログラミング教育実施のための能力開発を求めている。子どもへのコーディング技術自体の指導は,“Hour of code”のような,プログラミング普及活動の支援を受ければよく,図書館員は,子どもの関心に寄り添って指導できるメンターとしての能力を身に着ける必要があるとする。加えて,学校と連携するとともに,図書館で実施する意義を示すことが求められている。図書館長・教育長は,プログラミング教育を図書館サービスに位置づけ,新たな職員像を創造し,図書館員の能力開発を促す役割を担う。

    次に,州立図書館や地域の図書館協会へは,若者のニーズ調査,研修の開催,ツールやベストプラクティスの共有,実践コミュニティの創設,州内での連携の促進等を通じた現場の支援が提言される。また,ALAには,上記に加え,活動助成プログラムの実施など,全国規模での活動支援が求められる。そして,図書館情報学大学院は,研究・図書館員養成機関として,図書館で実施する意義に関する研究の推進や,関連授業の開講,現役図書館員の能力開発支援を行うとされる。

    報告書では,コミュニティの様々な組織に対しても,図書館の取組への支援を期待する。まず,高等教育機関,子どもの放課後活動支援組織,民間企業には,教員・学生・従業員がメンターとして関与することを求めている。それは,実社会でプログラミングを活用している研究者や社会人に接することが,子どもが自身の将来像を描くのに役立つからであるという。その他,民間企業や助成団体による助成プログラムの実施に加え,政府や議会へは,当該分野の調査や施策の検討の際に図書館を対象に含めることを要求している。そして,図書館員は,このような連携において,主導性を発揮することが求められている。

    日本では,2017年2月,プログラミング教育の普及・推進を目的とした官民連携の「未来の学びコンソーシアム」が設立された。それに先立ち,総務省・文部科学省が,調査や実証実験を行っており,実施にあたっての,都市・地方や性別による教育格差や,ICT環境が整備された会場確保の困難性,メンターの養成・確保といった課題が明らかにされている。これらの課題は,先に見た米国の調査でも指摘されているが,日本の場合,学外での実施場所やメンターを担う人材として,子どもの放課後活動支援組織が言及される一方で,図書館や図書館員はそのようなものとして位置付けられていないようである。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/122/attach/1372525.htm
https://obamawhitehouse.archives.gov/blog/2016/01/30/computer-science-all
http://www.ala.org/news/press-releases/2016/04/ala-google-launch-libraries-ready-code-0
http://www.ala.org/tools/readytocode
http://www.ala.org/advocacy/sites/ala.org.advocacy/files/content/pp/Ready_To_Code_Report_FINAL.pdf
http://hourofcode.jp/
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/02/1381853.htm
https://miraino-manabi.jp/
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jakunensou.html
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jakunensou/02ryutsu05_04000111.html
http://programming.ictconnect21.jp/
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1375607.htm
E1874