E1880 – オープンサイエンスの潮流と図書館の役割<報告>

カレントアウェアネス-E

No.318 2017.01.26

 

 E1880

オープンサイエンスの潮流と図書館の役割<報告>

 

   2016年11月15日,国立国会図書館(NDL)東京本館で国際シンポジウム「オープンサイエンスの潮流と図書館の役割」が開催された。本シンポジウムは,欧州の研究図書館や国立図書館でのオープンサイエンスに対する取組の現状を踏まえ,日本におけるオープンサイエンスの在り方と図書館が果たすべき役割を考えることを目的としたものであり,当日は研究者や図書館員など200名を超える参加があった。

   羽入佐和子NDL館長の開催挨拶に続き,欧州研究図書館協会(LIBER)会長で,フィンランド国立図書館(NLF)図書館ネットワークサービス部長のホルミア=ポウタネン(Kristiina Hormia-Poutanen)氏の講演が行われ,オープンサイエンスに対するLIBER,欧州委員会(EC),NLFでの取組が紹介された。

   まず,LIBERではオープンサイエンスを重要な戦略として位置付けており,欧州の図書館に対するオープンサイエンス推進の支援,研究者への助言や指針の提供,欧州連合(EU)やECに対する著作権や研究データマネジメント等に関するアドボカシー(政策提言)などに取り組んでいることが報告された。また,今後の戦略として,分野の垣根を越えて研究データ等の利活用が可能となる研究インフラの開発支援などを目指しているとの紹介があった。

   次に,ECでは,EUの研究資金助成プログラム“Horizon 2020”によって生み出された研究データの共有と利活用の最大化を目指していたり,分野や国境を越えて研究データを保存,共有できるサービス“European Open Science Cloud”(EOSC)の構築に着手していることのほか,欧州でのオープンサイエンス関連の政策立案と実施の支援を目的に構成されたECの専門家グループ“Open Science Policy Platform”(OSPP)の活動内容などについても紹介があった。

   そして,オープンサイエンスの推進を国家的戦略として掲げているフィンランドでは,国内の図書館が積極的に国のイニシアチブや各種プロジェクトに参加しているとの報告があった。特に,NLFでは“Open National Library Policy”と“The Digital Humanities Policy of the NLF”の2種類のポリシーを策定しており,前者ではオープンサイエンスやオープンアクセスなどの推進を,後者ではデジタル人文学研究の推進を目的として,NLFの持つ情報資源のキュレーションを行うことや研究ツール開発への参加などをNLFの役割として定めているとの紹介があった。

   講演の最後には,オープンサイエンスにおいて図書館が果たすべき重要な役割として,研究者や学生に対するオープンサイエンスの啓発や研修,データマネジメントやデータディスカバリの支援,デジタル基盤の整備などが挙げられ,特に国立図書館には,ほかの図書館に対してオープンサイエンスの推進に関する指針,ツール,研修などを提供するという役割があることが強調された。また,オープンサイエンスは国際的な潮流であるため,図書館同士が連携し,グローバルにこれを推進していくことが重要になるとの考えが示された。

   次に,情報通信研究機構(NICT)統合ビッグデータ研究センター研究統括の村山泰啓氏から日本におけるオープンサイエンスへの取組の近況と課題が報告された。その中で,社会と科学的知見を共有するためには,図書館が研究機関や出版者と共に,研究成果を公開,保存,利活用するサイクルを形成することが必要との指摘があった。このほか,研究データを共有するデジタル基盤の整備では,これまで出版物を対象として培ってきた経験を活用し,研究データに対してメタデータや識別子を付与する作業に図書館が貢献できると述べられた。

   シンポジウムの後半では,ホルミア=ポウタネン氏,村山氏,国立情報学研究所(NII)所長の喜連川優氏による鼎談が行われた。

   始めに,喜連川氏からNIIでのオープンサイエンスに対する取組の紹介があり,研究データを共有するためのデジタル基盤として,NIIが提供するJAIRO Cloudの活用を検討していることが述べられた。また,地球科学分野における研究データの共有と利活用の実例が紹介された。

   続いて,オープンサイエンス推進における課題や将来像,図書館が果たすべき役割について,村山氏をモデレータに意見交換が行われ,オープンサイエンスのポリシーの具現化に関する欧州の現状や研究データに付与するメタデータの作成に関する課題およびNLFでの取組事例など,様々な話題が取り上げられた。

   図書館の役割に関しては,NDLが欧州の図書館での取組例に倣い,研究者に対する研究データマネジメントの啓発と支援を推進するべきとの提案があったほか,研究データのオープン化にかかる作業が研究者の負担にならないよう,図書館は各分野の研究者やコンピュータ科学者と連携し,負担削減のツールを作り出すことが求められる,との指摘もあった。また,研究データ共有に対して研究者にインセンティブを付与するためには,自身の研究データがどれだけ利活用されたかを,論文の引用数と同じように研究者の評価指標として扱う仕組が必要だとされ,図書館がこれを強く政策提言していくことが重要になる,との考えも示された。

   本シンポジウムのプレゼンテーション資料と記録は,NDLのウェブサイトに掲載されている。

利用者サービス部科学技術・経済課・島﨑憲明

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/20161115symposium.html
http://libereurope.eu/
http://libereurope.eu/wp-content/uploads/2014/09/LIBER_Statement-on-open-science-final.pdf
http://libereurope.eu/strategy/
http://libereurope.eu/blog/2016/07/13/liber-strategy-2018-22-say/
http://ec.europa.eu/research/press/2016/pdf/opendata-infographic_072016.pdf
http://ec.europa.eu/research/openscience/index.cfm?pg=open-science-cloud
http://ec.europa.eu/research/openscience/index.cfm?pg=open-science-policy-platform
http://www.openscience.fi/
http://www.minedu.fi/export/sites/default/OPM/Julkaisut/2014/liitteet/okm21.pdf
https://www.kansalliskirjasto.fi/en
https://www.kansalliskirjasto.fi/en/duties-and-strategy