カレントアウェアネス-E
No.296 2016.01.21
E1754
国文研「歴史的典籍オープンデータワークショップ」<報告>
国文学研究資料館(以下「当館」)では2014年から「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」を実施しており,30万点の古典籍画像を搭載したデータベースの構築と,それを基盤とした国際共同研究ネットワークの形成を事業の柱として,国内外の大学等と連携しながら本計画を推進しているところである。その事業の一環として,2015年11月10日,「国文研古典籍データセット」を国立情報学研究所(NII)の情報学研究データリポジトリ(IDR;E1755参照)において公開した。これは,当館が所蔵する古典籍の画像・書誌データ350点から成るものであり,クリエイティブコモンズの「表示-継承」(CC BY-SA)ライセンスのもと公開している。
そして2015年12月18日,当館は「歴史的典籍オープンデータワークショップ~古典をつかって何ができるか!じんもんそん2015~」をメルパルク京都で開催した。このワークショップは,公開予定の画像データベースを構築する際のアイデアや,このデータセットの活用方法を考えてもらい,かつ古典籍の魅力を知ってもらおうと企画したものである。またこれは「アイデアソン」と位置づけ,NIIとの共催,日本デジタル・ヒューマニティーズ学会及び情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会の後援で,同研究会主催の「じんもんこん2015」(12月19日~20日・於同志社大学)の併催イベント「じんもんそん2015」としても実施した。
ワークショップは2部構成とした。第1部は「歴史的典籍オープンデータを知る」とし,まず当館の山本和明古典籍共同研究事業センター副センター長が上記計画の概要と,古典籍のデジタル化に期待されることなどを説明した。続いて,国立歴史民俗博物館の後藤真准教授と当館の海野圭介准教授からは,『豆腐百珍』『寛政武鑑』『画本虫撰』など,それぞれ「国文研古典籍データセット」の中で特徴あるいは面白みのある資料の解説を中心に,古典籍の愉しさと奥深さについての紹介があった。
第2部ではNIIの大向一輝准教授をコーディネーターとし,「歴史的典籍アイデアソン」を実施した。冒頭のオリエンテーションで,この時間は「国文研古典籍データセットを使って何ができるか?」「どういう活用方法が考えられるか?」というグループディスカッションを行い,最後にグループごとにアイデアを発表してもらうこと,実現可能性にはこだわらず自由で多彩なアイデアを検討してほしいことなどの説明があった。
この日は研究者や図書館員,大学院生など45名もの参加者があり,第2部開始時に1グループ5,6名からなる8グループが作られた。会場には,ディスカッションのヒントとなるよう古典籍(原本)を展示し,自由に触ってもらうようにした。また11月のデータセット公開後,いちはやく構築された「国文研データセット簡易Web閲覧」ページの紹介が,製作者である人文情報学研究所の永崎研宣氏からあり,各グループそれぞれで古典籍に触れたり,古典籍の画像を見比べたりしながら,いろいろな意見を出し合った。第2部に入ってからは,休憩時間になっても席を立つ人が非常に少なく,いずれのテーブルでも活気のある白熱したディスカッションが続いた。こうした状況にやや驚きつつも,参加者が本イベントを楽しんでくれていることを実感することができ大変嬉しく感じた。
最後は,各グループの代表1名ないし2名で,2分間の発表が行われた。そこでは「画像データから絵を切り出して画像データバンクを作ろう」「江戸の料理本に書かれた料理を再現して,料理レシピのウェブサイト「クックパッド」に投稿しよう」といったアイデアのほか,「古典籍に描かれた文化や風俗を実際に体験できる場所を(当館がある立川市に?!)作って古典の世界を体感してもらおう」といった案も出された。また,「くずし字を読める人と読めない人を繋ぐ仕組みが必要」といった古典籍特有の意見や,必要な画像を切り出す作業や画像のタグ付け作業,翻刻作業はクラウドソーシングで実現,成果としてのデータは全てオープンデータで公開というような,近年の社会や学術分野の動向と結びついたアイデアも多く出された。
今回出されたアイデアは,すぐに具体化されるとは限らないが,当館の教職員だけでは思いもつかなかった古典籍の利用可能性に関して多くの示唆をいただいた。また,参加者が怖々と,しかし興味津々に古典籍を手に取り,画像データを「読めないけど,何か楽しそう」と眺める様子からは,古典籍が持つ魅力を改めて認識することができ,これも我々にとって貴重な機会だった。このイベント等を契機に今後も「国文研古典籍データセット」が引き続き有効活用され,当データを活用した事例が多く現れることを期待しつつ,更なるデータのオープン化のための準備を進めていきたい。また,大型プロジェクトの円滑な進展により古典籍が教育・研究活動に使われることはもちろん,広く一般の人にも古典籍を親しんでもらえるよう,今後も様々なイベントを開催していく予定である。これからの当館イベントに是非注目いただきたい。
国文学研究資料館・中村美里
Ref:
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/
http://www.nii.ac.jp/dsc/idr/nijl/nijl.html
http://jinmoncom.jp/sympo2015/
http://www2.dhii.jp/nijl_opendata/openimages.php
http://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/20151218_ideathon.html
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