カレントアウェアネス-E
No.294 2015.12.10
E1744
第2回シンポジウム「図書館多読への招待」in東京<報告>
2015年11月9日,新宿区四谷地域センター12階の多目的ホールを会場として,第2回「図書館多読への招待」シンポジウムがおこなわれた。主催はNPO多言語多読,協力が新宿区立四谷図書館で,参加者は54名,そのうち図書館関係者(司書,教員など)が50名で,宮城県や長崎県など全国各地から多くの参加があった。
まず,NPO多言語多読理事長の酒井邦秀氏,四谷図書館館長の大畑公平氏より,開会の挨拶があり,午前の部がスタートした。基調講演として酒井氏から「英語多読への招待,図書館の森に多読の木を植えよう」と題した講演があった。
多読とは酒井氏が2002年頃に初めて提唱した,三原則「辞書はひかない,わからないところはとばす,合わないときはやめる(他の本にする)」に基づき,楽しく,英語のやさしい本から始める学習法である。講演ではわかりやすくユーモアを交え多読を支える三本の柱と図書館の役割について初心者向けに語った。
続いて英語多読ワークショップでは,講演の際に語られたオックスフォード大学出版局から出版されている英国のリーディング教材“Oxford ReadingTree”を,会場の参加者は一人一冊ずつ手にして,実際に本を読みながら多読を体験した。
午後は図書館における実践報告がおこなわれた。まず豊田高等専門学校(以下豊田高専)の西澤一氏から,「東海地方図書館の多読向けサービス10年」として,先進的に多読に取り組んできた10年間を振り返る実践報告があった。愛知県では2004年に小牧市立図書館,蒲郡市立図書館が英文の,多読のための図書(以下多読図書)の専用コーナーを設け市民サービスを開始し,現在では愛知県下の12館をはじめとする東海地方の図書館に広がったという。また,豊田高専ではグローバルに活躍する技術者には必須である英語への苦手意識克服のため,2002年に電気・電子システム工学科が多読授業を導入,2004年に6年継続プログラムに発展し,2008年には全学科(1,2年)にも多読授業を展開し,以降継続して実施され,効果を上げているとのことであった。同校の図書館は多読図書3万2,000冊を地域に開放しており,2009年以降は年間8,000冊の館外貸出実績があるという。西澤氏は,多読体験会,多読クラブ,公開授業等の各種イベントを通して地域の社会人にも多読を広め,地域の図書館には導入相談や市民向け多読講座の講師として赴くなど,積極的に活動しているとのことであった。
続いて,岐阜県の多治見市図書館の飯沼恵子氏からは「あつまる・まなびあう・つながる図書館を目指して」と題して,多治見市で行われている多読サービスの報告があった。2014年度に英語多読が図書館事業に位置づけられ取組みが開始された。資料の購入からコーナー開設までの選書や書誌登録に関する悩みを,多読図書を先進的に受け入れている図書館に相談しながら導入したことや,多読コーナーのサインの工夫,シリーズ別リストの作成といった実務に則した内容は,図書館関係者にとても参考となるものであった。また,市民向け英語多読の講座を多く開催しているとのことで,図書館を多読仲間の交流の場にするという目的で始まった市民向け多読クラブ「多治見多読を楽しむ会」に幅広い世代が活発に参加している様子が伝わってくる内容であった。講座の実施に連動して貸出実績が増加することにも言及され,今後も利用者の継続的支援,蔵書の拡充などサービス拡大を目指すという。
次に東京都の公共・学校図書館における英語多読について筆者から報告を行った。東京都で多読図書を置いてある公共図書館は,一般に利用者からの要望を受けて購入していて,体系的な多読図書の蔵書構築を行えている状況ではない。英語多読講座を開催したことがある墨田区立ひきふね図書館や,都立多摩図書館では多読コーナーを設置しているが,以前訪問し伺った話では,今後は英語多読図書を拡充していきたいということであった。学校図書館では私立の中学高校での導入が進んでいて,都立高校の授業で自校の図書館の多読図書を活用した実践例と,大学図書館でも多読図書を置く大学が増えていることを報告した。
続いて新宿区立四谷図書館の遠藤ひとみ氏から,2011年度から始めた英語多読コーナーの歩みについて報告があった。多読講座が定期的に開催され,都内でも多読図書の豊富な図書館となっており,他区市からの相互貸借制度を利用した貸出依頼が多いのも特徴となっているとのことである。
最後に株式会社カーリル代表取締役の吉本龍司氏から,豊田高専電気・電子システム工学科とカーリルが共同開発している多読図書の内容や所蔵館の情報などをネット上で確認可能なサービスである多読学習支援システム「多読ナビ」(tadoku navi)の紹介と,現在開発中のスマートフォン向けシステムについて報告があり,今後の公開がとても楽しみな内容であった。
実践報告の後,四谷図書館の多読コーナーを見学した。レベル別にわかりやすく配列するなどいろいろな工夫が凝らされた館内を案内してくれた大畑館長に見学者から質問も飛び交っていた。その後は,サービス継続のコツ,導入時のハードル,最低冊数,選書の方法,予算,広報といった,事前に参加者が記入した質問をもとに意見交換がおこなわれた。
最後に西澤氏から閉会挨拶があり,シンポジウムは盛会のうちに終了した。今回のシンポジウムでは東海地方の実践が進んでいて東京都での普及はまだこれからだと感じる「西高東低」の状況ではあったが,日本全国に英語多読が普及することを期待したい。
東京都立府中東高校・米澤久美子
Ref:
http://tadoku.org/seminar/2015/07/28/2241
http://tadoku.org/blog/blog/2015/11/19/2501
http://tadoku.org/blog/blog/2015/11/19/2494
http://tadoku.org
http://orchard.ee.toyota-ct.ac.jp/tadokunavi/