カレントアウェアネス-E
No.272 2014.12.12
E1636
第62回日本図書館情報学会研究大会シンポジウム<報告>
2014年11月30日,梅花女子大学において,第62回日本図書館情報学会研究大会シンポジウムが,「学びの空間デザインとファシリテーション~図書館を活用した学習支援を考える~」とのテーマで開催された。このシンポジウムはテーマにあわせて,参加者も巻き込むアクティブで実験的な形式で行われ,参加者には『はい』を意味するピンクと『いいえ』を意味する水色の紙,『WoW!』や『Nice!』等といったコメントが書かれたメッセージカードが各1枚ずつ配布された。参加者は,それらを利用してシンポジウムの内容に対する積極的な意思表示を求められた。
シンポジウムの冒頭では,Pharrell Williamsの楽曲“Happy”にあわせて,同志社大学のラーニング・コモンズ(LC)での学生によるダンス映像が流れ,パネリストである同志社女子大学の上田信行氏,玉川大学の河西由美子氏,三重大学の長澤多代氏,及びコーディネータである日本大学の小山憲司氏がリズムにのりながら登場した。
最初に,各パネリストによる10分間スピーチが行われた。まず,学校図書館と学びの空間デザインの視点から,河西氏が玉川学園マルチメディアセンターにおける子ども達の写真を紹介した。同センターは,幼稚園児から高校生までが利用する図書館であるため,柔軟に利用できるようにデザインされている。しかし,子ども達は,書架をキャレルデスクの代わりに使用したり,飾られているオブジェを積み上げたり,デザインの意図を超えた使い方をしている。このように意図した以上のことが誘発されることも含めて「学び」と考えると,今考えられている図書館での「学び」とはとても小さいものなのではないかと河西氏は述べた。
次に,長澤氏が学びのファシリテーションの視点からスピーチを行った。海外の大学教育における教員と図書館員の連携構築のケーススタディによって浮かび上がった,連携構築のための図書館員からのアプローチのタイプが紹介された。図書館という建物から出てサービスを行う「非伝統的図書館員の配置」(CA1751参照),教員との良好な関係を築く「社会関係の構築」,すべての学生が等しく情報リテラシー教育を受講する体制を築く「カリキュラムへの統合」等の,いずれのタイプでも,図書館員は大学のコミュニティの一員として大学が生み出す成果を最大限にすることを目的とし,教員や学生が図書館の情報資源を活用して学習・教育目標を達成できるように支援するファシリテーターとして活動していると長澤氏は述べた。
最後に,様々な学びの演出の経験を踏まえ,上田氏がスピーチを行った。学びには,学校型の学び,一緒にものを作るスタジオ型の学び,誰かのためにプレゼンテーション等をするためにより深く学ぶステージ型の学びの3つの風景があると説明した。そして,挑戦するステージをより大きなものにしていくことにより,ステージが人を発達させ様々なことが身に付くとする「ステージ拡張理論」を紹介した。図書館はLCのようなスタジオ型になってきているが,もう一歩進むと,ステージ型になる。学生が自分の言葉で作りあげ,人に伝え,人と協力しながら可能性を広げられるようになることは,大学の目標の一つである。そのために図書館をステージにしたいと上田氏は述べた。
スピーチに続き,パネルディスカッション第一部として,参加者に対して「アクティブ・ラーニングは何かを説明できる」,「図書館にこそLCを設置すべきである」,「主体的に活動できる学習空間を用意しさえすれば,学生は主体的に学ぶ」,「図書館員に教育学は必要ない」といった質問がされた。参加者はピンクと水色の紙で回答し,また,「アクティブ・ラーニングとよく聞くが,論理的に説明できる自信がない」,「図書館にLCがあることで相乗効果が期待できる」,「図書館に限らずLCは自然発生的に生まれる」,「教育に関心を持つ必要はあるが,学は必要ないのでは」といった意見が発言された。
ここまでの議論を踏まえて,近くに着席する参加者同士によるグループディスカッションが行われ,パネルディスカッション第二部として,いくつかのグループの代表者が議論の内容を紹介した。「学生の学びを促す仕掛けをデザインすることを全ての図書館員が行うことは難しい。学生の自然発生的な行動を観察し,活かす方が良いのではないか」,「アウトプットをできない学生へのサポートもできれば」といった発言があった。河西氏からは,図書館員が学生を観察して,仕掛けて,失敗しても色々な方法を試していくことが必要である。また,楽しむための動機づけがないと,学びは成立しないといった意見が述べられた。長澤氏からは,楽しい学びのための基礎体力作りとしての情報リテラシーを育成するためには,周りと連携し一緒に考えていく姿勢が重要であるとの意見が述べられた。上田氏からは,学びの本質は楽しいものである。そういった原点をアクティブ・ラーニングという名前で再考する必要があるといった意見が述べられた。
今回のシンポジウムに答えはなく,種を持ち帰り,いかに今後の研究,職場で活かしていくかは参加者各自に委ねられた。持ち帰られた種が様々な成果として実を結ぶことを期待したい。
関西館図書館協力課・安原通代