E1635 – 図書館でティーンの学びを育む「ラーニングラボ」(米国)

カレントアウェアネス-E

No.272 2014.12.12

 

 E1635

図書館でティーンの学びを育む「ラーニングラボ」(米国)

 

 米国の図書館や博物館では,ティーンの学びを育む新しい場である「ラーニングラボ(Learning Lab)」が注目を集めている。2012年から2年間,米国博物館・図書館情報サービス機構(IMLS)とジョン・D・アンド・キャサリン・T・マッカーサー財団(以下,マッカーサー財団)が行った助成プログラムがその普及を後押しした。American Libraries誌によれば,ラーニングラボとは,「図書館で得られる活動や興味と,学校や将来のキャリア形成において役立つスキルとの接続を支援する場」とされている。具体的には,サイエンスやテクノロジーに関わるプロジェクトやワークショップが行われたり,アニメーション動画を創作できたり,電子繊維(E-textile)で装飾品を作ったり,工作機械から3Dプリンタに至るまでの多様な機械を使って買い物カートを改善したり,ぬいぐるみに電子部品を組み込んで改造したりできるような「場」である。

 2014年10月に,上記の助成を受けた24のラーニングラボにヒアリングを行った結果をまとめたレポート“Learning Labs in Libraries and Museums: Transformative Spaces for Teens”が公開された。本稿では,このレポートから,ラーニングラボの特徴,成功事例から得られたラーニングラボに不可欠な三つの要素,その影響,今後の活動の方向性を紹介したい。

 ラーニングラボは,“Connected Learning”という概念に従って設計されている。これは,興味に導かれ(interest-driven),社会とつながり,教育機会や経済的な機会を拡大するような学びの概念である。その成功に不可欠な要素として,「(ラーニングラボの計画や設計への)ティーンの参画」「メンター」「物理的な空間」の三つが挙げられている。「ティーンの参画」の一例として挙がっているのは,ナッシュビル公共図書館のThe Studio@NPLである。ここでは,建築家と大学の教育部門の教員が,ティーンが自身の学習環境をデザインできるよう支援したという。またアリゾナ州ピマ郡図書館では2,100名のティーンを対象に,フォーカスグループによるニーズ調査が行われた。計画段階に深く関与することで,ティーンのアドバイザーたちはチームの一員として働く若いデザイナーへと成長し,新しくできたラボが自分たちのものであるという所有感,また,責任感も生まれたという。

 「メンター」の存在もまた不可欠である。図書館員や博物館の教育スタッフ,さらには詩人,エンジニア,ミュージシャン,映画製作者など,各領域での専門家がメンターとして,ティーンが新しい興味を見つけ,視野を広げ,専門性や各種資源にアクセスできるように支援する。メンターは,ティーンの興味を的確に表現する役割を担っており,ティーンをうまく巻き込んでいくには,ティーンとの関係を適切に構築できるメンターが重要であるという。アラバマ歴史自然博物館とタスカルーサ公共図書館のプロジェクトでは,卒業生や地理クラブのメンバーなど,地域のコミュニティがメンターを担っている。自身の専攻分野の学問に情熱をもつ大学生は,学問の場に自身を置かないティーンにとってのロールモデルとなったという。

 「物理的な場所」については,Createch,TheMiX,the Labs(E1492参照),TechHive,The Studio,QuaranTEENなどの名称やレポートで紹介されている写真からも明らかなように,コミュニティのニーズごとにその形態は異なっている。多くの事例では,あまり利用されていなかった場所を改築するなどして,ラーニングラボを開設したという。ティーンは,安全で,フレキシブルで,意見を表明したり,作品を公開したりできる「ティーンのためだけの」場所の必要性をしばしば口にするという。

 ラーニングラボの影響として,その構築により,多くの図書館員や博物館員の業務への考え方が変化することが指摘されている。伝統的なティーン向けのサービスでは,図書館のリソースをティーンに届けることに注力していたが,現在は,ティーン自身がその創造的な可能性を発見するのを手助けする方向へと変化しているという。また,組織間の協同も促進されたという。ティーンの教育支援という観点から,それぞれ機関の役割が見直され,学校という伝統的な教育機関のみに注目するのではなく,博物館や図書館,放課後のプログラムや家庭など,学習者と学ぶ機会がある全ての場所に重点が移ってきており,学習のエコシステムの協同構築が目指されることとなったという。

 現在は,ラーニングラボの継続が課題とされており,ラーニングラボ相互の連携や,知識共有のためのネットワーク形成も始められているという。コミュニティに根ざして,ティーンの学びを育む新しい場であるラーニングラボの今後の展開に注目したい。

関西館図書館協力課・篠田麻美

Ref:
http://www.imls.gov/learning_lab_publication_describes_transformative_spaces_for_teens.aspx
http://www.imls.gov/assets/1/AssetManager/LearningLabsReport.pdf
http://www.americanlibrariesmagazine.org/blog/connecting-youth-teen-learning-21st-century-spaces
E1378
E1390
E1492