E1605 – 大学図書館のコレクション構築とデジタル・コンテンツ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.266 2014.09.11

 

 E1605

大学図書館のコレクション構築とデジタル・コンテンツ<報告>

 

 2014年6月26,27日,筆者は,筑波大学大学院の池内氏とともに,オーストラリアのブリスベンで開催されたエルゼビア社主催の電子書籍フォーラムeBooks Forum 2014(E1600参照)に参加した。今回で4回目となる同フォーラムには,筆者は2012年,マレーシアのクアラルンプールで開催された会に続き,2回目の参加である。本フォーラムには,オーストラリアやニュージーランドをはじめとする各国の大学図書館員が参加したが,研究者として参加したのは,タイから1名(兼図書館長),および筆者ら日本から2名であった。本稿は,前号の池内氏の報告に引き続き,同フォーラムで得られた知見のうち,電子書籍とコレクション構築にかかる話題について報告するものである。

 

1. デジタル・コンテンツ優先のコレクション構築方針

 今回のフォーラムで,筆者は,日本の高等教育事情,および大学図書館における電子書籍サービスの現状を紹介したうえで,2年前の発表で掲げた電子書籍普及にとっての5つの課題、すなわち(1)日本語電子書籍のさらなる普及、(2)発見可能性の拡大、(3)柔軟な利用条件、(4)図書館予算の実情に合った電子書籍ビジネス・モデルの展開、(5)図書館員の理解促進について,その進捗状況を報告した。池内氏は,筑波大学,千葉大学,慶應義塾大学における電子書籍サービスの事例紹介に加え,ディスカバリー・サービス(筑波),大学学習資源コンソーシアム(CLR)(千葉),電子学術書利用実験プロジェクト(慶應)に関する各大学の取り組みについて発表した。

 日本以外からは,スインバン工科大学(オーストラリア),オタゴ大学(ニュージーランド),そしてオタワ大学(カナダ)の事例が報告された。筆者が特に印象を受けたのは,各大学がいずれも,デジタル・コンテンツ優先のコレクション構築方針を打ち出していたことである。

 たとえば,スインバン工科大学図書館の「コレクション管理方針(Collections governance)」という文書には,「オンライン優先(Preference for online)」という項目がある。そこでは,利用者要求に応えるため,電子書籍をはじめ,デジタル・コンテンツへのアクセスを最大限に高めることがうたわれている。さらに,選択肢としてデジタル・コンテンツがある場合には,冊子体などの物理的情報資源は収集しないことも明示されている。

 こうした方針を打ち出す背景には,限られた図書館資料費の効率的な配分,図書館スペースの狭隘化,利用者および利用者要求の多様化への対応に加え,電子書籍サービスそのものの充実が考えられる。購読モデルをとってみても,最近ではタイトルごとの買い切りに加え,コレクションごとの買い切りモデル,年間購読モデル,短期貸出,そしてPDA/DDAなどの電子書籍サービスが展開されている。

 スインバン工科大学やオタゴ大学では,PDA/DDA(CA1777,E1310参照)を積極的に利用しつつ,出版社コレクションや年間購読モデルをも活用し,コレクションを構築しているとのことである。一方,オタワ大学は,電子書籍への永続的なアクセスを優先することを方針とし,出版社からの直接購入を指向していた。これに加え,特定主題分野を対象にPDA/DDAのパイロット計画も展開している。

2. コレクション構築方針の先に見えるもの

 デジタル・コンテンツ優先のコレクション構築方針から見えるのは,各大学の使命を十全に果たそうとする図書館の姿勢である。今回のフォーラムでは,特にオタワ大学の事例でこのことが顕著に見られた。

 オタワ大学は,2010年にDestination 2020と呼ばれる戦略計画を公表した。カナダ国内でトップ5の研究大学を,世界でも有数の研究大学を目指すことが盛り込まれた同計画では,その達成すべき事項の1つとして,世界水準の図書館の実現があげられている。オタワ大学図書館は,大学の戦略計画を受けて,図書館の使命,構想,そして目標を改訂した。コレクション構築方針もまた,その延長線上に位置づけられるといえよう。

 その結果は,図書館員の役割や業務にも大きな影響を与えている。すなわち,デジタル・コンテンツの収集を優先することで,相応の手間がかかったり,課題はあったりするものの,冊子体資料に比べて手続きや管理が簡素化されたことなどから,より多くの時間を教育や研究,革新的な図書館サービスの開発にあてられるようになったとのことである。

 

 オタワ大学をはじめ,スインバン工科大学,オタゴ大学のコレクション構築方針はいずれも,究極的には大学の使命をいかに実現するか,そのために図書館は,図書館員はなにを行うのかという基本方針に結びつく。大学内外の変化に注意を払いつつ,いかに時機をとらえた図書館サービスを開発し,それに合わせて図書館組織を柔軟に変化させ,図書館活動そのものを展開できるかが今,問われているといえよう。

日本大学文理学部・小山憲司

Ref:
http://asia.elsevier.com/elsevierdnn/ElsevierAPACeBooksForum2014/tabid/2507/Default.aspx
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/2.Kenji_E-books in Japanese academic libraries an overview of current situation.pdf
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/3. Ui_Library Services Related to eBooks at 3 Research Universities in Japan.pdf
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/4. Tony_Australia’s Case Study eBooks @Swinburne.pdf
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/5. Marilyn & Paula_ New Zealand’s Case stud – eBook evolution @ Otago.pdf
http://asia.elsevier.com/asiamailings/Elsevier APAC eBooks Forum 2014 PDF/7. Katrine_eBooks Meet Opportunity – University of Ottawa Experience.pdf
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/
http://project.lib.keio.ac.jp/ebookp/
http://clr.jp
http://www.swinburne.edu.au/lib/about/policies/collections.htm
http://www.uottawa.ca/about/sites/www.uottawa.ca.about/files/destination-2020-strategic-plan.pdf
E1600
E1310
CA1777