E1567 – ILLにおいて優れた業績を残した図書館員を表彰:バウチャー賞

カレントアウェアネス-E

No.260 2014.06.05

 

E1567

ILLにおいて優れた業績を残した図書館員を表彰:バウチャー賞

 

 2014年3月4日,2014年度のVirginia Boucher-OCLC Distinguished Interlibrary Loan Librarian Award(バウチャー賞)の受賞者が発表された。シカゴ大学図書館のアクセスサービスと評価部門の長であるラーセン(David Larsen)氏に決定した。ラーセン氏は,新たな手法や作業フローの効率化に意欲的に取り組むことでリソースシェアリング(資源共有)への革新的かつ実際的なアプローチが評価され,受賞決定に至った。

 バウチャー賞は米国図書館協会(ALA)のレファレンス・利用者サービス協会(RUSA)とOCLCとが共催し,図書館間相互貸借(ILL)やドキュメントデリバリ-の分野で専門家としての業績,リーダーシップ,貢献を示した図書館員を表彰するものである。コロラド大学ボルダー校の名誉教授であり,ILLライブラリアンとして卓越した業績を残したバウチャー(Virginia Boucher)氏の名前を冠したこの賞は,2000年に創設され,以来,年に一度受賞者が選出されている。この賞は,過去の卓越した業績を評価し,その活動を広く知らしめるとともに,ILLに携わる図書館員に対し,より良いサービスを目指し切磋琢磨する意識を喚起させることを目的としたものである。

 候補者の推薦はRUSAのwebフォームから行うことができるが,候補者となるにはいくつかの条件が定められている。まず前提として候補者は選考対象となる貢献が行われたときに図書館に所属し,組織内のILLやドキュメントデリバリーサービス,リソースシェアリングの分野で責任ある地位に就いていること,選考対象となる貢献は過去2年以内に行われたものであることが要件である。このように,バウチャー賞は新しい貢献が評価の対象となる。具体的な選考条件として,以下の項目のうち,少なくとも一つ以上で,成果が示すことが求められる。(1)ILL分野で,地域レベル,国レベルでモデルとされるような,革新的で先進的な取り組みを計画,実践したこと。(2)ILL分野の文献の中で評価される出版物(記事,本,カンファレンスペーパー等)を出していること。なお,その業績は過去2年以内に出版されたものでなければならない。(3)ILLをより促進する目的で設立された地域レベル,国レベル,国際的な団体へ持続的に参加し,貢献をしたこと。

 過去の受賞者の実績や賞創設の背景について,ここではフレデリクソン(Linda J. Frederiksen)氏の論文を参照し,概要を簡単に紹介したい。この賞の初めての受賞者となったオレゴン大学図書館のハルグレン(Joanne Halgren)氏はテレタイプ端末(teletype machine)を活用して資料の検索を簡便にし,1976年には,OCLCの情報を利用し,利用者自身が希望する資料を見つけられる先駆的な取り組みを行うなど,利用者が使いやすいサービスを追求したILL業務を確立した。さらに,実践を積極的に発表し,相互協力の好例となったことも受賞へつながった。

 2005年の受賞者であるクリツ(Harry M. Kriz)氏は今や世界中の1,100館を超える図書館で利用されるシステムILLiadの開発に重要な役割を果たし,ILLのシステム面で大きな功績を残している。また,相互協力体制の確立により,リソースシェアリングの分野に著しい貢献を見せた受賞者に2011年受賞のリベンバーグ(Ed Rivenburgh)氏がいる。リベンバーグ氏は自身が所属するニューヨーク州立大学ジェネセオ校図書館内にとどまらず,ニューヨーク州内の他の図書館と協働し,より幅広いリソースシェアリングを目指すInformation Delivery Services Project(情報配信サービス事業)を牽引した。このような活動はニューヨーク州のみではなく,アメリカ国内のILLを根本的に変えたと評価されている。

 このように過去の受賞者は,より良いサービスを目指してリーダーシップを発揮してきた。その業績には,利用者が利用しやすいシステムの整備に尽力したこと,専門的知識を持って多様な要求に応えていること,また,自身が所属する図書館内にとどまらず,他の図書館と協働する幅広いリソースシェアリングを志向したこと等,共通するところが多い。こうした貢献により,煩雑で時間のかかる舞台裏の作業から地球規模でのリソースシェアリングへ,というILLの進展が支えられてきた。ILLは図書館業務の中でも,大きな変化を遂げ,その重要性を増してきた分野なのである。情報技術の進展や,OCLCのWorldCatなど,図書館員も利用者も国内に限定されない世界中の膨大な情報に接するようになり,利用者の要求も多様化している。ILLに携わる図書館員は,常に専門的知識を磨き,多様な要求に応えられるような迅速,簡便,効率的な方法を追求していくことが不可欠である。図書館員にはその自覚と努力が常に求められているといえよう。

関西館文献提供課・牧明日香

Ref:
http://www.ala.org/news/press-releases/2014/03/most-distinguished-librarians-reference-announced-2014-achievement-awards
http://www.ala.org/rusa/awards/boucher
http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1072303X.2013.831801#.U08fq9K-2G4
http://www.oclc.org/illiad.en.html
http://idsproject.org/about/aboutus.aspx