E1525 – 新入生は大学レベルの情報探索能力をどうやって身につけるか

カレントアウェアネス-E

No.252 2014.01.23

 

 E1526

新入生は大学レベルの情報探索能力をどうやって身につけるか

 

 2013年12月4日,米国の成人の情報リテラシーに関する調査を進めているプロジェクト・インフォメーションリテラシー(Project Information Literacy: PIL)(E1359参照)が,大学1年生がどのようにして大学レベルの情報の探索,利用,発信の能力を身につけるかを調査したレポート“How Freshmen Conduct Course Research Once They Enter College”を公表した。このレポートは2012年度から2013年度にかけて実施した調査の報告と,それらに基づく提言から成っている。

 まず第1部として,30校の高校,6校の大学の図書館が学生に提供している情報リソースとサービスに関するデータを収集し,高校において利用できる図書館サービスと大学において利用できる図書館サービスとの差を量的に評価している。分析の結果,大学においては,高校に比べ,専門教育を受けた図書館員の数は16倍,コンピュータの数は6倍,図書館資料数は9倍,オンラインデータベースの数は19倍であることが明らかになった。

 第2部では,第1学期を終えた6校の大学の1年生35名に対してインタビュー調査を実施し,大学1年生が情報リソースの増加にどのように対応しているかを分析している。対象となった大学1年生は,インタビューを受けるまでに,少なくとも2本の大学レベルのレポートを書き,図書館員が利用方法を教えに授業を訪れる単発の講習会“one-shot sessions”や,図書館員が講師となる情報探索の必修コース等,何らかの公式な図書館利用講習を受けていた。

 インタビュー調査から,大学レベルの研究調査において大学1年生が困難と感じている課題には以下の4つの類型があるとしている。
 ・適切なキーワードを選択し,効果的で効率的なオンライン検索を行うこと。
 ・大学図書館で利用できる様々な資料を把握,選択,利用すること。
 ・信頼できる資料を発見した後,その資料を読み,理解し,要約すること。
 ・教員が課題に求めていることを把握すること。

 また,多くの大学1年生が大学レベルの調査研究を行うために様々な新しい適応戦略を活用するようになっているとし,課題解決のために1年生が新しく使用するようになった適応戦略を5つ挙げている。
 ・査読学術文献の要約を論文理解のために活用する。
 ・Googleをキーワードの発見や著者の信頼性の確認のために利用する。
 ・GoogleのかわりにGoogle Scholarを利用する。
 ・関連文献を見つけるために引用文献をたどる。
 ・専門家の手助けとして大学図書館を利用する。

 第3部では,調査研究において利用する情報リソースに関して,大学1年生と高校生及び大学2年生以上の上級生とを比較したオンライン調査を年度の終わりに行い,大学1年生の情報探索行動がどのように変化しているかを分析している。全体として,Google,図書館データベース,授業の推薦図書,政府のウェブサイト,インストラクターを利用する学生の割合は,高校,大学問わず一貫していた。これら上位5つの情報リソースに対する学生の選択が時間が経過しても変化しない理由は,専門的なリソースに関する体系立てられた先進的教育の欠如のためだと報告書は述べている。一方,年度の終わりの1年生は,高校生よりも大学2年生以上の上級生と同等の情報リソースを利用するようになっており,情報探索行動は大学1年で目覚ましく発達すると結論付けている。

 最後に,大学1年生と共に活動する図書館員,教員,管理者への4つの提言が示されている。また,彼らが相互に話し合うことで,大学のカリキュラム内や大学卒業後に,大学1年生を情報ユーザーとして成功させるための,新しい共同の取り組みを引き起こせるだろうとしている。提言の内容は以下のとおりである。

・高校図書館と大学図書館の橋渡しをする
 大学1年生はスタートから調査に関して不利に感じている。彼らは調査能力が低いわけではなく,大学図書館での調査に慣れていないのである。大学図書館員や教員は,高校図書館の状況を認識することが不可欠である。

・情報探索能力を教える統合的なアプローチを行う
 多くの学生が“one-shot session”を介して図書館員の存在を知っているが,より実践的な支援を求めている。検索スキルに焦点を当てた短いセッションではなく,柔軟性のある情報探索能力を教えることが必要である。

・分野を超えて,研究調査のプロセスを学生に教える
 学科をまたいで学術調査について大学1年生に教えることができれば,異なった学問分野の観点からも学ぶ手助けになり,より深い学びに繋がる。

・“Google世代”への期待を見なおす
 今日の1年生の多くはGoogle世代であるが,それは彼らが大学レベルの課題を実行する調査能力を持っていることを意味しない。学術調査に必要な能力は,Googleを使用して既存の答えを見つける能力とは異なる。

関西館図書館協力課・安原通代

Ref:
http://projectinfolit.org/pdfs/PIL_2013_FreshmenStudy_FullReport.pdf
http://projectinfolit.org/
E1359