E1452 – 研究者による研究データ共有の決定要因は何か<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.240 2013.07.11

 

 E1452

研究者による研究データ共有の決定要因は何か<文献紹介>

 

Sayogo, Djoko Sigit; Pardo, Theresa A. Exploring the determinants of scientific data sharing: understanding the motivation to publish research data. Government Information Quartery. 2013, 30(1), p. S19-S31.

 近年,論文などの出版物だけではなく,研究に用いた生データをも公開し,共有する動きが自然科学分野から人文・社会科学分野に至るまで拡大している。その背景には,他の研究者によるデータの再利用や研究結果の検証を可能にすること,公的資金による研究成果を広く市民に公開することへのニーズがある。

 本論文は,研究者による研究データの公開に影響を与える要因を明らかにするために,DataONE(Data Observation Network for Earth)プロジェクトの2つのワーキンググループが2009年10月から2010年7月にかけて実施したオンライン調査の結果から,研究者555名分の回答を抽出して分析している。回答者の平均年齢は44歳,49%は大学教授や講師であり19%は大学院生またはポスドクである。また,回答者の居住地域は北米73%,欧州15%であった。

 調査結果から,データ公開に関する7つの要因,すなわち(1)所属機関の支援,(2)研究者自身のデータ管理技術,(3)データを再利用する研究者からの謝辞,(4)法整備と利用条件,(5)データを再利用する研究者の誤った解釈,(6)経済的要因,(7)助成団体等の機関によるデータ公開要件を独立変数として,それぞれが異なる4つのデータ公開経路(主著者のウェブサイト,所属組織のウェブサイト,地域レベルの研究ネットワーク,国レベルの研究ネットワーク)での公開に影響を与えているかどうかについて検証している。

 まず,研究者の大半は,データ共有を目的としたネットワークデータベースのうち,一種類にしかアクセスしておらず,公開が限定的であることを示している。記述統計によれば,データの共有に際して回答者が重要だと考えているのは,データの作成者を引用や公式の謝辞に明記することであった。回答者が懸念を抱いているのは,データが予期せぬ方法で用いられること(91%)や,データ自体の複雑性のために誤って解釈されること(90%)である。一方,データ標準が整備されていないことについては82%が重要でないとしており,組織による経済的な支援やデータ管理のための技術的支援もあまり重要ではないとみなされていた。

 そして本論文の主たる分析として,順序ロジスティック回帰を用いて研究者が研究データを公開する決定要因を予測している。たとえば,組織的な支援によって研究者が全ての公開先にデータを公開するようになるといった,記述統計では導き出せない結果を示している。また,法整備と利用条件は「主著者のウェブサイト」「所属組織のウェブサイト」「国レベルの研究ネットワーク」にデータを公開することに有意に影響を与える要因だが,「地域レベルでの研究ネットワーク」への公開にはほとんど影響を与えないこと,同様に研究者自身のデータ管理技術は「所属組織のウェブサイト」「地域レベルの研究ネットワーク」「国レベルの研究ネットワーク」でのデータ公開に影響を与えるが「主著者のウェブサイト」での公開には影響を与えないことが明らかにされている。さらに,データ量が増えるほど公開される確率が下がることなども示されている。

 以上の結果に基づいて,本論文は政策決定者に対して,公的資金援助を受けた研究のデータ共有を支援するために,データ量やメタデータの標準化といった問題に取り組むよう提言を行なっている。また,結論として,(1)データ管理(研究者が技術を身に付けて公開するデータの質を保つこと,および組織の支援)と(2)謝辞(法や利用条件を整備して,引用や共著といった形でデータの作成者への謝意を示すこと)によって,研究データの共有が大きく進展するだろうと締めくくっている。

 なお,著者らが用いたDataONEによる調査データは,既に2011年にPLOS ONEで論文として公開されている。すなわち本論文は,研究データを他の研究者が再利用することによって新たな研究成果を得られるという証左でもある。

(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科・池内有為)

Ref:
http://www.dataone.org/
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0021101