E1444 – 10周年を迎えたWebJunction

カレントアウェアネス-E

No.239 2013.06.20

 

 E1444

10周年を迎えたWebJunction

 

 OCLCが運営する図書館員向けオンライン学習コミュニティWebJunctionは,2003年5月12日にビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の支援を受けて始まり,10周年を迎えた。この10年,WebJunctionは図書館員のスキルアップや業務上の学習ニーズの変化に応えて発展してきた。これまでに米国各地や海外から80,000人以上の図書館員が,WebJunctionのトレーニングプログラムなどを利用してきた。また,米国の公共図書館のほぼ70パーセントがWebJunctionを活用してきたという。

 WebJunctionはいくつもの先端的な取り組みを行ってきた。まずは,オンラインでの学習資源の提供である。WebJunctionは,いち早く2005年にはオンラインセミナーを試験的に始めていた。現在も,図書館界で高い関心が向けられているトピックについてオンラインセミナーを開催しており,ユーザーは見逃した場合も記録を視聴することができる。また,図書館のサービスや運営に関する講座から,パソコンソフトの使い方などの講座まで,350以上のオンライン講座を自分のペースで受講することができる。さらに,2006年に“Trends in E-Learning”(E557参照)を,2007年に“Blended Learning Guide”を発行するなど(E644参照),オンライン学習について報告を出している。2009年には“Competency Index for the Library Field”を刊行し,幅広い観点で図書館のサービスと運営に必要な能力についてまとめている。これは,館種や規模に関わらず図書館員に必要とされる技術と知識の習得を目指すうえで役立つ資料である。

 そして,米国社会の重要な問題に関するトレーニングプログラムの提供も行っている。米国の博物館・図書館サービス機構(IMLS)やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団などの助成を受けて始まった,スペイン語アウトリーチ(Spanish Language Outreach:SLO)プログラムや,地方の図書館の持続可能性(Rural Library Sustainability:RLS)プロジェクト(E699参照),2008年の経済危機を受けた求職者・失業者への支援は,米国中で13,000人の図書館員が受講している。現在は,コンピューターやインターネットを使用する機会やスキルがない個人を地域社会がどのように支援するのか,というプログラムを提供している。

 2004年に始まった州立図書館向けのパートナープログラムもある。このプログラムは,州立図書館がWebJunctionのホームページ上で,それぞれの地域の図書館が必要とするトレーニングや学習資源を提供できるようにするものである。最初は,コロラド州やコネチカット州などの5つの州立図書館から始まり,その後22の州立図書館が加わった。カンザス州やコロラド州では,図書館員が実際に集まって継続的にトレーニングすることが難しい状況にあったが,オンラインでセミナーや講義を受けられることになった。また,参加メンバーと新しい情報やプログラムについて盛んに議論し,トレーニングプログラムを組み立てる訓練を積むことができた。コロラド州でも同様に,既存のトレーニングについて議論を行うことで,膨大な時間をかけることなく,学習者にとって効果的なトレーニングを組み立てることができた。図書館員が,より良い図書館運営のために幅広い知識・技術を要求されている中,WebJunctionパートナープログラムに参加することで,手頃で継続的な教育を受ける機会を得られるだろう。

 WebJunctionは,開始当初から常にオンライン学習の最先端を走っており,その時々で革新的なツールであったブログやwiki,RSSもいち早く取り入れてきた。現在ではそれらのツールに加え,複数のソーシャル・ネットワーキング・サービスなども活用しながら,情報の共有を行いコミュニティの強化を図っている。

 今回の10周年記念においても,YouTubeやFacebook等で画像や動画メッセージを集めたり,ハッシュタグ“#WJ10th”を付けたツイートを求めるなど,様々なツールを利用する形で図書館界に対し祝賀イベントへの参加を呼びかけている。また,WebJunctionのホームページ上では,「この10年間どのようにWebJunctionに参加したか」,「WebJunctionに参加する上で,他に何か加えたいものがあるか」についてコメントを受付けている。

 この10年間,WebJunctionは,数多くのトレーニングやセミナーなどを提供すると共に,各地の図書館員たちをつなげる役目を果たしてきた。人的ネットワークは,図書館員たちにとって,仕事への意欲の維持・向上や,業務で抱える問題への解決のヒントを得るために役立つだろう。WebJunctionの呼びかけに応じて各地から,「オンラインセミナーなどを通して,いつも知識や考え方に刺激を受けてきた」「図書館の未来について考えさせてくれる」「長年私たちの図書館のためにありがとう」といった10周年を祝うコメントが寄せられている。今回の10周年記念イベントを通じて,それぞれの図書館員がWebJunctionの10年間の歩みに思いをはせることで,コミュニティのいっそうの強化につながるだろう。

 図書館員をめぐる状況の変化に対応してきたWebJunctionが,今後どのような展開を見せるのか,そのさらなる発展を期待しながら動向に注目していきたい。

(関西館図書館協力課・高橋範子)

Ref:
http://www.webjunction.org/
http://www.webjunction.org/news/webjunction/oclc-webjunction-marks-10-years.html
http://www.webjunction.org/share-your-story.html
http://www.webjunction.org/documents/webjunction/Trends_in_E_045_Learning_for_Library_Staff.html
http://www.webjunction.org/documents/webjunction/Blended_Learning_Guide.html
http://www.webjunction.org/documents/webjunction/Competency_Index_for_the_Library_Field.html
http://www.webjunction.org/documents/illinois/Programs_and_Training_for_Job_Seekers.html
http://www.webjunction.org/about-us/our-services.html
E557
E644
E699