カレントアウェアネス-E
No.237 2013.05.23
E1431
人文系学術電子書籍に関する大学図書館員の認識調査
人文系の学術電子書籍のサイトであるACLS Humanities E-Book (HEB)において,2013年3月6日に“Perception Analysis of Scholarly E-Books in the Humanities at the Collegiate Level”と題された報告書が発表された。HEBとは,米国学術団体評議会(American Council of Learned Societies:ACLS)が27の学会及び100以上の出版社等と協力して構築しているものであり,現在約3,700件の人文系学術電子書籍が登録されている。HEBはこれまで電子書籍に関する調査結果を“HEB White Papers”として公開してきた。今回の報告書はその第4号として,北米の大学図書館における人文系学術電子書籍の購入について大学図書館員の認識を調査しまとめたものである。人文系における電子書籍の現在の提供状況を概観したうえで,大学図書館員の人文系学術電子書籍の提供への認識を調査し,図書館員の観点から課題を考察している。
人文系学術電子書籍の現在の提供状況については,電子ジャーナルの歴史についてまとめ,デジタル著作権管理(Digital Rights Management:DRM),利用者主導型購入方式(Patron-Driven Acquisition:PDA)(CA1777,E1310参照)等の解説,背景説明を行っている。また,JSTOR,ProjectMUSE等の非営利アグリゲータと,EBSCOやGale等の商業アグリゲータをそれぞれ4つずつ挙げ,各アグリゲータの特徴についても解説している。
大学図書館員の認識調査では,重要な基礎情報を得るために,質的・量的両面からのデータ収集手法がとられた。ウェブサイトやブログ等の公に利用可能な情報による調査,2012年6月から9月にかけて行われた21人の図書館員への詳細な電話インタビュー,500人の大学図書館員を対象に実施され,69人の図書館員から回答を得た2回の質問調査,さらにその質問調査後にフォローアップインタビューが行われた。これらの調査で得たデータについて,自由回答のコーディング,頻度分析,累積率分析,統計分析の手法による分析が行われた。
分析の結果,電子書籍購入において大学図書館員が何を重要と考えているかについての質問では,図書館間のファイル共有や,著作権保護資料を所有する能力との回答が多かった。ただし重要度でランク付けを行うと,価格と品質が上位に入り,図書館間のファイル共有や,著作権保護資料を所有する能力は最下位となった。また,アグリゲータの選択基準についての質問したところ,回答者の65%がインターフェース,プラットフォーム,ダウンロード等の使いやすさ,42%がコレクションの主題について言及した。また33%がベンダーとの関係が重要とし,28%は価格をアグリゲータの人気を左右する要因とした。
購入とライセンス契約のどちらをより好むかとの質問には,購入が63.6%,ライセンス契約が36.4%であったが,更に詳しく理由を尋ねていくと,購入を好む回答者の比率は41%まで下がった。多くの図書館員は,両方あわせる方式が健全なものと考えている。主要な主題の資料には長期的なアクセスがあることが安心材料である一方,人気のタイトルにはライセンス契約の方がより安上がりな選択肢であるかもしれないと報告書は述べている。
電子図書館市場に向けての計画についての質問には,56%の回答者が計画を策定しており,44%はまだ策定していないと答えた。回答者が所属する図書館が所蔵する電子書籍の数は平均39,000タイトルであった。ある状況,ある主題では,冊子体から電子書籍へ移行すると考える図書館員はいたが,83%の回答者はすべてが電子書籍になることは無いと感じていた。
質問調査後には,フォローアップインタビューが行われた。現在使用しているアグリゲータは非営利であるか,商業ベースであるか,またいずれかであることは重要な問題であるかという質問に対して,78%の回答者が会社による違いを知らないだけでなく,コンテンツがどの会社から提供されているかは問題ではないとした。図書館の蔵書として,専門書(scholarly titles)と,概説書(academic titles)のどちらの所蔵が重要であるかの質問には,26%の回答者が専門書を,20%が概説書の所蔵を重要とし,20%は両方の混合が望ましいとしたが,33%はこの2つの用語を混同していた。また,予算の制約から,図書館は異なるベンダーから同じタイトルを購入する余裕はないが,88%が大規模アグリゲータのコレクションには重複があることを認識していた。
電子書籍への要求は増加しており,大学図書館員は予算の圧迫と格闘しながら,その要求に応えようとしている。米国における図書館員の人文系学術電子書籍に対する認識の一端を明らかにしようとした今回の調査は,今後の日本での人文系学術電子書籍市場の変化を見据えるために,参考になる取組みと言える。
(関西館図書館協力課・安原通代)
Ref:
http://humanitiesebook.org/help/HEBWhitePaper4.pdf
http://humanities-ebook.blogspot.jp/2013/04/heb-white-paper-4-released.html
http://humanitiesebook.org/help/white-papers.html
http://www.humanitiesebook.org/about-us/default.html