E1373 – 若手研究者を育成・支援する研究評価システムへの転換

カレントアウェアネス-E

No.228 2012.12.13

 

 E1373

若手研究者を育成・支援する研究評価システムへの転換

 

 日本学術会議が,2012年10月26日付けで,提言「我が国の研究評価システムの在り方~研究者を育成・支援する評価システムへの転換~」を発表した。これは,日本学術会議が同会議会員に対して行ったアンケート調査の結果を踏まえ,現行の研究評価システムにおいて検討すべき課題と,特に若手研究者の育成・支援に資するような研究評価システムへの転換を提言したものである。本稿では特に後者に絞って紹介する。

 日本学術会議は,この提言で若手研究者に焦点を合わせた理由を次のように説明している。すなわち,研究環境のグローバル化が進む中では,次代を担う若手研究者は国際的に通用する高い能力を有し,国内外の研究者と競争・協働を進めていくことが不可欠である。しかし現状では,若手研究者は任期付きの不安定な職に就くことが多くなっており,人材育成上好ましい環境となってはいない。そのため,適切な研究評価システムへ転換することによって研究環境を改善し,若手研究者の能力向上等を目指すのだという。

 文書は,この“適切な研究評価システムへの転換”について次の3つの視点でまとめている。

(1)若手研究者の個人評価の在り方

 ここではまず,雇用の不安定さが,論文として成果を出しやすい短期的な研究へと若手研究者を向かわせる傾向があることへの懸念が示されている。また,若手研究者の経歴・年齢・国籍等の属性の多様化が進んでいる現状があることから,単に研究実績の累積数が少ないことや大学での勤務経験等が短いことで評価が低くなるようであれば,多様な経験を持つ優れた人材が教員・研究者として参入してくることは期待しがたいと述べられている。

 この他に,現行の評価システムでは個人の業績評価の結果が給与や昇任等と連動していないことが多く,それが研究者の徒労感に繋がっていることや,任期付き教員・研究者やポストドクターが評価結果に応じてテニュアを獲得できるようにすること,同時にポストドクターのキャリア支援方策が必要であること等が指摘されている。

(2)研究課題の評価における若手研究者の育成促進の視点

 特定の研究課題で雇用される若手研究者が,その雇用期間終了後のキャリアパスに備えることが必要であるとされる。そのため,若手研究者が雇用期間中にその後のキャリアパスを見据えた活動を行うことに対して,研究代表者の所属機関が組織的に支援を行い,また国や資金配分機関がその種の活動を積極的に評価すべきであるとされている。

 この他に,若手研究者向けの研究申請書においては,評価者からのコメントの通知や本申請前の予備申請で事前相談等を制度的に実施すること,研究課題評価においては若手研究者ではなく研究代表者を評価対象とすることで,若手研究者が研究に専念できるように配慮することが望ましいとされている。

(3)大学・研究機関の評価における若手研究者育成の視点

 大学や研究機関において,若手研究者である博士課程学生や若手教員・ポストドクターに対して提供される研究環境や実施される各種の育成・支援方策について,評価の実施が必要とされる。また,ポストドクターのキャリアパス支援への組織的な取組が必要であると述べられている。

 以上の3つの視点に関し,日本学術会議はそれぞれ以下のとおり提言している(一部抜粋)。

(1)若手研究者の個人評価の在り方

  • 大学や研究機関は,不適切な評価によって若手教員・研究者を短期的に結果の出やすい研究に誘導することなく,挑戦的な研究の実施を促進するような評価方法を検討する
  • 大学や研究機関は,若手研究者の経歴・年齢・国籍などの属性が多様化している状況を踏まえ,それらの人材が不当な不利益を被ることのない様な公平な評価制度を構築する。
  • 大学や研究機関は,安定的な資金を確保する努力を行うことでテニュアトラック制度を構築し,任期付き教員・研究者やポストドクターが評価結果に応じてテニュアが獲得できるように努力する。同時に,多様なキャリアに求められる能力の育成にも努め,学術界以外のキャリア支援も推進する。

(2)研究課題の評価における若手研究者の育成促進の視点

  • 国や資金配分機関は,研究課題においてポストドクターや博士課程学生に提供されている処遇や研究環境を確認する。それとともに,若手研究者が自立した研究者へと育ち,多様なキャリアへ進むことを支援するような活動を積極的に評価する。これらの活動が,研究代表者の所属機関において組織的に実施されることを促進する。

(3)大学・研究機関の評価における若手研究者育成の視点

  • 国や評価機関は,大学・研究機関の活動状況の評価において大学や研究機関の研究実績だけでなく,若手研究者の研究環境や各種の育成・支援方策についても評価を実施する。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t163-1.pdf