カレントアウェアネス-E
No.204 2011.11.10
E1236
学協会ジャーナルの発行元移行の際に生じる問題とその対策
2011年10月,英国情報システム合同委員会(JISC)の下部組織として電子リソースの契約交渉等を担当しているJISC Collectionsが,“Society Journal Publishing Transfer: Guidelines to Help Achieve a Successful Transition”と題したペーパーを公開した。
このペーパーでは,学協会が発行しているジャーナルのトランスファー(発行出版社を移ること。学協会自身による出版から商業出版社へ移行することも含む)が図書館及びその利用者に対して与える影響を取り上げており,トランスファーによる問題を軽減させるためのガイドラインを示すことを目的としている。
小規模な学協会の大半は,主に財政的な理由からジャーナル出版事業を商業出版社に外注しており,例えば,Taylor & Francis社は460以上の,Elsevier社は500以上の学協会等の出版を受託しているという。2009年以降,推定で3,400タイトルのジャーナルがトランスファーしたとのことである。
一方,JISC Collectionsが英国内の大学図書館の電子ジャーナル担当者を対象に2011年4月に実施した調査では,47の回答機関のうち,36%がトランスファーは「非常に問題」,49%が「ある程度問題」と回答したという。ペーパーでは,トランスファーによって起こりうる問題として以下の事柄が挙げられている。
- 価格:想定外の価格上昇,価格モデルの変更,ビッグディール対象外になったタイトルの価格調整等の問題がある。
- アクセス:コンテンツ移行の遅れや出版社のシステムの違い等が原因でジャーナルにアクセスできない期間が生じる,バックファイルへのアクセス可能期間が短縮する等の問題がある。
- 情報提供:出版社が図書館や契約代理店に対して移行時期等に関する情報を十分に提供しない等の問題がある。
- 永続アクセス権:契約していたコンテンツに対する永続アクセス権が移行後も維持されるのかどうか等の問題がある。出版社がPorticoやLOCKSS等の電子ジャーナルアーカイビング(CA1597,E1203参照)を利用している場合には更に混乱が生じる。
- 図書館の人的コスト:目録データベースや電子リソースのナレッジベースにおいてレコード修正が必要になる,ビッグディール対象かどうかの管理に労力が必要になる,出版社から提供されない情報をチェックする手間がかかる等の問題がある。
このような問題を減らすために図書館と出版社が協力して2008年4月に策定したのが「TRANSFER実務指針」(TRANSFER Code of Practice;E920参照)である。2008年9月にリリースされた第2版では,電子ジャーナルへのアクセスの保証やコンテンツの引き渡し,URLやDOIの引き継ぎ等に関して,移行元・移行先出版社が担うべき役割や責任が計10点挙げられている。2011年4月現在で36の出版社がTRANSFER実務指針への準拠を表明している。
ペーパーの最後では,移行元出版社(学協会自身を含む)が移行先出版社と契約交渉をする際に注意すべきチェックリストが掲載されており,移行スケジュール,提案依頼書(RFP),TRANSFER実務指針,図書館とのコミュニケーション,永続アクセス権,ビッグディール,契約代理店,ナレッジベース等の点が挙げられている。
Ref:
http://www.jisc-collections.ac.uk/News/journal-transfer-guide/
http://www.jisc-collections.ac.uk/Documents/Reports/jrnl%20transfer%20paper.pdf
http://www.jisc-collections.ac.uk/Documents/Journal%20Transfers%20Survey%20Results%20vers%204,%2025.4.11.doc
http://www.uksg.org/transfer
http://www.uksg.org/Transfer/Code
http://www.uksg.org/transfer/transfer_publishers
CA1597
E920
E1203