E1118 – 大学の授業でWikipediaの記事を充実させる取組み(米国)

カレントアウェアネス-E

No.183 2010.11.18

 

 E1118

大学の授業でWikipediaの記事を充実させる取組み(米国)

 

 オンライン百科事典Wikipedia(CA1676参照)を運営しているWikimedia財団は,英語版のWikipediaの記事を充実させるための取組みとして,米国の大学との協同プロジェクト“Public Policy Initiative”を,2010年秋から試行している。対象分野は公共政策(Public Policy)で,ジョージ・ワシントン大学,ジョージタウン大学,ハーバード大学,インディアナ大学等の教員が協力し,その教員の授業を受講する学生が授業の一環としてWikipediaの関連記事の更新や新規作成といった編集作業に参加するというものである。

 このプロジェクトは,スタントン財団からの120万ドルの支援を基に行われている。Wikimedia財団は,教員の授業プラン策定を支援するとともに,各大学のキャンパスやオンラインで編集作業の手助けをするスタッフを配置する。公共政策分野が対象となったのは,全ての国民に関連する分野であるとともに,複雑で変化が速く,多くの視点があり,専門家の関与がふさわしい分野であると判断されたためである。最初の学期では,「アラブ世界研究入門」「文化と政治の理論」「草の根政治と公共政策」「デジタル時代のメディア・政治・権力」「都市経済開発」「情報産業のための知的財産権」等の11の授業で実施されている。

 ジョージ・ワシントン大学大学院の政策分析の授業では,Wikipediaの既存の記事について,その内容や信頼性等を評価・分析した後に,その記事に修正を加え,そしてその記事がさらに他人によりどのように編集されていくかを観察するということを行っている。また,ジョージタウン大学のデービス(Rochelle Davis)教授は,Wikipediaの記事執筆は論文を書くために必要となるレビューや要約の訓練として適切と考え,授業に取り入れている。自分の書いた記事を他人が読むかもしれないというプレッシャーがあるため学生はより丁寧に調査をするのではないか,と同教授は指摘している。

 2010年11月初めの段階で,100以上の記事で編集作業が行われているとのことである。Wikimedia財団は,このプロジェクトにより,試行期間における記事の充実だけでなく,長期にわたって持続可能なモデルの提示につながることを期待している。教育・学習の場でのWikipediaの記事の使用は,情報源としての信頼性等をめぐって議論のあるところであるが,編集作業を授業に取り入れることで記事の充実とともに学習ツールとしての活用も図るというこの取組みは注目に値すると思われる。

Ref:
http://outreach.wikimedia.org/wiki/Public_Policy_Initiative
http://blog.wikimedia.org/blog/2010/11/01/the-public-policy-initiative-midterm/
http://blogs.wsj.com/digits/2010/05/13/in-effort-to-boost-reliability-wikipedia-looks-to-experts/
http://chronicle.com/blogs/wiredcampus/professors-shore-up-wikipedia-entries-on-public-policy/28015
http://www.insidehighered.com/news/2010/09/07/wikipedia
CA1676