E1061 – 電子ジャーナル契約料を巡りカリフォルニア大とNatureが火花

カレントアウェアネス-E

No.173 2010.06.24

 

 E1061

電子ジャーナル契約料を巡りカリフォルニア大とNatureが火花

 

 カリフォルニア大学(UC)と,総合科学雑誌Nature等を発行しているNature Publishing Group(NPG)が,2011年の電子ジャーナルの契約料を巡って,火花を散らしている。

 事の発端は,2010年6月4日に,UCのカリフォルニア電子図書館(CDL)が,CDL事務局長らの名前で,各学部長・教員宛てに送付した書簡にある。この書簡は,UCが購読しているNPG発行の67誌のサイトライセンス料を,2011年から400%値上げしたいと要求するNPGに対し,大学を挙げて抵抗することを求めていた。CDLの試算では,この値上げにより,1誌当たり平均4,465ドルから平均17,479ドルへの負担増,全体で年間100万ドルを超える負担増になるという。UCの教員や研究者たちはこれまで,NPGの雑誌に多数の論文を掲載し,査読や編集でも貢献してきたが,そういった点や,UCの図書館が直面している予算削減への配慮を欠くかのようなNPGの対応に,CDLは教員らに向けて,「NPG刊行雑誌の原稿の査読の中止」「NPGの編集・諮問委員の辞職」「NPGへの論文投稿の中止」といった,ボイコット運動を推奨している。

 この書簡を受けてNPGは同6月9日,UCに反論するプレスリリースを出した。まず,NPGによるジャーナルの定価の大幅値上げをUCが示唆しているのは,全くの誤りであるとしている。この4年間での定価の値上げ率は平均7%であり,また現在の値上げ率の上限は7%であるという。NPGの主張によると,この問題を複雑化しているのは,UCが長年にわたり享受してきた,持続不可能なほどの規模の値引きにある。CDLを複数の図書館のコンソーシアムとみなした場合,CDLに適用されている定価の値引き率は88%になるという。NPGがUCに今回提案した値上げは,この値引き率を,他の出版社のCDLに対する値引き率の平均に近い50%程度まで引き上げることを意味している。さらにNPGの試算によると,新しい契約料の下でも,論文1ダウンロード当たりにかかる費用は約0.56ドルと,コストパフォーマンスは高い。NPGは上記のように事情を説明したうえで,誤った情報を用いてNPGにマイナスのイメージを与え,ボイコットを示唆するUCの交渉術に落胆の意を示している。

 UCは同6月10日,NPGのプレスリリースに対する回答文書を公表した。まず先の書簡は,「定価」ではなく,「サイトライセンス料」を400%値上げしたいというNPGの提案について述べている,とNPGの誤解を指摘している。そのほか,NPGの定価の値上げ率は,図書館の資料費の増加率を大きく上回っていること,UCや他の機関はNPGに莫大な金額を毎年支払っており,今回の値上げがUCに対する値引きを補てんするためだというNPGの言い分は信じがたいということ,NPGが定価を自由に設定できる現状では,定価自体に意味がないこと,1ダウンロード当たりのコストは確かに安いが,オンライン利用の増加に関する出版社の限界費用も非常に低いこと,などを指摘し,NPGに反論している。そして,UCとNPGが持続可能で相互に恩恵を受けられるような関係を築けるよう,この件について建設的な対話をしたいとNPGに希望している。

 6月10日のUCの回答に対し,2010年6月22日時点でNPGは公式のコメントを発表していない。事態がどのような決着を見せるのか,今後の動向を注視したい。

Ref:
http://www.libraryjournal.com/lj/home/885271-264/uc_libraries_nature_publishing_group.html.csp
http://blogs.library.ucla.edu/biomedical/files/2010/06/Nature_Faculty_Letter_060410.pdf
http://www.nature.com/press_releases/cdl.html
http://osc.universityofcalifornia.edu/news/UC_Response_to_Nature_Publishing_Group.pdf
http://www.cdlib.org/cdlinfo/2010/06/09/letter-to-uc-faculty-on-nature-publishing-group-subscription-increases/
http://www.cdlib.org/cdlinfo/2010/06/10/nature-publishing-group-price-increases-controversy-continues/
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20100610/1276177987
CA1639