E1029 – 「デイジーの活用による情報アクセスの保障と促進」<報告>

カレントアウェアネス-E

No.167 2010.03.10

 

 E1029

「デイジーの活用による情報アクセスの保障と促進」<報告>

 

 2010年2月19日,財団法人日本障害者リハビリテーション協会主催の国際シンポジウム「デイジーの活用による情報アクセスの保障と促進」が開催された。デイジー(DAISY)とは,デジタル録音図書の国際標準規格である。最新バージョンである「デイジー3」は,音声データだけでなく,テキストデータや画像データも扱う,マルチメディアな規格となっている。

 シンポジウムの冒頭では,河村宏氏(デイジーコンソーシアム会長・国立障害者リハビリテーションセンター特別研究員)が基調講演を行った。河村氏は,デイジーを活用することにより,コンテンツをXML形式で蓄積し,それをフォーマット変換ツールを用いて利用者に適した形式(音声,点字,大活字等)に変換し,提供することが可能になる,と指摘した。河村氏は,文字を読むことに困難がある人々に多様な情報アクセスを提供するこうした仕組みを,図書館等の公共の情報関連機関や出版において採用していくことを提案した。

 続いて海外からの専門家4人による講演が行われた。その中でマーカス・ギリング(Markus Gylling)氏(デイジーコンソーシアム技術開発部長・スウェーデン国立点字録音図書館)は,デイジーの次世代規格である「デイジー4」について説明を行った。デイジー4では,より多様な利用者を想定し,新たに動画との同期や日本語の縦書きとルビにも対応する予定である。また,こちらも次世代規格を策定中である,電子書籍の共通フォーマット「EPUB」との連携も進められている。現在,EPUBの規格にはデイジーと共通する技術が多く含まれているが,EPUBコンテンツそのものをデイジーの再生システムで再生できるまでには至っていない。デイジー4ではEPUBのコンテンツをそのままデイジーの再生システムで読むことができるようになる見込みだ。その他の講演者からは米国のデジタル教科書の動向,ディスレクシア当事者にとってのデイジー,そしてオープンソースを利用したデイジー製作ツールの開発について報告があった。

 パネルディスカッションでは日本におけるデイジーの普及について,関係者間のパートナーシップ,技術的な課題,法律や制度といった視点から意見が交換された。国立国会図書館の進める大規模デジタル化についても,その方法や形式について意見が交わされ,電子納本や電子出版にまで話が及んだ。様々な立場からの意見があったが,総じて,技術的な進歩を歓迎しつつもそれだけでは解決が難しい課題がある点,その解決のためには制度作りと技術開発の両方で関係者相互の協力と働きかけが必要であるという点では意見が一致していた。河村氏による「みんなで知恵を合わせ,汗をかかなければならない。皆が自分のニーズを明らかにして一緒に協力すれば状況はよくなる」というまとめは,シンポジウムの共通認識を象徴するものであった。

 今回のシンポジウムに参加し,障害者向け資料と一般向け資料の間にこれまで存在していた境界が,電子の世界で溶解していくことを感じた。デイジーとEPUBの連携はその第一歩であり,今後こうした流れはますます加速していくと予想される。

(関西館図書館協力課・水野翔彦)

Ref:
http://www.normanet.ne.jp/info/seminar100219.html
http://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2009/article_0061.html
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