CA639 – 窮地に立つ中国の公共図書館 / 鎌田文彦

カレントアウェアネス
No.124 1989.12.20


CA639

窮地に立つ中国の公共図書館

1989年7月15日から18日まで,中国国家図書館(北京図書館)において,「全国文明図書館経験交流会」が開催された。この会議では,過去一年余りにわたって全国で展開されたサービス向上を中心とした「文明図書館創造活動」の総括と経験交流が行われ,また優秀な図書館・図書館員が表彰された。ちなみに,「文明」というのは,優れた組織・部門に贈られる名称である。しかし,一見華やかなこの会議の席上,現在の中国の公共図書館がかかえる深刻な問題点も浮かび上がってきた。

1988年末段階で,県レベル以上の公共図書館は全国で2,485館しかない。全国には,未だに公共図書館のない県が269もある(中国の県は,省の下の地方行政区画である)。

全国の公共図書館の蔵書数は総計2.8億冊だが,これは国民一人当たりにすると0.25冊にすぎない。

1988年の資料購入費は,全国の公共図書館総計で6550万元だったが,これは国民一人当たりにすると,わずかに5分である(1分=0.01元,1元=約40円)。

資料購入費が増えないことに加えて,近年の急激なインフレーションの影響を受け,購入し得る資料の数量が激減している。1982年に1冊平均1元だった図書の価格は、1988年には平均3元になってしまった。やむを得ず購入を中止した定期刊行物も多い。1983年には,全国の公共図書館は年間1541万冊の図書を購入したが,1988年にはそれが1181.3万冊に減少した。例えば,北京の首都図書館では,1986年には74万元の費用で11万冊を購入したが,1988年には78万元でわずか7万冊しか購入できなかった。

公共図書館が,多様化するニーズに応え,「社会の大学」として本来の機能を果たしてゆくためには,どうしても外からの「輸血」が必要だというのが,中国図書館界の声である。

鎌田文彦

Ref.人民日報 1989.7.19
経済日報 1989.8.20