CA599 – フランス新国立図書館の建設用地決定 / 門彬

カレントアウェアネス
No.118 1989.06.20

 

CA599

フランス新国立図書館の建設用地決定

フランス政府は,昨夏ミッテラン大統領が提唱した新国立図書館(TGB)をパリ市内東部のセーヌ左岸に沿ったトルビアック橋の袂に建設し,現在の国立図書館が所蔵する1945年以降の図書資料を全てこの新図書館に移管する事を決定した(TGB建設の経緯についてはCA564およびCA595を参照)。10指に余る候補地が誘致合戦を繰り広げたが,シラク・パリ市長が大統領の要請を受けて,河沿いの7万m2の敷地を無償で政府に提供することで決着を見た。この地域は,半ば見棄てられた倉庫が立ち並び,しばしばハードボイルドの小説や映画の舞台になる,パリでも最も陰欝な所であるが,最近市が再開発に乗り出した。既に金融センターや2,3の大学施設の進出が決まっており,未来の図書館の前には大公園も造られる予定である。市側はTGBを地域再開発の目玉とする意向で,宿敵同士のミッテランとシラクの両氏が珍しく手を組んだ結果となった。

しかし問題がないわけではない。ここはカルチエ・ラタン(大学街)から遠くはないものの,間にパリの基幹駅の1つであるオーステルリッツ駅の大操車場が横たわっており,セーヌ左岸から直接この未来の図書館に至る道路がない。数10本の鉄道路線を地下に埋設するか,或は新図書館まで地下鉄を延長するか,政府は新たな問題に頭を痛めることになりそうだ。更に重要なことは,セーヌ河畔にTGBを建設した場合,建物の地下部分は川の水面より低くなり,図書館を水の災害から完全に守れるのかどうか専門家から疑義が提出されているのである。

ともあれ,設備等を含まない純粋の工費は40〜50億フラン(約800〜1000億円)と見積もられている。この額は,単純な比較はできないものの,日本の首都圏にこれから建設されるインテリジェント高層ビル1個の建築費(土地代を含まない)にほぼ匹敵する。

フランス政府は,4月末,日本人建築家槙文彦氏を含む内外20の建築家またはグループを指名して,基本設計プランの提出を委嘱した。今夏に優秀作数点を選び,大統領の裁断を待って,最終的に建築家を決める予定である。

門  彬

Ref. Le Mond, 1989.4.13. Ibid., 89.4.20. Nouvel Observateur, 1989.4.20 / 26 その他