CA1779 – 動き出した北九州市漫画ミュージアム / 古川清香

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カレントアウェアネス
No.314 2012年12月20日

 

CA1779

 

 

動き出した北九州市漫画ミュージアム

 

北九州市漫画ミュージアム司書:古川清香(ふるかわ さやか)

1. はじめに

 福岡県北九州市のJR小倉駅新幹線口から徒歩2分のところに、サブカルチャー大型施設「あるあるCity」がある。その5階・6階部分に、今年の8月3日、北九州市漫画ミュージアムが開館した。延べ床面積約2,300平方メートル、5階には期間限定のイベントや展示会を行う「企画展示エリア」、6階には「常設展示エリア」と「閲覧エリア」がある。

 北九州市は、「銀河鉄道999」などの作者、松本零士氏をはじめ、把握しているだけでも約50名もの漫画家を輩出しており、市としてその漫画家や漫画作品を貴重な財産として、保存・継承していくことが求められていた。それを果たしつつ、さらに漫画文化の情報発信と地域賑わいの創出の拠点となるべく、「北九州市漫画ミュージアム」は開設された。

 

2. 北九州市漫画ミュージアムの特徴

 当館は「見る」「読む」「描く かく 」を三本柱に漫画を紹介している。6階常設展示エリアでは、北九州市ゆかりの漫画家の紹介や原画展示、漫画の歴史、使う道具や独特の表現方法、流通など、漫画の仕組みを紹介しており、「見て」漫画を知ってもらうコーナーになっている。

 さらに進むと、新旧約5万冊の漫画本を「読む」ことができる閲覧エリアがある。本はすべて閲覧のみで、貸出は行っていない。来館者を圧倒するほどの量の漫画が並ぶ壁や柱と、寝ころびながら漫画を読めるスペース「ゆたっとひろば」は、はやくも当館の名物となっている(図参照)。

 

図 閲覧ゾーン ゆたっとひろば、特集コーナー

図 閲覧ゾーン ゆたっとひろば、特集コーナー

 

 閲覧エリアの一角にあるソムリエカウンターでは、当館のスタッフが常駐して、来館者からの質問、所蔵状況の問い合わせに応じている。さらにスタッフが組む特集コーナーでは、季節やイベントに合わせて、様々な漫画を紹介している。来館者からのメッセージやおすすめ漫画を紹介するコーナーもあり、読むだけではなく、漫画の情報交換の場にもなっている。

 イベントエリアでは、漫画を「描く」体験ができる企画を定期的に開催している。漫画体験では、漫画家が使う道具を使って描くことができ、誰でも自由に参加できる。申込制の漫画教室は、専門学校でも教鞭を執っている漫画家が講師を務め、本格的な漫画の指導を受けられる。ここから若い漫画家が誕生するきっかけになればと期待している。また、漫画家を招いてのトークショーも開いており、漫画家を身近に感じられる場所になっている。

 

3. 漫画資料の管理について

 当館は開館する約2年前から広く一般市民からの漫画寄贈を受け付け、その結果、さらに京都国際マンガミュージアムからの寄贈も加わり、幅広い年代の作品、特に昭和50年代から平成10年代に出版された資料を中心に、約4万冊が集まった。さらに新作や復刻版などは購入で補い、開館1年前に専任の司書を配置して、本格的に所蔵整理を始めた。当館では、基本的には漫画は単行本のみ閲覧対象としている。なお「成年コミック」は開架では公開していない。また、雑誌やメディアミックスされた作品は、収容能力の関係上、北九州市ゆかり漫画家関連作品のみを収集対象としている。

 漫画の並べ方は、書店のような出版社・レーベル別ではなく、著者(作画者)名順にしている。男性・女性向け、少年・青年向けといった区別なく、同じ並びに配架している。しかし、漫画の描写や台詞、ストーリー展開が著しく大人向けであり、万人に対してお勧めしにくい作品は、書架の上段に配架し、幼い子が無意識に作品を手にしないように配慮している。直接的で過激な表現がしやすい漫画には、公共施設という観点から必要な対応だと考えている。大人向けと判断したものは、管理上、請求記号に「YS(ユースシニア)」、それ以外は「F(ファミリー)」の記号を付し、背ラベルの色で分類している。

 当館の蔵書管理は、富士通株式会社のクラウド型公共図書館業務用システム「WebiLis(ウェブアイリス)」によって行っている。クラウド型のため、導入準備期間は短時間で済み、サーバールームや当館スタッフによる保守の必要もなく、スタッフは利用者サービスに専念できる。

 館内には2台のOPAC端末を設置し、来館者が漫画本を検索できるようになっている。また、当館ホームページ(1)から「蔵書検索」にアクセスすると、インターネットからも蔵書を検索できる。近年出版された作品については、詳細画面を開くと表紙写真が表示されるようになっており、本のイメージがつかめるようになっている。

 さらに、効率的な資料管理のために、ICタグを採用した。蔵書点検データの読み込みはもちろん、所蔵データ変更も複数冊同時に処理できる。また、ICタグは、直に資料バーコードを読み取る必要がないため、表紙裏にも貼付可能で、表紙デザインに配慮することができた。背ラベルも表紙デザインに響かない小さいラベルにしている。また、ICタグの特性を生かし、持出防止ゲートも併せて設置している。

 漫画を閲覧に供しながら保管をし、さらに展示や研究し使用することも考慮して、資料は粘着シールではなく、明治大学現代マンガ図書館や京都国際マンガミュージアムで採用されている、透明フィルムによるカバー装着にした。

 課題は、蔵書目録の整備であった。一般的な公共図書館では漫画の蔵書比率が低く、漫画の既製の蔵書目録(機械可読目録:MARC)がほとんどない。そのため、すべての資料の書誌データを日本目録規則に基づきながらExcelで作成した。それを元に現在もWebiLisへの書誌データ入力作業を行っている。

 

4. 漫画の検索方法

 開館してしばらく経つと、わずかな記憶を頼りに漫画を探してほしいと、問い合わせを受けるようになった。これは、図書館でのレファレンス(参考調査)業務だが、図書館のように調査手段は整理できておらず、手持ちの資料だけで特定の漫画を探すのは困難で、お断りすることもあった。あらゆる調査に対応できるデータベースを構築していくことが、今後の漫画ミュージアムには重要になる、と実感した。

 広くて深い漫画を様々な切り口から検索して、目的の作品を探し出せるよう、まずは漫画情報のデータベース化を進めることから取り組み始めている。

 医療やスポーツなど特定のジャンル名や、日本十進分類法(NDC)の分類や件名を書誌目録に追加入力し、「ジャンル・キーワード検索」ができるよう作業を行っている。

 レファレンス事例については、WebiLisに備えてある「レファレンス機能」で、当館で受けたレファレンスの質問・回答の登録はもちろん、インターネットを通じて、調査中事項に関する情報を広く募ることができるため、それを活かしてデータ化を進めている。

 また、その時の気分で漫画を検索できる「フィーリング検索」というプロジェクトも進行中である。

 文化庁のメディア芸術デジタルアーカイブ事業の漫画分野でも漫画のデータベース構築が進んでいる。当館もその事業と連携を図りつつ、来館者が読みたい本を探せる体制作りをしていきたい。

 

5. さいごに

 筆者にはこれまで漫画は「個人で楽しむもの」というイメージが強かった。しかし来館者を見て認識を新たにした。来館者は、北九州市から多くの漫画家が出ていることに驚き、漫画の仕組みを見て新しい発見をし、「漫画タイムトンネル」コーナーにある時系列ごとに紹介している漫画を見ては、会話を弾ませて、話題が尽きることがない。閲覧エリアでは思い思いに漫画を読んでその感想をコミュニケーションボードに残す。さらに、漫画に触発された人はイベントにも参加し、漫画好きの人たちが集まってより一層交流を深めている。これらの様子を見ていると、漫画はどんな世代にも通用するコミュニケーションツールだともいえる。

 多くの交流と創造力が生まれる場所となるべく、漫画家の顕彰、研究とその手助けになるデータベースの構築、資料提供と保存を進め、関係各位、機関のご指導とご協力をいただきながら、漫画ミュージアムを育てていきたいと思う。

 

(1) 北九州市漫画ミュージアム. http://www.ktqmm.jp/, (参照 2012-10-22)

[受理:2012-11-14]

 


古川清香. 動き出した北九州市漫画ミュージアム. カレントアウェアネス. 2012, (314), CA1779, p. 2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1779