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CA1649 - 研究文献レビュー:公共図書館政策の研究動向 / 松本直樹

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カレントアウェアネス
No.294 2007年12月20日

 

CA1649

研究文献レビュー

 

公共図書館政策の研究動向

 

 

はじめに

 本稿では,国内で刊行された公共図書館政策に関する文献をレビューする(1)。期間は基本的に2003年以降のものを対象とするが,一部それ以前のものも含む。

 はじめに本稿が対象とする「公共図書館政策」について定義しておこう。「公共図書館政策」は,2点で定義が必要である。一つは「政府レベル」で,一つは「政策」の捉え方で,である。

 まず,どのレベルの「政府」に焦点を当てるか,が問題である。「政府」というと,中央政府(国)と捉えるのが最も一般的である。しかし,近年では地方自治体のことを「地方政府」と捉えることがある(2)。よって,地方自治体の図書館政策も含めるかどうかが問題になる。地方自治体の図書館政策を取り上げる場合,個別具体的な提供サービスや経営指針などを論じることになるが,本稿では,他の政府に影響を与える政策に注目することとし,そうした個別具体的な政策は取り上げないこととする。したがって,基本的に中央政府の政策,あるいはそれと関連した動きに焦点を当てる(3)

 つぎに,「政策」をどのように捉えるか,である。政策と類似のものに「実施活動」がある。西尾(4)によれば,政治機関によって決定される活動案が政策であり,行政機関の決定にゆだねられている事項の立案・決定活動が「実施活動」である,という。つまり,方向性は政治機関によって決定され,それに反しない限りで行政機関にゆだねられている領域が「実施活動」になる,というわけである。しかし,その定義を用いると,政治機関の分析がほとんどない図書館政策の領域では,扱えるものがあまりに少なくなってしまう。そこで,本稿では政治機関と行政機関によって立案,決定された政策・実施活動のうち,公共図書館と関連するものを論じた文献を対象とすることとする。

 なお,タイトルでは,「研究」動向となっているが,公共図書館政策の研究が十分ないため,報告,提言といったものも取り上げる。

 以下,文部科学省を中心とした近年の政策について概観する。続いて,文部科学省,日本図書館協会を対象にした研究,構造改革の影響に関する研究,海外の図書館政策の研究を取り上げる。

 

1. 近年の公共図書館政策

 はじめに公共図書館政策を担う主体について確認し,つぎに近年の公共図書館政策について政策文書と法律を概観する。

(1) 政策主体

 国の公共図書館政策は,政治機関である国会,行政機関である省庁,特に公共図書館については文部科学省が中心になって立案している。また,専門家による技術的な助言,中立的見解を得るため,文部科学省に審議会が設置されることもある。

 文部科学省で公共図書館を所管しているのは,生涯学習政策局社会教育課図書館振興係である(5)。審議会については,中央教育審議会の分科会である生涯学習分科会が,主に公共図書館に関係する諮問に答申している(6)

 大学図書館や学校図書館など館種が異なる図書館は違う部署が所管している。また,審議会も異なる。このように担当の局,審議会が異なることは,公共図書館にとってクリティカルな課題だが他館種とも関わりのあるもの,例えば司書職制度のあり方を論じる際,極めて不都合になる可能性がある。他館種との調整のため,行政組織上,あるいは審議会の組織上,より高いレベルでの議論が必要になることがあるためである。

 近年,活動している公共図書館関連の審議会には,文部科学省に設置されている「生涯学習分科会制度問題小委員会」,文化庁に設置されている「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会」がある。これらは,国家行政組織法第8条,及び政令に基づき設置されたものである。また,法的な位置づけは明確ではないが,文部科学省の生涯学習政策局長の決定のもとに「これからの図書館の在り方検討協力者会議」が設置されている。これは,主に公共図書館政策について専門家の意見を聴取するために設置されている。

 近年の文部科学省による図書館振興策は,補助金等の誘導的で実効性が高いコントロール手段によってではなく,モデル,報告,基準の提示といった,いわばソフトなコントロール手段によって推進されている。

(2) 近年の政策文書(7)

 つぎに,2000年以降に出された主要な政策文書と法律について簡単に概観する。

 2000年,生涯学習審議会から「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について」(8)が答申された。生涯学習審議会による答申であり,政策体系の中で高い位置づけを持つものである。ここでは,地域情報拠点としての図書館像が示され,また情報技術の積極的活用がうたわれている(9)。同年,上記の答申を含め,情報技術の活用等,電子図書館機能のあり方を探る目的で,『2005年の図書館像 地域電子図書館の実現に向けて』(10)(2000)(以下「2005年の図書館像」)が文部省内に設置された「地域電子図書館構想検討協力者会議」から出された。ここでは,情報技術の活用に焦点を絞って,近未来の図書館像をわかりやすく提示している。

 2001年,「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(11)(以下「望ましい基準」)が文部科学大臣によって告示(2001)された。これについては,何よりも告示された事実が公立図書館界にとって重要であろう。内容的にはこれまでの図書館界の議論,例えば『公立図書館の任務と目標』(12)で提起されてきたものが多く取り上げられているが,新しい点として,広域図書館への取り組み,政策・行政資料提供,サービス計画の作成,点検,評価などが盛り込まれている。

 2005年,『地域の情報ハブとしての図書館 課題解決型の図書館を目指して』(13)(2005)が,「図書館をハブとしたネットワークの在り方に関する研究会」から出された。ここでは,図書館を情報や人のハブ(ネットワークの中心)とすることが提起されている。優先すべき取り組みとして,ビジネス支援,行政情報,医療関連情報の提供等が挙げられている。情報コミュニケーション技術(ICT)の積極的活用が強調されており,内容的には「2005年の図書館像」を引き継いだものである。

 2006年,『これからの図書館像 地域を支える情報拠点をめざして』(14)(2006)(以下,「これからの図書館像」)が「これからの図書館の在り方検討協力者会議」から出された(15)。ここでは,「望ましい基準」で強調されなかった点や,社会の変化に対応した試みが提示された。この報告書は,「望ましい基準」を補完するとともに,バージョンアップしたもの,と捉えることができる。また,2000年以降,ハイブリッド化や課題解決型図書館の提起がなされたが,それらも含めた包括的な政策提案である。全体として資料提供サービスに比べ,情報サービスが強調されている。

 図書館政策に関係する法律としては,「子どもの読書活動の推進に関する法律」(16)(2001),「地方自治法の一部を改正する法律」(17)(2003)「文字・活字文化振興法」(18)(2005)がある。特に,地方自治法改正によって指定管理者制度が導入されたことは,図書館経営に大きな影響を及ぼしている。

 

2. 文部科学省・日本図書館協会の公共図書館政策

(1) 文部科学省

 公共図書館政策を担う文部科学省は,本来であれば政策研究の中心的テーマになるべき機関であるが,報告が中心で研究は少ない。歴史的にしっかりした「公共図書館政策」がなかったことが影響しているのかもしれない。

 「2005年の図書館像」については,委員として議論に参加した土本(19),二村(20)による文献がある。ともに,議論の経緯と報告の特徴を知る上で有益である。二村によれば,文部省は提言の実効性を担保しないかわりに自由な議論を期待した,とのことである。

 「望ましい基準」については,報告書作成に携わった研究者から越塚(21),田中(22)が立案のプロセス等を報告している。越塚は研究者が図書館政策作りにどのように関わるべきか,実体験に基づく提言をしており,興味深い。田中はまとめ役として,様々な制約の中で慎重に検討を重ねたことを報告している。告示の仕方の問題点の指摘は,政策プロセスに関わった田中の発言だけに説得力を持つ。

 北・村上(23)は第三者の視点から,「望ましい基準」を考察している。「望ましい基準」の特徴を述べた後,問題点を数値目標,前文削除,記述のバランス,という観点から批判的に検討している。分析に際しては,文部科学省や日本図書館協会の政策文書との関係も論じており,丁寧に問題点を洗い出している。

 「望ましい基準」の達成状況については,国立教育政策研究所社会教育実践研究センター(24)が調査をしている(2003年11月調査実施)。達成状況について,一定の情報が得られる。

 薬袋(25)は,自らが委員(主査)としてまとめた「これからの図書館像」について,検討体制,報告の背景,構成を述べた後,報告の特徴とこれからの図書館に求められる運営について述べている。文部科学省による近年の図書館政策と「これからの図書館像」の位置づけを確認する上で,欠かせない文献である。なお,少し前の文献だが,糸賀(26)による文献も文部省の政策の流れを知る上で有益である。

 「これからの図書館像」に対して,平久江(27)は学校図書館との連携協力のあり方について検討している。これまでの政策文書と比較し,提言が「学校支援サービスに対する従来の見解をさらに推し進め」ると高く評価している。また,大庭(28)はレファレンスサービスに関する提言を詳しく取り上げた上で,こちらも提言を高く評価している。

 文部科学省による図書館政策研究として,将来的に重要な資料となるのは「これからの図書館の在り方検討協力者会議」の議事録(29)であろう。議論を追っていくと興味深い記述が数多く見られる。例えば,協力者会議での議論の政策化がどのようになされるか,も議事録に記述されている。それによれば,会議での意見は中央教育審議会に反映され,その答申に盛り込まれれば政策化され,法律改正につながることもあるという(第1回の会議録より)。

 文部科学省における図書館政策の立案過程を分析する際,こうした知見は不可欠であるにも関わらず,政策過程の全体像を詳細に報告した文献や,研究した文献がないことは,図書館関係者が図書館政策を推進する上で,マイナスに作用するのではないであろうか。

 必要な数の公共図書館の設置や,司書の充実等を定めた「文字・活字文化振興法」については,日本図書館協会が,2005年7月に要望をまとめ(30),法成立後には,全国図書館大会において,実効性確保のため会員,協会各委員に意見,提案を募った(31)。その後,『豊かな文字・活字文化の享受と環境整備』(32)という提言を出している。

 梅本(33)は,法律の必要性への疑問を呈しながら,施策の展開にあたっては,図書館側の積極的な関わりが必要ではないか,と提起している。

 「子どもの読書活動の推進に関する法律」については,すでに岩崎が本誌『カレントアウェアネス』で政策の内容,読書推進計画に関する文献を取り上げているので,ここでは取り上げない(CA1638参照)。

 図書館政策の歴史研究としては,根本,三浦らによる占領期図書館研究(34)が重要である。三浦(35)は,占領期の図書館政策形成に大きな影響を残したキーニー(Philip Keeney)について,彼が構想した図書館制度(中央図書館制度によって特徴づけられる)を一次資料から丁寧にまとめている。根本(36)等による一連の研究と原資料の目録・解題は,占領期の公共図書館政策を考える上で貴重な資料である。

(2) 日本図書館協会

 はじめに,日本図書館協会による政策提言について確認し,つぎに,関連する研究や報告について概観する。

 2000年以降に提案されたもののうち,重要なのは,『図書館による町村ルネサンスLプラン21』(37)(2001)と,「公立図書館の任務と目標改訂版」(38)(2004)である。前者は,文部省から日本図書館協会が受託した委嘱研究であり,町村における図書館振興を目指し,政策提言を行ったものである。後者は,『中小都市における公共図書館の運営』,『市民の図書館』を引き継ぐ日本図書館協会の中心的な政策文書の改訂である。文部科学省によって「望ましい基準」が告示されたことで,今回の改訂が最後になるという。日本図書館協会から出された政策文書との整合性を図りながら,また,「望ましい基準」の具体化,という観点から改訂が進められたものである。

 研究の中で,まず取り上げたいのは東條(39)による歴史研究である。東條は,大正から第二次世界大戦に至る25年間の日本図書館協会を中心とした図書館設置運動の歴史を描いている。図書館設置を推進するため,国家政策に接近していく図書館界の動きを,史実に丁寧に当たりながら展開している。当時の文部省との関係も描かれており,興味深い。

 春田(40)の研究は,日本図書館協会という団体の性格を考える上で,貴重な論考である。春田は,個人会員と施設会員との関係,ナショナルセンターとしての在り方の問題について,データに基づく分析をしている。日本図書館協会が公共図書館中心の機関であることなど,これまで経験的に知られていたことを,データを丹念に追うことで実証している点は,価値ある研究である。

 近年の日本図書館協会の政策プロセスについては,塩見(41)が「公立図書館の任務と目標」および「解説」の改訂作業について,経緯を報告している。

 章の最初に述べたことだが,全体として,文部科学省を対象とした本格的な政策研究は不足している。そして,これは日本図書館協会についてもいえる。最も影響力のある団体として,日本図書館協会がどのような意志決定のメカニズムを持ち,政策推進のために外部のアクターにどのような働きかけを行っているか,に関する研究はほとんど見られない。

 

3. 構造改革と公共図書館

 近年の国,地方自治体の改革は,「構造改革」と呼ばれているが,これは,日本版の「新自由主義的改革」といえる。この改革は,ケインズ主義的福祉国家からの脱却,規制緩和,緊縮財政,自己責任などを特徴とする。緊縮財政は地方分権の流れを推進するとともに,地方自治体のニュー・パブリック・マネジメント(NPM)改革を促している(42)

 こうした一連の改革は相互に連関しながら,公共図書館に実質的に大きな影響を与えている。地方分権という文脈では,文部科学省の政策官庁化,中央政府による実効的コントロール(国庫補助金など)の見直し,などが挙げられる。NPM改革という文脈では,市場メカニズムの積極的活用(アウトソーシング)などが挙げられる。

 以下では,こうした一連のマクロレベルの改革が公共図書館に与えている影響を論じた文献を概観する。扱うのは,(1)構造改革との関係を扱った文献,(2)アウトソーシングについて扱った文献,(3)その他のサービス提供のあり方を扱った文献,である。

(1) 構造改革との関係を扱った文献

 坂田(43)は,教育基本法改正に見られるような改革を「新保守主義」と呼び,その公共図書館に対する影響を論じている。特に,業務委託,指定管理者制度,そして選書に大きな影響が出ることが危惧される,と規範的観点から論じている。

 日本図書館協会図書館政策委員会が企画し開催した「政策討論連続講座」は,大局的な視点を得る上で役立つ。特に第一回の後藤と山口の議論からは,近年の政策環境の変化を把握することができる。後藤(44)は「構造改革」がもたらす労働市場の変容を中心に論じているが,改革が歴史的にどう位置づけられるか知る上で有益である。同じ回で山口(45)は,公共図書館理念の再構築とそのための法制度の整備を主張する中で,「構造改革」と図書館政策との関連に注目し,新しい図書館政策を模索する上での示唆を提示している。

 NPM改革については荻原(46)の検討が重要である。荻原はNPMの背景,理論的基礎,基本概念などを整理した上で,公共図書館への導入における論点をまとめている。荻原によるNPMの文献紹介(47)とともに,市民との協働等,これからの公共図書館経営を考える上で重要な文献である。

(2) アウトソーシングについて扱った文献

 近年,図書館経営に関し,窓口委託,PFI,指定管理者制度などが強い関心を集めてきた。2003年から2006年まで『図書館雑誌』及び『みんなの図書館』ではこれに関する特集が合計7回(48)組まれている。また,PFIに関しては文部科学省による調査(49)が実施されている。

 この分野は,すでに柴田による文献紹介が本誌『カレントアウェアネス』上にあるため(CA1589参照),ここでは,これらのレビュー論文を紹介するにとどめる。

 柴田は,1999年から2006年までの大学図書館,公共図書館の経営管理,特にアウトソーシングの文献をレビューしている。柴田は多くの文献をレビューした最後に,「評論家風に「有るべき論」を掲げるものよりも,当事者として関わった人たちの反省を込めた積極的な発言をこそ真摯に捉えるべきだろう」と締めくくっている。筆者も,まさにそうした発言を多く期待したいとともに,彼らがそれぞれのプロセスでどのような意志決定をしたか,あるいはせざるをえなかったかを,研究者としてたどることも重要と考える。薬袋(50)は指定管理者制度の概要と参考文献を紹介している。PFIに関しては須賀(51)が紹介している。

(3) その他のサービス提供のあり方を扱った文献

 図書館を教育委員会から,首長部局に移管する動きがある。このことについて,鎌倉市の事例を阿曾(52)が報告している。こうした動きは,そもそも全国市長会や地方分権改革推進会議などが,教育委員会設置の弾力的対応を求める中で生じている。阿曾は,鎌倉市における図書館移管問題について,反対の立場から運動の経緯を述べている。鎌倉市の動きに対し,日本図書館協会(53)も「公立図書館の所管について」を発表し,反対の立場を表明している。

 荻原(54)は,公共サービス提供における住民セクターの重要性を指摘する。行政学の先行研究を論じながら,これからの公共サービス提供の方向性を確認し,住民セクターとの協働の在り方を探っている。今後のサービス提供を考える上で不可欠の視点であろう。荻原は方法論的に,行政学の知見を多く取り入れている。公共図書館は行政機関の一部門であることから,研究領域においても行政学の知見を生かせる余地が,多々あると考えられる。今後もこうした研究が期待されよう。

 以上,文献を見てきたが,一連の改革は,図書館政策研究や関連文献が対象とする射程を広げているように思える。従来,図書館政策の研究や文献は生涯学習政策(社会教育政策)といった,比較的近接した政策領域との関係を論じることが多かった。それが,構造改革の影響により,より大きな政策との関係も含めて議論する必要が生じている。

 

4. 海外の図書館政策の研究

 上で見たような新自由主義的政策は,1980年代以降,イギリス,アメリカで採用され,日本でも近年,強力に推進されている。こうした背景を考えると,今後の動向の示唆を得る点で海外の研究は重要である。また,新自由主義的政策に限らず,情報リテラシーの向上や読書支援といった共通する課題に対して示唆を得る上でも海外の研究の意義は大きい。

 宮原(55)は,シンガポールで国家的に推進されている図書館情報政策“Library 2000”を取り上げている。宮原は策定の背景や内容について,シンガポールの国家戦略との関連から論じている。近年,先進的取り組みで図書館界から注目を集めるシンガポールの図書館情報政策の概要を知ることができる。

 須賀(56)は,イギリスの公共図書館政策において,「社会的包含」(貧困,失業,健康問題などが原因となって社会から排除された人々を再び社会の一員に迎えること)の考え方がどのように捉えられ,実践されたか,政策文書から明らかにしている。市場原理と社会的公正の両立を目指す「第三の道」を模索する中で,社会的包含に基づく図書館実践を,過去の図書館実践との整合性を考慮した上で検討しており,日本の現状を考えたとき,示唆に富むものである。須賀はイギリスにおける公共図書館政策への批判,提言についてもまとめている(CA1568参照)。

 金 (57)は,韓国の図書館情報政策に関する法制度や,現況について,詳細に論じている。また,本誌で 2006年の図書館法制定について報告している(CA1635参照)。積極的に図書館政策が展開されており,注目される。また,ジョは図書館情報政策の所管変更の経緯や関連法規などをまとめている(CA1578参照)。

 文部科学省は,「これからの図書館像」で海外の公共図書館政策について言及するのみならず,韓国,中国,シンガポールの図書館政策に関する報告書(58)や,日本を含む10か国の公共図書館に関する詳細な報告書(59)を出版している。ともに,中央政府の政策体系における図書館政策の位置づけなどが報告されており,有用な政策研究でもある。

 

5. おわりに

 以上,文献を見てきたが,端的に言って,公共図書館政策研究は,研究と呼べるレベルのものが少ない。この研究領域にとってまず必要なことは,研究の数を増やすことであろう(自戒を込めて)。

 方法論的な観点からいえば,政治学,行政学で蓄積された理論的知見をもっと導入するべきと考える(60)。これは,公共図書館が地方自治体の一部門であることを考えると,それほど違和感のないことではないだろうか。その際,政治学や行政学で意識されている区別,規範研究と分析的研究(実証研究)の区別(61)にも自覚的でいるべきだろう。規範研究とは,政策や制度のあるべき姿を法律や図書館理念から導き出そうとする研究であり,分析的研究は理論的枠組みを設定した上で,実態を観察し,それを生み出している要因を分析的に明らかにする研究である。前者は,直接に図書館現場への示唆を示すことができる一方,理念優先になる傾向が強い。後者は実態をふまえた提言が可能になる一方,実態に引きずられる傾向が強い。それぞれの立場の研究が,お互いを補う形で発展していくことで,実現可能なよりよい図書館政策が立案され,実施されていくのではないだろうか。

東京大学大学院教育学研究科:松本直樹(まつもと なおき)

 

(1) 本稿の内容に近い文献に薬袋のものがある。薬袋は,「公共図書館行政」の最近の文献を紹介している。政治機関による「政策」立案が少なく,研究も少ない公共図書館領域ではレビュー対象は本稿とほとんど重複している。
薬袋秀樹. “公共図書館政策”. 三田図書館・情報学会. 図書館・情報学研究入門. 東京, 勁草書房, 2005, 142-145.

(2) 礒崎初仁ほか. 地方自治. 東京, 北樹出版, 2007, 265p., (ホーンブック).

(3) 本稿では,都道府県による公共図書館振興策については取り上げなかった。

(4) 西尾勝. 行政学. 新版, 東京, 有斐閣, 2001, p.245-247.

(5) 図書館関係の課一覧は,『図書館雑誌』に掲載されている。学校図書館や大学図書館は,異なる局が所管している。文部科学省. 霞が関だより, 第1回. 2003, 97(10), p.724-727.

(6) 政府,地方自治体に設置される審議会一般について,行政学者で,地方分権推進委員会や中央教育審議会,財政制度等審議会などに委員として参加してきた森田が,委員の選出方法や議論のプロセスを詳しく論じている。
森田朗. 会議の政治学. 東京, 慈学社, 2006, 190p.

(7) 本稿で紹介している報告書などの他に,文部科学省はパンフレット「すべてのまちに図書館を:公立図書館の整備への支援策等の紹介」を出している。文部科学省生涯学習政策局. “すべてのまちに図書館を:公立図書館の整備への支援策等の紹介”. http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/pamph/06020303/001.htm, (参照 2007-11-20).
また,『図書館雑誌』に2003年10月(97(10))号から,「霞が関だより」というコーナーで図書館に関係する情報を毎号掲載している。

(8) 文部科学省. 新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について(答申). http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/shougai/toushin/001213.htm, (参照 2007-11-01).

(9) 生涯学習の振興方策を審議している生涯学習分科会は,2004年,「今後の生涯学習の振興方策について」として,審議経過の報告をしている。公共図書館の今後のあり方としては,ハイブリッド化や図書館間の情報共有等が望まれる,としている。また,司書資格のあり方について議論を深める必要性が指摘されている。
文部科学省. 今後の生涯学習の振興方策について(審議経過の報告). http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/toushin/04032901.htm, (参照 2007-11-01).

(10) 文部科学省 地域電子図書館構想検討協力者会議. 2005年の図書館像:地域電子図書館の実現に向けて (報告). http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/005/toushin/001260.htm, (参照 2007-10-10).

(11) 文部科学省. 公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準. http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/dokusyo/hourei/cont_001/009.htm, (参照 2007-10-10).

(12) 日本図書館協会図書館政策特別委員会編. 公立図書館の任務と目標:解説, 増補版. 東京, 日本図書館協会, 1995, 85p.

(13) 図書館をハブとしたネットワークの在り方に関する研究会. 地域の情報ハブとしての図書館 課題解決型の図書館を目指して. http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/05091401.htm, (参照 2007-10-10).

(14) 文部科学省 これからの図書館像 地域を支える情報拠点をめざして(「これからの図書館の在り方検討協力者会議」報告書). http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06040513.htm, (参照 2007-10-10).

(15) 「これからの図書館像」の提起を実際に実施している事例を示し,新たな事業に取り組む参考になるよう,『これからの図書館像:実践事例集』(2006)が出されている。
図書館未来構想研究会. これからの図書館像:実践事例集. http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06040715.htm, (参照 2007-10-10).

(16) 子どもの読書活動の推進に関する法律. http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/08/020805b.htm, (参照 2007-10-10).

(17) 地方自治法の一部を改正する法律(平成15年法律第81号). http://www.soumu.go.jp/kyoutsuu/syokan/pdf/030317_2a.pdf, (参照 2007-10-10).

(18) 文字・活字文化振興法. http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H17/H17HO091.html, (参照 2007-10-10).

(19) 土本潤. 2005年の図書館像:地域電子図書館の実現にむけて(講演). 中部図書館学会誌, 2002, 43, p.1-15.

(20) 二村健. 電子図書館とは何か:『2005年の図書館像』を中心に. 学校図書館, 2001, (612), p.85-88.

(21) 越塚美加. 図書館政策の立案における研究の役割:「公立図書館の設置及び運営に関する基準について(平成12年12月)」報告の成立過程を例に. 現代の図書館. 2001, 39(2), p.83-88.

(22) 田中久文. 「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(文部科学省告示2001.7)についての雑感. 日本図書館情報学会誌. 2002, 48(4), p.175-181.

(23) 北克一, 村上泰子. 公立図書館の政策方針と『望ましい基準』. 図書館界. 2003, 54(5), p.224-232.

(24) 国立教育政策研究所社会教育実践研修センター. 図書館及び図書館司書の実態に関する調査研究報告書 日本の図書館はどこまで「望ましい基準」に近づいたか. 2004. http://www.nier.go.jp/homepage/syakai/chosa/houkokusyomokuji.htm, (参照 2007-10-10)

(25) 薬袋秀樹. レポート紹介:これからの図書館像:地域を支える情報拠点をめざして(報告). 情報管理. 2006, 49(8), p.454-459. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/49/8/454/_pdf/-char/ja/, (参照 2007-11-20).

(26) 糸賀雅児. わが国の図書館政策の最新動向:21世紀第1回図書館セミナー糸賀雅児氏講演. 図書館の学校. 2001, 18, p.7-22.

(27) 平久江祐司. 『これからの図書館像』と学校図書館:児童青少年サービスから学校支援サービスへ(投稿FORUM). 図書館雑誌. 2007, 101(1), p.40-41.

(28) 大庭一郎. 『これからの図書館像』とレファレンスサービス(投稿FORUM). 図書館雑誌. 2006, 100(11), p.768-771.

(29) 文部科学省. “これからの図書館の在り方検討協力者会議 議事録要旨”, http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/backnumber/h16.htm, (参照2007-10-10).

(30) 日本図書館協会. 文字・活字文化振興法案について. 図書館雑誌. 2005, 99(9), p.662-663.

(31) JLA図書館政策企画委員会. 「文字・活字文化振興法」を実効あるものにするために(中間報告). 図書館雑誌. 図書館雑誌. 2006, 100(3), p.166-167.

(32) 日本図書館協会. 豊かな文字・活字文化の享受と環境整備:図書館からの政策提言. 2006. http://www.jla.or.jp/kenkai/mojikatuji200610.pdf, (参照 2007-10-10).

(33) 梅本恵. 「文字・活字文化振興法」成立. 図書館雑誌. 2005, 99(12), p.836-837.

(34) 根本彰編. 戦後教育文化政策における図書館政策の位置づけに関する歴史的研究. 東京, 東京大学大学院教育学研究科図書館情報学研究室, 2005, 127p., (占領期図書館研究, 第3集).

(35) 三浦太郎. “占領期初代図書館担当官キーニーの図書館制度構想”. 根本彰編. 戦後教育文化政策における図書館政策の位置づけに関する歴史的研究. 東京, 東京大学大学院教育学研究科図書館情報学研究室, 2005, p. 33-54., (占領期図書館研究, 第3集).

(36) 根本彰編. 占領期図書館研究の課題. 東京, 東京大学大学院教育学研究科図書館情報学研究室, 1999, 132p., (占領期図書館研究, 第1集).
根本彰編. 戦後アメリカの国際的情報文化政策の形成. 東京, 東京大学大学院教育学研究科図書館情報学研究室, 2001, 187p., (占領期図書館研究, 第2集).

(37) 日本図書館協会町村図書館活動推進委員会編. 図書館による町村ルネサンスLプラン21:21世紀の町村図書館振興をめざす政策提言. 東京, 日本図書館協会, 2001, 62p.

(38) 日本図書館協会図書館政策特別委員会編. 公立図書館の任務と目標解説. 改訂版, 東京, 2004, 107p.

(39) 東條文規. 図書館の政治学. 東京, 青弓社, 2006, 250p.

(40) 春田和男. 日本図書館協会の会員と役員の構成に関する考察. 日本図書館情報学会誌. 2006, 52(3), p.152-171.

(41) 塩見昇. 「公立図書館の任務と目標」および「解説」の改訂作業を終えて. 図書館雑誌. 2004, 98(8), p.532-535.

(42) 新自由主義と構造改革の関係については佐和を参照。佐和隆光. 日本の「構造改革」:いま、どう変えるべきか-. 東京, 岩波書店, 2003, 200p.
また近年の一連の地方改革については,村松・稲継の文献がまとまっている。
村松岐夫, 稲継裕昭. 包括的地方自治ガバナンス改革. 東京, 東洋経済新報社, 2003, 339p. (特に,村松(p.1-17),稲継(p.300-318)。)

(43) 坂田仰. 公共図書館に対する新保守主義思想の影響:教育基本法改正論議に寄せて. 現代の図書館. 2005, 43(3), p.164-171.

(44) 後藤道夫. “構造改革と労働市場の変容”. 日本図書館協会政策委員会編. 現代社会と図書館の課題:政策討論連続講座記録. 東京, 日本図書館協会, 2004, p.19-43.

(45) 山口源治郎. “構造改革と図書館”. 日本図書館協会政策委員会編. 現代社会と図書館の課題:政策討論連続講座記録. 東京, 日本図書館協会, 2004, p.3-18.

(46) 荻原幸子. “ニュー・パブリック・マネジメント論と公共図書館経営論”. 日本図書館情報学会研究委員会編. 図書館の経営評価:パフォーマンス指標による新たな図書館評価の可能性. 東京, 勉誠出版, 2003, p.3-28., (図書館情報学のフロンティア, 3).

(47) 荻原幸子. “公共図書館経営とニュー・パブリック・マネジメント”. 三田図書館・情報学会. 図書館・情報学研究入門. 東京. 勁草書房, 2005, p.146-149.

(48) 2003年に図書館雑誌で「図書館の業務委託を考える」(2003, 97(3)),2004年に同じく図書館雑誌で「指定管理者制度と公立図書館経営」(2004, 98(6))が,『みんなの図書館』で「公共サービスとしての図書館サービスを考える:委託・PFIをめぐって」(2004, (325))「関西発、図書館のアウトソーシング」(2004, (328))が,2005年に『図書館雑誌』で「これからの公立図書館の行方:指定管理者制度導入をめぐって」(2005, 99(4)),『みんなの図書館』で「図書館委託の現場から」(2005, (334)),2006年に『みんなの図書館』で「指定管理者制度を選ぶ理由・選ばない理由」(2006, (349))

(49) 株式会社NTTデータ研究所. 公立図書館PFI事業化の可能性に関する調査研究 調査報告書:文部科学省民間資金活用等経済政策推進事業. http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06022101/all.pdf, (参照 2007-10-10).

(50) 薬袋秀樹. 指定管理者制度の概要と参考文献. 図書館雑誌. 2004, 98(11), p.858-859.

(51) 須賀千絵. “図書館経営とPFI”. 三田図書館・情報学会. 図書館・情報学研究入門. 東京. 勁草書房, 2005, p.150-153.

(52) 阿曾千代子. 鎌倉市における図書館移管問題から神奈川県知事への質問書提出まで. 図書館雑誌. 2003, 97(12), p.846-847.

(53) 日本図書館協会. 公立図書館の所管について:2003年1月9日. 図書館雑誌. 2003, 97(3), p.180-181.

(54) 荻原幸子. 公共図書館サービスにおけるガバナンス概念の適用:住民セクターとの新たな関係性の構築に向けて. Library and Information Science. 2004, (51), p.1-16.

(55) 宮原志津子. シンガポールにおける図書館情報政策「Library 2000」の策定と公共図書館の社会的役割の変容. 日本図書館情報学会誌. 2006, 52(2), p.85-100.

(56) 須賀千絵. 社会的包含政策の適用にみられる英国の公共図書館の経営理念:『すべての人々に開かれた図書館』の分析を中心に. Library and Information Science. 2006, (55), p.25-46.

(57) 金容媛. 韓国における図書館情報政策. 情報の科学と技術. 2007, 57(1), 2-8. http://ci.nii.ac.jp/naid/110006152406/, (参照 2007-11-20).

(58) 東アジア図書館調査委員会. 東アジア図書館実態調査に関する調査報告 諸外国の公共図書館に関する調査報告書. http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06120702.htm, (参照 2007-10-10).

(59) 株式会社シィー・ディー・アイ. 諸外国の公共図書館に関する調査報告書. http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06082211.htm, (参照 2007-10-10).

(60) こうした研究は本文の中ですでにいくつか言及してきたが,言及できなかった文献に金の文献がある。金は,公共図書館を含む図書館情報政策を対象にしながら,「政策学」あるいは「政策科学」と呼ばれる理論モデルを解説している。理論的関心が薄い図書館政策研究において貴重な研究である。理論モデルと実証研究との接合は大嶽も述べているように政治学においても課題であるが,今後,こうした理論モデルを背景知識としてふまえておくことは望まれよう。
金容媛. 図書館情報政策. 東京, 丸善, 2003, 234p.
大嶽秀夫. 政策過程. 東京, 東京大学出版会, 1990, 253p., (猪口孝編. 現代政治学叢書, 11).

(61) 『レヴァイアサン』40号(2007)は政治学の分析的研究を中心に方法論を特集した号であるが,2つの研究手法の違いを理解する上で,有用である。

 


松本直樹. 公共図書館政策の研究動向. カレントアウェアネス. (294), 2007, p.30-36.
http://current.ndl.go.jp/ca1649