CA1634 - 「システムズライブラリアン」の位置づけをめぐって / 澤田大祐

 

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カレントアウェアネス
No.293 2007年9月20日

 

CA1634

 

「システムズライブラリアン」の位置づけをめぐって

 

はじめに

 システムズライブラリアン(systems librarian)に関する論考を,日本でも近年よく見かけるようになった。図書館における多くの業務が情報システムに依存する現在,システムズライブラリアンの業務は重要なものとされている。しかし,「図書館における専門的職種としての位置づけ」については極めて曖昧である。システムズライブラリアンは,システム担当者や他のライブラリアンとどう違うのか? システムズライブラリアンになるためには,何をどう学べばよいのだろうか?

 本稿では,3 つのブログ記事を基に,システムズライブラリアンの位置づけを考える。

 

システムズライブラリアンとは?

 インガーソル(Patricia Ingersoll)とカルショー(John Culshaw) による“Managing Information Technology”(1)は,システムズライブラリアン向けの実用的な手引書である。(1)計画,(2)スタッフ配置と指揮系統,(3)コミュニケーション,(4)組織間連携,(5)開発,(6)サービスとサポート,(7)研修,(8)日常及び定期的な運用,(9)施設,(10)調査と最新技術の10章に加え,技術と高等教育に関するトレンドの要旨,45 ページのフォーマット例から成り立っている。

 この手引書によると実際には,図書館の規模に加え,採用する側の意図や働く側の意識によって「システムズライブラリアン」の定義は大きく異なっている,という。「図書館で初めてコンピュータが使われて以来,システムズライブラリアンがコンピュータのエキスパートであるべきか,それとも図書館のことを理解したコンピュータのエキスパートであるべきか,多くの議論がされてきた」(2)のであり,それは現在でも続いている。そもそも「カタロガー」「レファレンスライブラリアン」等の呼称が広く認知されている欧米の図書館業界において,「システムズライブラリアン」という呼称さえ定まったものではない。フッテ(Margaret Foote)は1997 年の段階で,システム担当者の募集時の職種名が“Systems librarian”以外にも多くあることを指摘している(3)が,現在でも“Information Systems Coordinator”,“Library System Director” 等,さまざまである。

 では,システムズライブラリアンの定義付けについて,具体的な意見を見ていきたい。

 

その1:雇う立場から

 ジョージ・メイソン大学のサロ(Dorothea Salo)は図書館における意思決定者(library decisionmakers)のためのブログ“TechEssence.Info”の著者の1人である。

 2006年9月に投稿された記事“Hiring a systems librarian”(4)で,「本物のシステムズライブラリアンは稀少な存在であり,見つけることも雇うことも難しい。さらに,雇う側が『こうであるべき』と思うようなシステムズライブラリアンではない可能性がある。」とした上で,雇う側が考慮すべきポイントを列挙している。その筆頭では,次のように述べている。

  • 被雇用者の主な仕事は何か?

 システムズライブラリアンに求めている仕事の90%がハードウェアやソフトウェアのトラブル対応であるならば,MLS(図書館情報学修士)を無駄にしていることになります。代わりにコンピュータ技術者を雇いましょう。そうではなく,データベースの仕事やウェブページのデザインとともに,メタデータを扱ったり,助成金申請の書類を書いたり,マネジメントをしたり,レファレンスも求めるのであれば,システムズライブラリアンが適任でしょう。

 

その2:学ぶ立場から

 マコーリ(Jennifer Macaulay)は,大学図書館のシステムズライブラリアンであり,またサザン・コネチカット州立大学でMLS を取得するために学ぶ学生でもある。

 マコーリ自身のブログ“Life as I Know It” に,同じく2006年9月に投稿された記事“What Does ItMean To Feel Like A Librarian?”(5)では,MLS のカリキュラムとマコーリが望むものの違いを述べている。

 MLS の学校は,レファレンスと調査が大部分を占めるような,ライブラリアンシップに関するいくつかの教義や原則に中心を置いています。それが重要でない,とか,MLS の学生はすべてそのような原則に触れるべきではない,と言いたいのではありません。しかし,今のMLS のカリキュラムがシステムズライブラリアンにとって最良のものである,とは必ずしも思わないのです。(中略)極端なことを言うと,ほとんどのライブラリアンにとって,自分がライブラリアンであると実感するのは,利用者のためにレファレンスや調査の仕事をしているときではないだろうかと思います。私はそんなことをしないし,しようとも思わないし,したくもありません。Ariel(訳注:文献伝送システム)の設定や管理,またILL 自動化システムのためにColdfusion(訳注:インターネットアプリケーション作成ソフト)の設定を終えたときに,ライブラリアンであると実感している人がいるなんて,聞いたことはあるでしょうか?自分がライブラリアンであると思うことが重要なのでしょうか?(中略)自分がライブラリアンであると心から思うことなんて,私には決して無いのではないかと思うのです。それが良いことか悪いことか,私にはわからないけれど。

 

その3:これから学ぼうとする立場から

 2006年10月, オーストラリアの図書館員有志が共同で作るブログ“librariesinteract.info” に,“What exactly makes a systems librarian?”(6)と題する記事が投稿された。記事の著者であるウォリス(Corey Wallis;ハンドルネームtechxplorer)の悩みは,現在システムズライブラリアンとして働いているが,これから大学院で図書館学を学ぶべきか,それともシステム構築を学ぶべきか,というものであり,次のように述べている。

 レファレンスや調査,コレクション構築を学ぶことが,業務の上で役に立つかどうか自信はありません。その一方で,単に司書資格がないという理由だけで,図書館部門での昇進から排除されたくはありません。

 また,マコーリの意見に賛同する一方,サロの記事を引用した上で,「自分自身がこうであるべきだと思うシステムズライブラリアンになるために,どの専攻が役立つか,ということが問題なのだ」と述べている。

 この記事に対してサロは,「技術とデスクワークを兼ねたハイブリッドな業務も少なくない。それに加えて,(少なくともアメリカの)図書館では,司書資格に対するこだわりがかなり強い」として,司書資格を取ることを勧めるコメントを付けている。

 

意見の比較

 3者の記事を比べると,「システムズライブラリアンとは何か」という,根本的な位置づけに対する考え方の差が大きいことがわかる。

 サロの主張の通り,システムだけを担当するのであれば,システムズライブラリアンを充てる必要はない。アメリカやオーストラリアでは制度的にライブラリアンとライブラリーテクニシャンを明確に区別している(7)(8)。システムズライブラリアンに期待されているのは,情報システムと図書館の業務を同じ俎上で論じることである。

しかし,図書館利用者のニーズを把握するための目録やレファレンスに関する知識を重視しすぎる余りに,システムズライブラリアンを育てる環境がないというのは問題である。技術が日々複雑になる中で,情報システムに関する知識や経験を日々アップデートしつつ,その他の業務をこなすことはかなり困難であると想像できる。特に,情報システムに係る部署を自前で持っている大学図書館であれば,情報技術についてシステムズライブラリアンに求められる能力のレベルは高い。ここで興味深いのは,日本に比べて明らかに「システムズライブラリアン」の認知度が高いであろうアメリカやオーストラリアにおいても,システムズライブラリアンを育てるための教育課程が未だ整備されていないということである。三輪によると,1999年の段階で「システム・ライブラリアンを育成するための整ったカリキュラムは未だない」(CA1289参照)。その後のWeb 2.0あるいはLibrary 2.0(CA1624参照)と呼ばれる情報技術の速い進歩に,システムズライブラリアンを養成するためのカリキュラム作成が追いつかず,その結果としてマコーリやウォリスのような不満が発生していると考えられる。これについて日本では,宇陀が述べているように(9),筑波大学において2007年度に学群の再編が行われており(10),今後の動向が注目される。

 

さいごに

 ウォリスは2006年11月,自らのブログに,「この講座が,図書館と技術の世界を結びつけるだけではなく,自分が図書館における技術をより理解するためのものであって欲しいと願う」と書き,システム構築について学ぶことを表明した(11)。この選択を,皆さんはどう考えるだろうか?

調査及び立法考査局文教科学技術課:澤田大祐(さわだ だいすけ)

 

(1) Ingersoll, Patricia et al. Managing Information Technology: A Handbook for Systems Librarians. Westport, Libraries Unlimited, 2004, 199p.

(2) Ingersoll, Patricia et al. Managing Information Technology: A Handbook for Systems Librarians. Westport, Libraries Unlimited, 2004, p. 25.

(3) Foote, Margaret. The Systems Librarian in U.S. Academic Libraries: A Survey of Announcements from “College& Research Libraries News,” 1990-1994. College & Research Libraries. 1997, 58(6), p. 517-526.

(4) Salo, Dorothea. “Hiring a systems librarian”. TechEssence.Info. 2006-09-15. http://techessence.info/node/71, (accessed 2007-07-30).

(5) Macaulay, Jennifer. “What Does It Mean To Feel Like A Librarian?”. Life as I Know It. 2006-09-27. http://scruffynerf.wordpress.com/2006/09/27/what-does-it-mean-to-feel-like-a-librarian/, (accessed 2007-07-30).

(6) techxplorer. “What exactly makes a systems librarian?”. librariesinteract.info. 2006-10-09. http://librariesinteract.info/2006/10/09/what-exactly-makes-a-systems-librarian/, (accessed 2007-07-30).

(7) 金容媛. “主要国の司書養成教育および資格・司書職制度の現況:韓国、米国、英国を中心に”. 第5回これからの図書館の在り方検討協力者会議. 2007-01-30, 文部科学省. http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/shiryo/07062107/001.htm, (参照 2007-07-30).

(8) Australian Library and Information Association. “Qualifications”. ALIAnet. http://www.alia.org.au/education/qualifications/index.html, (accessed 2007-07-30).

(9) 宇陀則彦. 特集, システムライブラリアン育成計画:システムライブラリアンをめぐる状況と課題. 情報の科学と技術. 2006, 56(4), p. 150-154.

(10) 筑波大学. “学群・学類の改組 (平成19年4月)”. 筑波大学大学案内. http://www.tsukuba.ac.jp/admission/reorganization/index.html, (参照 2007-07-30).

(11) techxplorer. “Being the bridge between two worlds”. Tech Explorer. 2006-11-18. http://techxplorer.com/2006/11/18/being-the-bridge-between-two-worlds/, (accessed 2007-07-30).

Ref. 田邊稔. 特集, イケてる情報サービスプロフェッショナルを目指して!, システムライブラリアンの現状と今後:イケてる図書館員を目指して. 情報の科学と技術. 2001, 51(4), p. 213-220.

中尾康朗, 永井善一. 特集, システムライブラリアン育成計画:サービス指向環境下におけるシステムライブラリアンの役割とスキル. 情報の科学と技術. 2006, 56(4), p. 155-160.

 


澤田大祐. 「システムズライブラリアン」の位置づけをめぐって. カレントアウェアネス. (293), 2007, p.2-4.
http://current.ndl.go.jp/ca1634