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カレントアウェアネス
No.290 2006年12月20日
CA1616
ナレッジ・ベース社会に向けたタイの図書館の立場
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概要
タイの図書館は,運営する機関によって大まかに分類される。この分類ごとに,資源と運営戦略は異なっている。各館種は規模や経営状況に応じ,それぞれ独自の目的,利用者層を有している。図書館向けの新しい技術により,利用者のアクセシビリティや利用効率を高め,ナレッジ・ベース社会をより促進するのである。タイでは,人的資源の開発によって,すべての人が学習機会を得ることができるようになることが求められている。公共図書館は,少なくとも,タイ社会の情報に関する意識と読書の文化を高める「公共の読書室」にはなるかもしれない。
タイの図書館の組織と主たる活動
タイの図書館は厳密には分類されていないが,運営する機関によって大まかに3種類,すなわち,国立図書館,大学又は調査機関の図書館,そして政府や地方自治体による公共図書館に分類することができる。
- 国立図書館:タイには17館の国立図書館があり,教育省の芸術部により運営されている。国立図書館は,歴史文書や社会科学,小説,自然科学に関する本といった幅広い知識を提供している。滅多に手に入らない知識インフラにアクセスできることから国民にとっては重要な存在であるが,たった17館しかないため,地方の住民が国立図書館を訪れるのは難しい。
- 大学又は研究機関の図書館:大部分は大学又は研究所,調査機関,各専門分野の知識企業により運営されている。この種の図書館の主たる目的は,学生や研究者といった構成員に対するサービスである。図書館資料の中心は各機関の調査・研究の成果といった,非公式な教育資源である。だがこのような資料であっても,図書館は収集し何人に対しても公開している。
- 県政府による公共図書館:各県(編集事務局注:タイには75の県がある)政府は,県内の住民にサービスを提供するため公共図書館を設置している。1939年にウボン・ラーチャターニー(Ubon Ratchathani)県に設置されたのが最初である。各図書館のサービス能力は,県政府の予算と資源に依存する。通常,大規模な県はより大規模なサービスを提供することができ,例えばバンコク首都府(BangkokMetropolitans Administration)では22の公共図書館,8つの移動図書館のほか,地域向けに設置されている小規模公立図書館であるブック・ホーム(book homes)を23か所に設置している。このほか,郡(district)や行政区(sub-district)のレベルでは県の図書館のネットワークとして機能する小規模な公共図書館がある。現在,県の公共図書館73館,郡の公共図書館686館,分郡の公共図書館50館がある。
タイの図書館の主たる活動は,標準的な図書館と同様,読書や情報検索など,知識社会に向けた様々な活動を推進することである。
地方においては,公共図書館はThaicom(編集部注:Shin Satellite Public社のサービス名)の衛星を通した遠隔教育テレビ番組の放送センターとして,住民への教育サービスを拡大してきた。Thaicomを含むテレビやラジオ,インターネットといったメディアは公式・非公式な教育の担い手であることを求められているが,その主な射程は農村の住民である。
図書館のアクセシビリティ
タイのすべての図書館は,一定の条件のもとに公共に開かれている。例えば,国立図書館は会員のみ利用が認められているが,誰でも会員になることができる。大学図書館はすべての来館者に対してアクセスを認めているが,蔵書の貸出には図書館間相互貸借を利用しなければならない。また,研究所の図書館の中には,一般利用者からは入館料を徴収するところもある。
一般の住民を対象としてサービスを提供している図書館はまだ少ないが,移動式の公共図書館を活用することにより,地域コミュニティにおける利用の可能性を高めることができる。地方だけでなく,複雑な交通事情のある地域でも移動図書館を活用する必要があるとされており,例えばバンコクのある地域では,川が移動に最も便利であることから,毎週ボート図書館が訪れている。
図書館の通信技術環境
国立図書館と大学図書館は,サービスの品質を支えるため,近代的な技術を用いた情報システムを使用している。オンライン利用者目録(OPAC)は,すべての図書館で導入されている。大部分のOPACのインターフェイスはウェブベースに置き換わり,利用者はインターネットを通して離れたところからアクセスすることができる。オンラインの電子ジャーナルにもアクセスすることができるが,こちらは館内でのみ利用が認められている。しかしながら,最新の図書館では,Thailand Knowledge Parkのように,オンラインで電子出版物やメディアを検索・閲覧できる電子図書館サービスを提供することにより,情報技術環境への統合をより有益に行っている例もある。
中・小規模の公共図書館では,このような情報技術環境における利用者の学習ニーズにあった効果的なサービスはまだ提供できていないが,「Public LibraryService(PLS:教育版)」というソフトウェアが,タイの公共図書館その他図書館に無償で配布されている。このソフトウェアは,資料の書誌情報のデータベース,バーコードや図書館利用カードの印刷システム,バックアップシステムとして利用することができる。
図書館の効率性
図書館システムに情報技術を導入することにより,図書館の能力は大きく改善され,館内での利用がより便利になっただけでなく,館外からのアクセス,やりとりも可能となった。しかしながら,タイの図書館は運営する機関によって区分され,資源も予算も様々である。地方においては,住民が学校以外で読書をしたり自己啓発をしたりする機会が不十分である。そのため地方の公共図書館は,「公共の読書室」として活動しているが,図書館システムやサービスの計画・運営を行う専門的理解が不足しているために,図書館の効率性は低く,専門的な助言を得られないのである。
結論
タイでは,資源と予算の制約から教育システムはまだすべての人に奉仕できていない。正規ではない教育システムが,あらゆるレベルの学習者のニーズに対応した柔軟な方法で,学校での教育機会を逸してしまった人のための教育活動を提供できるかもしれない。この場合,図書館を地域に配置することで,知識社会をより促進し,公式な教育システムだけに依存しない知識社会を促進し,さらに持続的な学習社会が達成できるだろう。読書の文化が不足しているタイでは,情報に関する意識と読書活動の推進は,地域に最も身近な資源である公共図書館において改善されるのだろう。
大阪市立大学大学院:Sarawat Ninsawat(サラウット ニンサワット)
タイ王立チュラチョムクラオ防衛大学校:Surat Lertlum(スラット ラートラム)
Ref.
Dadphan, K. The Work Status of Library and Information Science Graduates. Bangkok, Thailand, Chulalongkorn University, 1999, Master’s Thesis. Premsmit, P. Library and Information Science Education in Thailand. 2004年度第2回LIPER国際研究会. 東京, 2004-12. (online), 入手先 < http://wwwsoc.nii.ac.jp/jslis/liper/record/thailand-e.pdf >, (邦訳版)入手先 < http://wwwsoc.nii.ac.jp/jslis/liper/record/thailand-j.pdf >, (参照2006-11-13).
Thailand Knowledge Park. Thailand’s Lively Library: TK e-learning. (online), available from < http://www.tkpark.or.th/th/oth/elbry/elbry.htm >, (accessed 2006-11-13).
サラウット ニンサワット, スラット ラートラム. ナレッジ・ベース社会に向けたタイの図書館の立場. カレントアウェアネス. (290), 2006, 12-14p.
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1051