CA1081 – 2000年に向けて−英国図書館の近況− / 岡久慶

カレントアウェアネス
No.205 1996.09.20


CA1081

2000年に向けて−英国図書館の近況−

1993年5月,英国図書館(BL)は2000年に向けた戦略目標の指針として,For Scholarship, Research and Innovationを発表した。BLの最大の戦略目標が,セント・パンクラス新館の開館であることは言うまでもないが,For Scholarshipは新館開館以後のBLのあり方,及びその運営方針をも含んでおり,予算のついた執行計画の紹介というよりは,BLの長期的目標と見解の表明と言うべきものであった。

さて,For Scholarshipの掲げる戦略目標は以下のようなものである:

  • セント・パンクラスとボストン・スパの2大拠点を中心とした,統合された図書館の確立。
  • 新しい技術を応用して,電子ネットワークにより館内だけでなく,他の図書館や利用者にも最大限のアクセスを保障すること。
  • BLが電子文献の収集,保存,伝達の一大センターになること。
  • 収集,保存,研究援助等の中心事業の予算をBLにふさわしいレベルで獲得すること。
  • 図書館が所蔵する豊富かつ多様なコレクションへ広くアクセスできるように刺激的な展示,学習プログラムを組むこと。
  • BLが図書館システム及びサービス開発を先導すること。

これらの戦略目標は個々に追求さるべきものではなく,全体で一つの発展計画をなしている。また幾つかはこれまでの運営ラインに収まりきるものではない。そこで,1994年初頭に図書館の幹部チームが会合を持ち,戦略目標の達成のため重要な−特に業務レベルの向上が不可欠な−分野の洗い出しを行って,以下の4点を確認した。

(1) アクセス: 利用者がその居場所に関係なく,図書館における特定資料の所蔵の有無,貸出の可否,あるいは原本の代わりにコピーが供給されるのか,そしてコピーは要望があれば配達されるのか,また資料がBL内でしか利用できない時は,どこでどの位の時間をかけて出納されるのか,などが分かるようにすること。

(2) 蔵書構築: BL全体の統一的な蔵書方針を打ち出し,これによって今後の蔵書構築の原則と優先事項を決定し,その実施に必要な費用に関する勧告を行うこと。

(3) 蔵書管理: 統合された,そして費用効果の高い蔵書管理方針とその執行手順を定めること。また,評価基準を設定し,それを図書館全体のより広い計画・報告システムに反映させること。

(4) 利用者の満足度: 利用者の満足度と職員のサービスを評価する現行のシステムを見直し,またサービス対象とサービス基準の適切さと利用者の声をサービス向上にどこまで反映させるかなどを考えること。

これらの分野における責任の所在を明確化し,既存の運営構造の中での発展を促すために,BLは各分野に代表者を任命した。これらの代表者は,各分野を担当する部局との緊密な協力関係の下に,それぞれの運営方針を定め,問題解決を図る役割をになっている。

1995年11月に発表されたInformation System Strategy(こちらは情報技術の応用にスポットを当てている)と並んで,For ScholarshipはBLが2000年までに達成すべき未来像を提示している−はずなのだが,状況はそれほど明るいものではない。1996年4月4日付のインディペンデント紙は,BLにおける一連の人員および重要業務の削減の予定を明らかにした。コスト上昇に伴う予算の増額を政府が認めなかったための必要措置であるが,インディペンデント紙は政府側の対応には,セント・パンクラス新館建設の不手際が響いているのでないかと推察する。国民文化財省の管轄下で進められた建設事業ではあるのだが,予定の1989年より大幅に遅れ,経費は見積りの3倍近い4億9600万ポンドに膨れ上がった(CA960参照)。インディペンデント紙はこれを「カフカ的」と辛辣に評している−不条理で終わりのない悪夢というわけだ。

しかし,BLにとっての本当の悪夢はこれからである。1996年度から始まる冬の時代(以後3年間の要求予算と支給予算及び支給予定予算の差額は3千万ポンドで,3年間の要求総額の約10.5%に相当する)を耐え忍ぶため,BLは短期的にはセント・パンクラス新館への移転予算の大胆な見直しを行い,長期的には職員200人の削減(その大部分は職員の退職によって自然達成されるが,上中級の管理職者の解雇も必要になる)を計画している。幾つかの職務(最大35まで)は運営費の安いボストン・スパに移される。収集予算の削減は300万ポンド近くにも達し,その内170万ポンドを浮かすために1997年1月から外国雑誌の複本購入が打ち切られる。1部しかない資料でどう貸出とリファレンスに応じるのか,BLでは思案中である。そして,ボストン・スパの文献提供センターのサービス料金は1996年4月から3.5%アップした。

この逆境下にどの様な形で「学問,研究,そして革新のため」を目指す戦略目標を追求するのか,BLの動向が注目される。

岡久 慶(おかひさけい)

Ref: Stephens, Andy et al. Working towards the millennium: the British Library's plans for the year 2000. New Libr World (1126)33-37, 1996
Independent 1996.4.4
Br Libr News No. 203 May 1996
Libr Assoc Rec 98 (5) 227, 1996