CA1078 – アメリカの図書館と障害者法(2) / 田中邦夫

カレントアウェアネス
No.204 1996.08.20


CA1078

アメリカの図書館と障害者法(2)

 ADAの実行を統括するスタッフを図書館におく必要があるか。

 公立で職員数が50人以上の図書館は,少なくとも1人のスタッフをADA担当として任命すべきである。ADA担当はADAの実行計画を立案し,プログラムやサービスや補助手段などの便宜の提供状況を確かめ,苦情を調査し,また障害をもつ利用者のうちの適当な者によるそれらの過程への参加を確保する。ADA担当を任命することはさらに,障害をもつ人々が図書館による差別行為に関して専門知識をもつスタッフと話し合うための機会を保証するであろう。

 長年勤めていた聴覚障害者が分館長の一人に任命された。書類の上では彼女は資格を満たしているが,この地位が公衆および評議員会との広範なコミュニケーションを要求されるものであることを考えると,彼女が基本的な業務をこなすとはわれわれには考えられない。どうすべきであろうか。

 その人に専門の通訳が提供された場合,公衆や評議員会と効率的にコミュニケートできるかどうか,そして通訳の提供が過重な負担になるかどうかを,あなた方はまず考えてみなくてはならない。通訳でなくて何らかの機器を使うだけでよいという可能性もある。これは「有資格の障害者(qualified individual with a disability:職務の本質的部分に関しての能力をもつ障害者)」による職務の遂行という問題にかかわる典型的な例である。

 公立図書館は点字の図書や逐刊物を所蔵すべきであるのか。点字資料の利用者を他の図書館にまわすだけでよいか。

 点字資料は適切な補助手段ないしサービスのリストに含まれているので,公立の図書館に所蔵されるのは適切である。点字利用者をどの資料についても他の施設にまわせば,彼らも同じ納税者であるのに,地方図書館のサービスから受ける利益を拒否されることになり,これはADAの差別撤廃の理念に抵触する。

ADA施行後の報告として,1994年5月のAmerican Librariesに掲載の短報を紹介する。

新図書館に563カ所のADA違反

カリフォルニア州のサクラメント公共図書館は,ADAの誕生とほぼ同時期の1992年の建造であるが,この程サクラメント市施設局の行った検査によりADAに対して563カ所の違反が見つかり,そのうち12カ所が早急な改善を必要とするものとされた。通路の照明,ドアの重さ,斜面の勾配などに関するものであり,改良の費用は全体で5千〜1万ドルで,ここ半年の間に行われる。

違反の大部分は軽微な図書館の建物へのアクセスを阻害するものではない。聴覚障害のある利用者のためのフラッシュ・ライトによる警告灯が,規定の高さとは1cm前後ずれているという違反が61カ所,電気のコンセントの位置がADAの定めたものとは違っていたのが56カ所などである。標識の字はADAでは黒と白のようなコントラストの強いものを望んでいるが,この図書館ではベージュとか暗い青緑とか藤色とかであった。この元のものは10万ドルほどかかったと言われている。

この6階建の図書館は1980年代の中頃に設計され,州の当時の障害者に関する規定を満たしていた。ADAが署名されたのは1990年で,その時はすでに建築中であった。

障害者団体の何人かのメンバーは,そういう時間的因子は別として,図書館当局が彼らのニーズを見過ごしていたと非難している。「われわれにはADAでどうなるかが分かっていた。それ以前にわれわれの意見を聞いていれば,無用な予算や面倒を節約できた」。一方図書館の障害者サービスの責任者は,図書館建設の間もさまざまな障害者グループと接触していたとし,「彼らは資料へのアクセスの方に関心が強く,建物についてはおおむねアクセス可能だと思っている」と主張し,こう付け加えた。「図書館を設計するとき,建築家のADAについての知識の確認が必要になってきた」。

言うまでもなくADAはアメリカのものであり,日本ではこのように包括的で徹底した法律はまだ存在しない。しかし公共施設としての図書館の使命を考えるとき,以上に紹介した事例と考え方は十分参考になるものと思われる。

田中 邦夫(たなかくにお)

Ref: Gunde, Michael, Working with the Americans with Disabilities Act, 1〜3. Library Journal 116 (21) 99-100, 117(1) 41-42, 117(21) 90-91, 1991〜1992
563 ADA violations found at new Sacramento PL. American Libraries 25 (5) 382, 1994