E844 – 公共図書館閉鎖の理由は?-1999~2003年の米国の状況を分析

カレントアウェアネス-E

No.137 2008.10.15

 

 E844

公共図書館閉鎖の理由は?-1999~2003年の米国の状況を分析

 

 米国フロリダ州立大学の研究チームがOCLCの助成のもと,2008年6月30日付けで「なぜ公共図書館は閉鎖したのか?」と題するレポートを刊行した。これは,1999~2003年に全米で閉鎖された公共図書館について,閉鎖の理由を調査するとともに,図書館員へのインタビューおよび地理情報システム(GIS)を用いた人口学的分析によって,当該地域の人口学的特徴および図書館利用者への影響を探ったものである。

 この調査ではまず,連邦政府が集約した全米50州の公共図書館統計を用いて,当該期間に閉鎖された可能性がある図書館を特定することから始められた。そしてそのすべての図書館について,図書館の閉鎖理由を知っているであろう地域コミュニティの人物(可能な限り図書館長,図書館員等)を特定すべく,インターネットと電話を用いて接触を試みた。こうして接触できた図書館員等に対し,閉鎖の理由と閉鎖の影響を,複数の選択肢の中から選んでもらった。さらに,GISソフトウェアを用いて,図書館が閉鎖された地域の人口学的な特徴および閉鎖が図書館利用者に及ぼした潜在的な影響の分析を行った。

 この調査からは,以下のような知見が得られたという。

  • 公共図書館統計から抽出した,閉鎖された可能性のある図書館数は438館であったが,実際に恒久的に閉鎖された図書館数は134館,一時的に閉鎖された図書館(近隣の他の図書館がサービスを継続する場合も含む)数は105館であった。
  • 恒久的に閉鎖された図書館の半径1マイル以内の人口を属性別に集計し,その比率(人種の比率,高校を卒業していない人の比率,収入がない人の比率,等)を全米全体のものと比較したところ,アフリカ系米国人が多い,子どもが少ない,高校を卒業していない人/収入がない人/公的扶助を受けている人/貧困線以下の人が多い,持ち家を持っていない人が多い,といった結果が出た。ただし,これらは大都市圏にあるいくつかの図書館の影響を強く受けている可能性があり,さらなる分析が必要である。
  • 恒久的に閉鎖された図書館に尋ねた,閉鎖の理由(複数回答)としては,利用が少ない(53館),突然の資金削減(37館),スタッフの削減(15館),改築に必要な費用が高すぎる(15館)などが多く挙げられた。また一時的に閉鎖された図書館の場合,近隣に新しい図書館を作った(76館),改築(20館),他の図書館との統合(14館)が多く挙げられた。
  • こうした閉鎖の理由については,図書館の立地(大都市圏の中心都市/大都市圏の非中心都市/大都市圏外)により差が見られた。大都市圏外の図書館にとっては,都市部への人口移動に伴い,税収入の減少のみならず,図書館員を確保することが困難であるという問題も起こっていると考えられる。
  • 恒久的に閉鎖された図書館および一時的に閉鎖された図書館に尋ねた,図書館閉鎖の影響を緩和するために採ったアクション(単数回答)としては,新しい図書館の開館(75館),ブックモービルのサービス拡大(19館),ブックモービル以外のアウトリーチサービスの拡大(17館),近隣の図書館の開館時間増加(12館)などが多かったが,99館が「何もしなかった」と回答している。何もしなかったと回答したのはすべて恒久的に閉鎖された図書館であり,その比率は66%に達している。

 調査グループは,こうした結果を受けて,この調査を基盤としたさらに深い調査のデザインを提言している。また,図書館が閉鎖するという事態に際し,図書館がどのように対応すべきかというガイドライン・勧告の必要性も提起している。

Ref:
http://www.webjunction.org/facilities/articles/content/11041525