E2173 – 韓国,第3次読書文化振興基本計画(2019-2023)を発表

カレントアウェアネス-E

No.375 2019.08.29

 

 E2173

韓国,第3次読書文化振興基本計画(2019-2023)を発表

調査及び立法考査局国会レファレンス課・中村穂佳(なかむらほのか)

 

   韓国の文化体育観光部は2019年4月,「第3次読書文化振興基本計画(2019-2023)」を発表した。国の競争力を強化し,国民に等しく読書活動の機会を保障し,人生の質の改善に寄与することを目的として制定された韓国の読書文化振興法では,その第5条第1項において,「文化体育観光部長官は関係の中央行政機関の長と協議し,読書文化振興のための基本計画(以下「基本計画」)を5年ごとに策定し施行しなければならない」としている(CA1705参照)。これに基づいて現在まで2009年,2014年の2回にわたって基本計画が策定されてきた。

   今回の基本計画では前半部分で第2次計画の成果と課題を挙げた上で今回の目標と課題を設定している。第2次計画の成果としては公共図書館の拡充等による読書環境・基盤の形成,地域の読書活動・運動の増加,読書・人文学に関するプログラムの多様化や参加者の増加等読書の価値の普及を挙げている。一方で,課題として読書率の低下,モバイル・デジタル対応の不十分さや地域間での格差,読書振興を担当する組織が分散していることによる読書政策基盤の整備不十分と,それによる読書振興政策の持続可能性と普及の限界等を指摘した。これらを踏まえ,今回の基本計画では「人と社会の変化を導く読書」をビジョンとして,社会的読書の活性化,読書の価値の共有・普及,包容的な読書福祉の実現,未来の読書の生態系形成の4つを戦略とする計画を策定した。本稿ではこの計画について,重点課題とされた13の目標のなかから特徴的なものを紹介する。

●社会的読書の活性化

   ここでは以前までの個人で読むことを中心とした読書から,学校や地域社会等においてともに楽しみともに分かち合う「社会的読書」への転換を目標としている。その一例として,学校や職場・図書館等での読書クラブ・読書会に関して,活動のための施設活用支援や地域住民センターを基盤とした,本の内容について討論する活動の支援,全国の読書サークル同士の自発的な活動と交流のためのイベントづくり等が掲げられている。

   また,日常の読書環境の整備のため,公共図書館について,地域間の文化・情報の格差の解消を支援するとして2019年の1,100館から2023年までに1,468館に増やすという目標がたてられた。その他にも地域書店への支援として,複合文化施設を活用した書店主催の読書プログラム実施によって住民が読書に触れる機会を提供すること等が挙げられている。

   その他,職場内の読書会支援や読書を推奨する企業の認証等による企業での読書活動の支援の拡大,地下鉄・バス等公共交通機関内で電子書籍をダウンロードして利用できるサービスの拡大や,紙の本を好む世代を対象とした移動図書館サービスの拡充等も目指されている。

●読書の価値の共有・普及

   韓国において,幸せに暮らすために自己研鑽する50代以上の世代を指す「新中年」の人々に対する読書振興策として,文化施設と連携した読書・執筆プログラム等を行うことにより,超高齢化社会に対応した人生における転換期以後の人生の再設計のための読書共同体の形成と,若い世代に経験を伝え受け継がせることによる人生の価値向上を目指している。

   併せて自由に読書することが困難な高齢層に向けた移動図書館事業,その他年齢・所得・学歴・健康状況等の要素に合わせてカスタマイズされた形の読書プログラムによる支援も行うとした。また,以前から読書支援対象として言及されてきた学生や軍人の他に感情労働者,就職活動者を対象とした年間を通したメンター指導の運営拡大を目指すとしている。

   これらの取り組みの中で読書活動にかかわるボランティアの活動人員の拡大なども目標とされ,また,従来の新聞・雑誌・テレビ番組等の媒体を使った広報とあわせてSNSやYouTube等のメディアを通した読書文化広報・拡散を計画している。

●包容的な読書福祉の実現

   ライフステージ別のプログラムとして,乳幼児期のブックスタート,児童・青少年期に向けた本の内容についての討論・図書館宿泊イベント・読書クラブ,青年・壮年期の職場内読書会等自主的活動の支援,高齢層に向けた大活字本普及等による読書へのアクセシビリティの保障と読書活動機会の拡大が挙げられている。

   小・中・高など学校における読書活動に関しては,子どもの読書量は大人と比べて多くなっている一方で成人後の読書習慣につながっていないとの課題もある。そこで,教育部等と協力した読書プラットフォーム構築などの目標が挙げられている。

   また,身体的障害や経済的・社会的・地理的制約により読書活動に困難をともなう人・ 地域に対する支援として,公共施設を巡回し様々な形で読書活動を支援する読書活動家の派遣や障害者向け資料の製作・収集・普及の拡大及びそれに携わる職員の専門性の向上,軍人の読書文化形成を目的とした兵営図書館資料の拡充や国防部と協力したプログラムづくり,矯正施設における読書プログラム支援等の目標が掲げられた。

●未来の読書の生態系形成

   様々な組織で行われている読書振興にかかわる業務を体系的・効率的に行うため,読書文化振興委員会の設立を計画している。これは文化体育観光部及び他の政府機関と自治体代表・民間委員等から構成されるもので,読書・出版・人文学・図書館政策等の総括機能を強化することを目指すものである。加えて読書文化振興法を改正するとともに専門機関を設立することで,現在課題とされている協力体系の構築,及び,担当組織や具体的で実効性のある手段を確保するとした。また,近年のデジタル環境に合わせた人工知能に基づく読書プラットフォームの構築・電子書籍コンテンツの普及強化が目標とされている。
 

●まとめ

   今回の基本計画では2018年と比較した2023年までの具体的な数値目標も設定されており,既に進行中のものも含めて,この基本計画に沿って今後それぞれの目標が順次実行されていく予定となっている。

Ref:
https://www.mcst.go.kr/kor/s_notice/press/pressView.jsp?pSeq=17258
http://www.law.go.kr/LSW/lsInfoP.do?lsiSeq=188401&efYd=20170321#0000
http://kostat.go.kr/portal/korea/kor_pi/8/6/2/index.board?bmode=read&aSeq=365692
CA1705