E2148 – 台湾公共図書館の利用状況と読書力:2018年報告より

カレントアウェアネス-E

No.371 2019.06.27

 

 E2148

台湾公共図書館の利用状況と読書力:2018年報告より

 

    2019年2月25日,台湾国家図書館が,『107年臺灣閲讀風貌及全民閲讀力年度報告』を発表した。同館では,2011年より,台湾の読書嗜好性に係る報告を毎年発表しており,本報告書は,2018年における学校図書館及び公共図書館の利用統計を28の表で分析したものである。学校図書館には,小中高図書館のほか,大学図書館・専科学校図書館を含む。本稿では,台湾の公共図書館の状況を知る手掛かりとするために,公共図書館に関する記述を中心に本報告書の内容を紹介する。報告書本文の構成は大きく4つに分かれ,利用者動向及び利用者属性,貸出された資料のランキング,図書館の類型別に見た利用状況及び所蔵資料の内訳,行政区別に見た利用状況のランキングから成る。なお,報告書に章番号は振られていないが,本稿では便宜上番号を振り紹介する。

●はじめに

 台湾の教育部は,2009年から2012年,2013年から2016年の各4年2期に渡って,読書習慣を定着させることを目指し,図書館サービスの開発・向上に係る計画(閱讀植根與空間改造:圖書館創新服務發展計畫)を実行した。計画を委託された国家図書館・国立公共資訊図書館・国立台湾図書館の3館が中心となり,建築空間の改善,所蔵資料の充実,公共図書館の評価制度の構築等,公共図書館のサービス向上のため取り組みを続けてきた。教育部長の潘文忠氏は序文にて,2009年から2018年の10年間は,公共図書館が発展した黄金期であると述べている。台湾全体の公共図書館の所蔵数は10年で5,100万点,成長率は74.4%に達し,一人当たりの貸出し冊数の平均は2.25冊から3.30冊になる等その伸びは明らかである。


●2018年の全体読書力及び読書傾向

 第1章と第2章では,国立公共資訊図書館,国立台湾図書館,6の直轄市立図書館,16の公共図書館を主管する各縣市文化局の提供した2018年の図書館サービス統計を基に読書力と読書傾向を分析している。読書力は,来館者数・OPACの検索回数・図書貸出冊数・図書館利用登録者数等により評価される。2018年の読書力は,評価項目全てにおいて2017年より上昇しており,中でも電子書籍を借りた延べ人数が2017年の約133万人から約174万人となり,約30.83%の大幅な成長率である。

 利用者の年齢を9段階に分けると,35歳から44歳の年齢層の図書貸出冊数が最も多く,全体の7,791万冊に対し,2,027万冊(約26%)を占める。男女別では,女性が多く約4,723万冊(約61%)である。貸出された図書を主題分類別にみると,言語・文学類が約50%を占めている。

   第2章の2018年の図書貸出ランキングは,総合ランキングだけでなく,中国図書分類法の分類(総類,哲学類,宗教類,自然科学類,応用科学類,社会科学類,歴史・地理類,言語・文学類,芸術類),中国文学の大衆向けジャンルの一つである武侠小説,乳幼児及び児童向け図書,漫画,電子書籍の分野ごとのランキングも示している。

 総合ランキングの内訳を見ると,J.K.ローリング『ハリー・ポッター』シリーズが1位,2位から14位までは,8位の岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』を除き,金庸,黄易,鄭丰の3作家による武侠小説が占めている。このほか,旅行本,宗教本,歴史本等があり,19位に東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が入っている。

●学校種別及び都市別の読書競争力

 第3章と第4章では,2018年に国家図書館が作成した台湾の学校図書館の統計と,国立公共資訊図書館が作成した公共図書館の統計により,学校種別及び都市別の読書競争力を算出している。双方とも2017年分のデータが元になっている。読書競争力は,図書館所蔵資料の一人当たり冊数・一人当たりの貸出数・一人当たりの来館回数・利用者登録率の4項目を指標とする。

    都市別の読書競争力は,各直轄市・縣市・郷鎮市ごとに,総合のほか,項目別のランキングでも示している。直轄市の場合,総合では,台北市,高雄市,台南市の競争力が高い。学校図書館については,小学校,中学校,高等学校,大学・専科学校ごとの読書競争力だけでなく,図書・雑誌・新聞・データベースの資料類型別に所蔵資料総数及び利用者一人あたりの冊数を表で示している。図書と雑誌については,紙資料とデジタル資料の内訳も出しており,紙資料がほとんどの割合を占めるものの,大学・専科学校ではデジタル資料の比重も大きい。教育部が2016年に公布した「図書館の設立及び運営基準」では,図書館の職員体制・蔵書冊数・面積等を定めている。その中で,大学図書館は最低15万冊,専科学校図書館は6万冊を所蔵すること等が規定されており,報告書では,各基準に達した館数とその割合を算出している。

   本報告書は,2018年の台湾の読書状況に係る記者会見において発表され,会見では読書競争力の高かった都市及び優れた成果を修めた都市が表彰された。読書力及び読書競争力の数値化は,図書館に対し,図書館サービスの工夫をするよう働きかけている。台湾の公共図書館では,コンビニでの資料の受け取り,日本風・北欧風等にデザインされた読書スペースの設置,放課後学習支援等,図書館をより身近にするための様々な取り組みがなされている。今後もその展開に注目したい。

電子情報部システム基盤課・須田春香

Ref:
https://www.ncl.edu.tw/information_236_10270.html
https://nclfile.ncl.edu.tw/files/201902/b311feeb-c04d-45ff-9c0f-470c0c58810a.pdf
https://www.edu.tw/News_Content.aspx?n=9E7AC85F1954DDA8&sms=169B8E91BB75571F&s=EDF8F9AF5E6440E3
https://video.udn.com/news/578600
https://www.nlpi.edu.tw/Public/Publish/publib/由閱讀推廣與館藏充實計畫成果談臺灣公共圖書館成長.pdf
https://www.nippon.com/ja/behind/l00149/