E2140 – 3D/VR技術と学術図書館の役割に関する報告書

カレントアウェアネス-E

No.369 2019.05.30

 

 E2140

3D/VR技術と学術図書館の役割に関する報告書

 

 米・図書館情報資源振興財団(CLIR)は2019年2月に報告書“3D/VR in the Academic Library: Emerging Practices and Trends”を発表した。研究・教育における3D及びVR(仮想現実)技術の利用と,これらの技術を用いた研究・教育を支援する上で学術図書館が担う役割を調査したもので,2018年3月の米・オクラホマ大学ビゼル図書館で開催された会議“3D/VR Creation and Curation in Higher Education: A Colloquium to Explore Standards and Best Practices”の内容を基に作成されている。8章立てで構成されており,様々な分野の専門家が,3Dコンテンツの作成,3D/VR技術の教育利用,保存,データキュレーション等について述べている。本稿では報告書の概要を紹介し,3D/VR技術に対する学術図書館の役割を考える材料としたい。

●現状と課題について

 報告書では,高等教育の内外において3D,VR,AR(拡張現実)が研究・教育向けに用いられており,知識の創造や伝達において大きな影響を与えていると述べている。一方で,それらの技術の急速な進歩についていくには,単一の組織や部門単位では難しいと指摘する。また,さまざまな分野や立場の人が3D/VRに関わる作業を行うために,その作業の実施場所や,誰が主導するか,成果をどこで共有するか,成果物に対する貢献度をどのように判断するか,などの問題も生じると述べている。

 報告書では他の課題として,3D/VRデータの保存を挙げている。3D/VRデータは歴史的な建造物の再現に役立つ可能性がある。例えば先日火災に見舞われ尖頭が焼け落ちたフランス・パリのノートルダム大聖堂は,以前にレーザーを用いた精密な3Dスキャンを行っていたため,そのデータが再現の助けと考えられている。また,繊細な収集品を3Dスキャンすることで利用者がバーチャル上で手に取れるようにすることなども行われている。

 しかし,3D/VRデータが大企業により独占的に開発されていたり,VRのハードウェア・ソフトウェアによって3Dデータのエンコーディング手法が変化したりする状況がある。このような状況下では,データへの広範なアクセスや共有,持続可能性を重視する,学術研究者や独立したクリエーターは,3D/VRデータを保存するにあたり,それらのデータの批評や再現,再利用が可能な状態を維持する方法を見つけなければならない。

●前述の課題に対する学術図書館の役割

 前述の課題に対し,報告書では,下記のようなツールやデータベースが必要であるとしている。

  • 既存のものを含む3Dデータの制作手順やVRでの可視化ツールを統合したビューワ
  • 制作手順(特に学術的な成果物を創出する際にどのように3Dデータの編集や加工を行ったか)の情報管理を可能にし,データの保存,権利管理を支援できるツールおよびメタデータの記述項目・形式
  • 作成,出力,可視化,解析,公開といった3Dデータの利用方法全てを支援するよう設計された,3Dデータの蓄積と検索が可能なプラットフォーム

 そして,前述の3D/VRインフラの支援において,学術図書館は主導的役割を担うことができると報告書では述べている。その理由として,

  • 既に多分野にまたがった学術的組織のハブ(結節点)になっていること
  • 情報資源の管理,新しい学術的技術に関する開発や研究への支援に関する知識・技能を有していること
  • 学術機関に対して学術情報の収集と提供を長期に渡って組織的に行っていること

を挙げている。

 それぞれの分野で3D/VRデータがどのように普及し,使用されているかは異なっており,ゆえに,支援にはさらなる研究と実践が必要ではある。しかし,同時に多分野にまたがって保存方法の標準化が取り組まれており,この点において,学術図書館関係者はもっと行動を呼びかける必要があると報告書では主張している。

●おわりに

 報告書では,3D/VR技術は高等教育機関において学術的・教育的に使用されており,それらによって学術図書館の「利用者がすべての形式の学術的情報にアクセスできるようにする」という使命が後押しされている,としている。しかし,3D/VR技術を図書館に導入するということは,それらの新しく複雑なワークフローや学術的実践,データ収集と保存要件を図書館が支援する必要がある,とも述べている。

 3D/VR技術の発展には,図書館による支援が必要不可欠であり,図書館も含めたさまざまな分野や組織間で情報や問題点を共有し,協調して活動していくことが必要だと感じた。

電子情報部システム基盤課・野手智仁

Ref:
https://www.clir.org/wp-content/uploads/sites/6/2019/02/Pub-176.pdf
https://www.clir.org/2019/02/new-report-explores-leading-role-for-academic-libraries-in-supporting-3d-vr-for-research-and-teaching/
https://www.uab.edu/news/campus/item/10285-virtual-reality-studio-opens-at-uab-to-expand-education-research-into-a-3d-environment
https://news.utk.edu/2018/11/01/experience-a-digital-escape-with-ut-libraries-new-virtual-reality-room/
https://www.cnn.co.jp/world/35135896.html
https://www.unr.edu/nevada-today/news/2019/virtual-reality-technology-to-preserve-the-past