E2098 – おもいで語りは元気のもと:山口市秋穂での古写真貸出の試み

カレントアウェアネス-E

No.362 2019.01.31

 

 E2098

おもいで語りは元気のもと:山口市秋穂での古写真貸出の試み

 

    山口市立秋穂(あいお)図書館の友の会「図書館と友だちの会・秋穂」(以下「図書友」)では,「地域回想法」の一つの試みとして,主として秋穂地域の風景,暮らしを被写体とした古写真(概ね昭和時代まで)を使って「おもいで語りの会(おしゃべりサロン)」を毎月開催するほか,古写真貸出の取組を実施している。その経緯,現状,これからの計画などを紹介したい。

   地域回想法とは,心理療法としての回想法を地域で暮らしている高齢者を対象として介護予防,認知症予防,地域づくりを目的に実施するものである。

    回想法との出会いは,筆者が秋穂図書館開館前の2006年に島根県で開催された図書館問題研究会全国集会への参加の一環で,同県の斐川町立図書館(現出雲市立ひかわ図書館)を視察し,地域回想法の取組としての「暖炉の部屋」を知ったことである。当時秋穂地域における公立図書館設置へ向けて山口県立大学図書館情報学研究室(安光ゼミ)と連携をとっていたことから図書友運営委員と学生による合同での現地視察も実施したほか,地域回想法の普及活動を展開中の鈴木正典医師(出雲市民病院)からその意図,具体的な手法などの指導を受けた。

    2005年の新山口市への合併時,公立図書館がなかったのは旧秋穂町のみであったが,公立図書館設置を待望する機運が高まっていた時期でもあった。合併時には設置予定場所のみ決定され,設計や工事は新市で実施されることとなった。地域住民の声を新市の執行部へ届けるため翌2006年7月に図書友を設立した。「図書館」に馴染みの薄いと思われる高齢の住民が多い地域性を考慮し,様々な切り口から図書館活動を紹介するため「図書館・あ・れ・こ・れ・シリーズ」を計20回展開した。また,このシリーズとは別に2008年には,工事着工記念フォーラムとして,鈴木医師と白根一夫氏(当時斐川町立図書館長)を講師に迎え「おもいで語りは元気のもと―地域に生かす回想法」を開催し,これが古写真活用をメインにした現在の活動の趣旨を広く知ってもらうきっかけとなった。

   2010年8月秋穂図書館が開館し,同年11月にも「おもいで語りは元気のもと Part II」を山口県立大学と共催で開催した。翌2011年4月に第1回「おもいで語りの会(おしゃべりサロン)」を開催した。以降毎月第3金曜日の午後実施しており10人から15人程度の参加がある。開催に当たっては,地域住民から古写真の提供を受け,旧町や公民館が所蔵していた写真と併せてPCに取り込んだ。この中から毎回数枚の写真をスライドショーとして投影し,話題にしている。『秋穂町史』その他郷土資料も常時手元に準備している。話が思わぬ方向に発展したり,町史には記載されていない「秋穂の歴史」が披露されることもある。かつての塩田従事者から話を聞くということも経験したが,高齢化が進み身近な「歴史」を語れる人材がだんだん少なくなってきている。また,とかく被写体となっている人物が誰かということに目が行きやすい傾向が生じるが,予期せず「写し込まれている事物」に着目して見えてくる歴史の面白さについて,毎年1回のペースで山口県の萩博物館専門学芸員の清水満幸氏(現館長)を招いて,分かりやすく読み解いてもらう機会を設け好評を得ている。

    しかしながら,秋穂地域では高齢化率が42%を超え,高齢者は移動手段の自転車,自動車運転をあきらめざるを得ない,だが公共の交通機関が整備されていないという地域事情から会場までの足が確保できない……。そのような現状から2017年9月に古写真の貸出を始めることになり,「おしゃべりのネタとして古写真を貸し出します」と呼び掛けている。A4サイズにプリントアウトし,テーマ別にまとめて一覧表を添えてファイルに入れ,図書館内で保管している。貸出の実務は全面的に秋穂図書館職員が担っている。これまでの活用例として,100年を超える社歴を有する地元事業所から自社のポスター制作の参考にするためにと希望のあった塩田の作業風景写真の貸出,個人への貸出,地域の高齢者学級での使用などがある。

    現時点では,PR不足もあって必ずしも順調に活動が展開されているとは言えず,さらに広報の工夫を模索しているところである。「図書館まつり」,「秋穂ふれあいまつり」,「あいお祭り」の都度,ミニ体験コーナーを設けている。また,随時,ロビーに置かれているサイネージディスプレイを利用して来館者の目に留まるよう古写真を紹介している。現在未実施であるが,地域内の施設におけるデイサービスプログラムなどに取り上げてもらうべく情報提供に努めていきたい。また,子どもとのかかわりの中で古写真を活用し「ちょっと前の秋穂の暮らし,風景」などが継承できないかと模索中である。

図書館と友だちの会・秋穂・原田洋子

Ref:
http://www.lib-yama.jp/news/news170908.html
http://www.lib-yama.jp/news/news181011-1.html