カレントアウェアネス-E
No.332 2017.09.07
E1948
OpenCon,多様で公平な会議のための報告書を公開
米SPARC(CA1469参照)と,オープンな学術情報の流通の促進を目的に活動する学生団体The Right to Research Coalitionが研究・教育のオープン化を目的に2014年に設立したOpenConが,2017年7月,過去3回のOpenCon会議開催経験等に基づいて,参加への障壁をできるだけ下げ,多様で公平な会議を実現するための報告書“Diversity, Equity, and Inclusion”を公開した。
この報告書では,様々な立場にある人々が等しく会議に参加できるよう彼らが取り組んできたこと,そして今後の検討課題について8つに分けてまとめられており,末尾にはそのためのチェックリストや過去のOpenCon会議参加者の男女比,出身地域比などのデータも付けられている。本稿では,この報告書について,いくつかの項目を取り上げて紹介していく。
●“Diversity”“Equity”“Inclusion”の基礎
まず,報告書のタイトルにもなっている3つの言葉について彼らはどのように捉えているのだろうか。はじめに“Diversity”について。これは,幅広い人種,性別,年齢,地理的・社会的・経済的状況の人々がイベントやコミュニティに参加することに注意を向けることとしている。次に“Equity”(公平)については,“Equality”(平等)とは異なるものであると指摘する。“Equity”は,各人が使える資源はそれぞれ異なるので,各人が必要とするものに応じた援助が必要であるというものであるが,“Equality”はこのような差を無視して全てを等しく扱うため,結果としてサポートの過不足が生まれうるとしている。
最後に“Inclusion”については,“Diversity”からさらに一歩踏み込んだものであり,ただ幅広い意見やバックグラウンドを受け入れるだけではなく,それを物理的(車椅子用スペースなど)にも内容的(特定の社会的・文化的な価値にとらわれないワークショップなど)にも,それらの人々のためにデザインすることだとしている。
●参加者の支援
上記の考え方を実現するために,OpenConでは,事前にできるだけ参加者の情報を集めることに努めている。出身,性別だけではなく,宗教的制約,アレルギー,会場への交通手段などを確認し,それぞれに必要なニーズを把握するためである。これにより,例えば車椅子用のトイレや授乳室,ベジタリアン用の飲食店マップなどを用意することができ,そのような人々の参加への障壁を取り払うことができる。また,参加にあたっては旅行費用も大きな問題となる。OpenCon会議は北米(2014年,2016年)と欧州(2015年,2017年(予定))で開催されているため,2016年は会議参加のための助成金の大部分は北米と欧州以外からの参加者に割り当てられた。助成金受給者にとっては,たとえ事後に支給されることが確かであっても費用を自分で前払いすることは大きな負担になりうるため,OpenConでは旅行代理店と協力し,すべての助成金受給者に代わって会議参加や渡航の手続きも行うという。
●参加者主体のプログラム作り
OpenCon会議のプログラムの多くは,参加者のニーズや関心を反映して運営,展開される。報告書ではまず,OpenConの会議で採用しているアンカンファレンス(unconference)の意義について述べられている。事前に詳細を設定せず,関心やタイプも異なる参加者自身がその場でセッションを組み立てていくことで,作りこんだ内容よりも,より参加者のニーズや関心に沿ったセッションとなり,新しい学びやコラボレーションを促進するというものである。またOpenConでは,会議の場を学生や若手研究者が研究をアピールする場にしてほしいと考え,各人2分間のショートプレゼンテ―ションの時間を設けている。2016年には20人以上の報告が行われたが,オープンアクセス(OA)やオープンエデュケーション,オープンデータといったオープン化に関する広範な領域の,様々な地域の研究者たちに登壇してもらったとのことである。
●インターネットの活用
直接参加できなくても,インターネットを介して遠隔で会議に参加することはできる。OpenCon会議では会議をインターネットで同時中継し,TwitterやWhatsAppといったサービスを使って遠隔地の参加者もディスカッションや質疑応答に参加できるようにすることで,より多くの人々の参加を促している。ただし,すべての人がこれらサービスのユーザーとは限らないため,将来的には,これらのサービスが会議の活性化に役立つことを示し,参加者が事前にアカウントを作成し,利用できるようにするためのガイドを出していきたいとのことである。また,会議終了後に動画や資料を公開することも必要である。報告書では,動画にはESL(English as a Second Language=英語を第二言語としている人々)や聴覚障害のある人々のための字幕を付けることを推奨し,発表者には資料にクリエイティブ・コモンズのCC BYライセンスをつけるよう求めている。
以上のように,この報告書には,国際会議のみならず,各種イベントを企画・運営する上で参考となる点が数多くあると言える。本稿では取り上げきれなかった取り組みも多く報告されているので,ぜひ一読されたい。報告書は「イベント後には改善点を洗い出し,フィードバックを集めること」で締めくくられている。
関西館図書館協力課・夏目雅之
Ref:
http://www.opencon2017.org/diversity_equity_inclusion_report
https://sparcopen.org/news/2017/opencon-dei-report/
https://sparcopen.org/wp-content/uploads/2017/07/Diversity-Equity-and-Inclusion-Report-July-10-V1-Release.pdf
CA1469