E1876 – 「本のまち八戸」拠点施設の八戸ブックセンター

カレントアウェアネス-E

No.318 2017.01.26

 

 E1876

「本のまち八戸」拠点施設の八戸ブックセンター

 

   2016年12月4日,青森県八戸市は,本の閲覧と本及び雑貨の購入ができる市直営の施設「八戸ブックセンター」を開設した。

   当市では,2014年9月,第6次八戸市総合計画を策定した。そのなかの重点的に取り組むべき5つの戦略の1つとして「人づくり戦略」があり,地域社会で活躍する人材の育成を目標に掲げている。その人材育成のための教育プロジェクトの一環として,市民が様々な本に親しむことで,豊かな想像力や思考力を育み,本のある暮らしが当たり前となる文化の薫り高いまちとなることを目指す施策「本のまち八戸」を推進しており,その中心拠点として当センターは設置された。また,中心市街地に開設することにより,来街者の増加や回遊性の向上を図り,中心市街地の活性化にもつなげることも目的としており,図書館とも民間書店とも異なる,本に関する新しい公共サービスを提供する施設である。

   2014年度から進めている「本のまち八戸」構想では,人間の成長段階に応じた本を切り口とした事業に取り組んできた。

   最初の段階としては,乳児と保護者を対象に,乳児検診の機会を利用し,読み聞かせの大切さを伝え,絵本をプレゼントする「ブックスタート事業」を実施した。次の段階として,児童が保護者と一緒に書店へ出かけ,絵本・小説・物語といった読書活動に適した本を自ら選び購入する体験を通して,読書に親しむ環境をつくることを目的に,小学生を対象にブッククーポンを配布する「マイブック推進事業」を実施してきた。両事業は,アンケート結果などから,保護者や児童から好評を得ていることが分かり,2016年度からは,満3歳児をもつ保護者向けに読み聞かせ絵本を購入するためのブッククーポンを配布する事業も始めた。

   また,青森県内では,小中学校の学校司書がゼロという状態が続いていたが,市内小中学校への学校司書の派遣事業も行い,学校ボランティアの方々と一緒に,学校図書館の環境改善にも努めている。

   そして,主に大人を対象とした施設の「八戸ブックセンター」を開設した。

   当センターは,書店の経営者でもあるブックコーディネーターの内沼晋太郎氏にディレクションをお願いしている。また,図書館で本を借りて読むという体験と,書店で本を買って読むという体験は別のものであり,本を私有するという体験が重要であるという考えのもと,当センターで取り扱う本,約8,000冊は,展示用の本を除き,全て販売しており,本のセレクトは,民間書店で選書経験のあるスタッフを市職員として新たに雇用して行っている。

   地方の書店の多くでは,品揃えが経営面や流通面から売れ筋となる,最新号の雑誌や新刊コミックなどが主力となっており,結果,海外文学や人文・社会科学,自然科学,芸術などの分野の本の陳列が相対的に少なくなっている。当センターでは,このような,市内の書店でこれまで手に触れる機会が少なかった本に出会える場所として,また,図書館のような,目的の本が探しやすい並べ方をするのではなく,本との偶然の出会いを誘発する提案型・編集型の陳列を行っている。また,ドリンクの提供により,本に興味のなかった人も立ち寄ってみたくなるような場とすることなども実施している。書店ゼロ地域である離島などを除くと,公共施設では,これまでに類のない施設として,新しい「本のある場所」となることを目指している。

   さらに,当センターは,本を「読む人」だけでなく,「書く人」も増やし,本で「まち」を盛り上げるという基本方針を掲げている。

   八戸市は,数多くの文学賞を受賞し,芥川賞選考委員や日本芸術院会員を務めた三浦哲郎という作家を生んだ土地でもあり,当センターは,本を「書く人」を増やすために,机・椅子・Wi-Fiを完備した無料の執筆専用ブース「カンヅメブース」を備えている。「カンヅメブース」を利用する際は,今後の執筆活動についてアンケート形式で回答いただく「市民作家カルテ」を作成,「市民作家登録」をしており,今後は,「市民作家カルテ」を活用した,執筆や出版の相談窓口,ワークショップなども行っていくこととしている。

   当センターがオープンしてからまだ日は浅いものの,市民の本に対する関心の高さからか,初日の来館者は3,200人を超え,来館者からは,今までにない品揃えであり,陳列も工夫されていて,新たな本との出会いの場ができてよかった等の感想をいただいた。館内に設置している椅子やハンモックなどの読書席で本を閲覧している方はもちろん,「カンヅメブース」を使用するための「市民作家登録」をする方も多く訪れており,順調な出足となっている。

   今後も,市民がもっと本に親しめるような環境づくりをし,市民の知的好奇心を刺激する場となるよう事業を企画していきたい。当センターは,「本」自体や「読む」,「書く」事がもっと市民の身近になるように,また,既存の本に関わる市民活動とともに,まち自体を盛り上げていくことを第一の目標としている。本が好きになる人が増え,図書館利用促進や民間書店の活力増・相互連携にもつながり,その結果として,八戸市が文化の薫り高いまちであることを市民が誇りに思える,そのようなまちづくりを推進していきたい。

八戸ブックセンター・音喜多信嗣

Ref:
https://8book.jp/
https://www.city.hachinohe.aomori.jp/index.cfm/9,95540,219,513,html
http://www.city.hachinohe.aomori.jp/index.cfm/9,93127,72,201,html
https://www.city.hachinohe.aomori.jp/index.cfm/9,72873,219,html
https://8book.jp/booktown/
https://8book.jp/information/booth/