E1875 – ことば蔵が市民と共に“Library of the Year 2016”大賞受賞

カレントアウェアネス-E

No.318 2017.01.26

 

 E1875

ことば蔵が市民と共に“Library of the Year 2016”大賞受賞

 

   2016年11月,先進的な活動を実践する図書館などを表彰する“Library of the Year(LoY)2016”の大賞に兵庫県の伊丹市立図書館ことば蔵(以下,ことば蔵)が選ばれた。LoYは2006年,学識経験者らでつくるNPO法人「知的資源イニシアティブ」が創設したものである(CA1669参照)。図書館及びそれに準ずる施設・機関における,他の図書館にとって参考となる優れた活動や独創的で意欲的に取り組んでいる具体的な事例を評価し選考するもので,毎年実施されている。11回目となる2016年は,審査基準などが見直されるなか,自薦・他薦の53機関の中から,3度にわたる公開選考会によって大賞が決定した。本稿では,明治時代に産声を上げた伊丹市の図書館の歩みを振り返りながら,受賞理由になった「市民と共に実践している創造的な活動」について紹介する。

○原点は100年前

   2012年にオープンしたことば蔵の原点は,そのちょうど100年前の1912年,伊丹市宮ノ前に開設された「伊丹図書館」である。大阪医学校(現・大阪大学医学部)で教授を務めた小林杖吉が,私塾「三余(さんよ)学寮」に併設した私立図書館であった。同館は,『郷土研究伊丹公論』を創刊し,刊行号数は1940年までに19号を数えた。伊丹図書館は1943年に閉館したが,蔵書4万冊は伊丹市に寄贈され,その一部は戦後の1951年に開館した市立図書館に受け継がれた。

○「公園のような図書館」

   市立図書館は1972年,伊丹市郊外にある市役所の東側に移転,その地で40年間親しまれた。しかし,蔵書の増加で手狭になったことや図書館による中心市街地の活性化を目的に,2012年,100年ぶりに出発の地である宮ノ前に移転,市内在住の芥川賞作家・田辺聖子氏が名誉館長に就任した。伊丹市は,江戸時代に清酒発祥の地として酒造業で栄え,京・大坂から文化人が訪れたことにより華開いた俳諧文化を「ことば文化都市」と称して継承していることから,この地に新しくできた図書館の愛称を「ことば蔵」と名付けた。開館前,ことば蔵は基本コンセプトを誰もが気軽に訪れることができる「公園のような図書館」とし,その実現方法を探るため,LoY2011大賞を受賞した長野県の小布施町立図書館などを視察した。市民が図書館運営に参加することの重要性を知ると同時に,この視察がLoY受賞を目指すきっかけになった。

○市民発のイベント続々

   ことば蔵は,市民の交流拠点とするため,1階に新設した交流フロアの活用方法を話し合う「交流フロア運営会議」(以下,運営会議)を毎月開催している。予約不要で誰でも参加できるようにし,参加者のアイデアから,今ではお薦めの本を持ち寄り交流する「カエボン」など年間200回を超えるイベントが開催されている。また,ことば蔵の原点を作った小林杖吉の遺志を引き継ごうと,市民が中心となって大人向けの講座として「三余学寮」を復活させ,『伊丹公論』を復刊するなど,伊丹の歴史・文化の発信拠点としても活動している。中心市街地に移転したことにより,愛読書のキャッチコピーやストーリーを表現した本の帯を募集し,受賞した帯を市内の書店で本に巻いて販売する「帯ワングランプリ」,地元商店主が講師となってプロならではの知識と店の情報を無料で伝える「まちゼミ」など新たな機能で地域経済にも寄与している。現在は,2017年2月24日から始まる,毎月末の金曜日に消費活動を喚起する「プレミアムフライデー」に関連させた新規事業に向け,市民のアイデアを募集し準備を進めている。

○市民と喜び分かち合う

   LoY最終選考会のプレゼンテーターは,開館当初から運営会議に参加しているメンバーに依頼し,プレゼンテーションの内容も運営会議で話し合った。最終選考会前には,どうすればことば蔵の魅力を伝えられるかを考えるため,「LoY受賞記念シンポジウム」を開催し,ことば蔵を本番の会場に見立てたシミュレーションをすることで,多くの市民からも客観的な意見をもらうことができた。そして,横浜市で行われた最終選考会の会場に伊丹市民数名が駆けつけ,ことば蔵にも市民が集まるなか,大賞受賞が決定し市民とともに喜びを分かち合うことができた。最後まで市民参加を貫いたことが大賞につながった。受賞結果を広く市民に知らせようと,年4回発行している『伊丹公論』の号外を特別に発行することにした。小林杖吉への感謝の意味も込めて作った号外を,15人ほどの市民と早朝から駅前で配布した。また,同じ関西からLoY優秀賞を受賞した大阪産業労働資料館(エル・ライブラリー)と合同受賞記念のトークイベントなども開催した。

○「市民×図書館」信頼関係の構築

   ことば蔵の原動力となっているのは市民力であり,これを最大限に活かすことができる運営会議が重要な役割を果たしている。しかし,このシステムを作るだけではなく,市民との信頼関係をいかに構築していくかがカギになる。市民が主役である一方,図書館員は市民のアイデアを実現するために全力を尽くし,点(市民)と点(市民)をつなげて線(企画)にするような,市民力を最大限に活かすためのプロデュース力が必要である。そして,筆者は,図書館員が熱意を持って対応すれば,その熱意は必ず市民に伝わると思う。1年や2年では難しいかもしれないが,諦めずに繰り返し行うことで,強固な信頼関係を築くことができる。本稿で紹介しきれなかった年間200回を超えるイベントの詳細や『伊丹公論』のバックナンバーは全てことば蔵のウェブサイトで公開している。開館から4年半の間,築き上げてきた市民との信頼関係を見ることができる。ぜひ参考にしてもらい,日本中の図書館が知の拠点・交流の拠点となり,地域の発展に貢献することを期待している。

伊丹市立図書館ことば蔵・小寺和輝

Ref:
http://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/EDSHOGAI/EDLIB/index.html
http://www.iri-net.org/loy/loy2016.html
http://www.iri-net.org/loy/
http://www.city.itami.lg.jp/shokai/gaiyorekishibunka/bunka/1392291562703.html
http://machitoshoterrasow.com/
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http://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/EDSHOGAI/EDLIB/itami_kouron/backnumber/1481180533117.html
http://www.city.itami.lg.jp/SOSIKI/EDSHOGAI/EDLIB/diary/h29_01/1485075775573.html
http://shaunkyo.jp/
CA1669