E1729 – 非英語圏の国のOAの専門書の利用状況<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.291 2015.10.29

 

 E1729

非英語圏の国のOAの専門書の利用状況<文献紹介>

 

Ronald Snijder. Evaluating the Impact of the FWF-E-Book-Library Collection in the OAPEN Library: An Analysis of the 2014 Download Data. D-Lib Magazine. 2015, 21(7/8).

 非英語圏の国が専門書をオープンアクセス(OA)で公開した場合,利用状況はいったいどのようなものになっているのだろうか。

 “FWF-E-Book-Library”は,オーストリアの科学と基盤研究の高度化を支援する財団であるオーストリア科学財団(Austrian Science Fund:FWF)が運営するOAリポジトリである。同リポジトリに収録されている専門書が,2013年春から人文学・社会科学分野の専門書のOAを推進する欧州のコンソーシアムOAPENのOAPEN Libraryへ登録できるようになった。本稿で紹介する文献は,このOAPEN Libraryに登録された“FWF-E-Book-Library”収録の専門書の2014年の利用状況を分析しており,冒頭の問いへの回答を与えるものとなっている。

 OAPEN Libraryから利用できる“FWF-E-Book-Library”収録の専門書は146タイトルで,分野別のタイトル数としては歴史分野が多く(60),以下,文学史・文学批評(18),美術史(12),考古学(8),音楽(7),科学一般(6),建築学(5)と続く(括弧内はタイトル数)。また,ドイツ語で書かれた文献が全体の約86%を占めており,英語による専門書はわずかである。 

 利用状況の測定にあたっては,OAPEN Libraryに登録された“FWF-E-Book-Library”収録の専門書にアクセスした際のIPアドレスのデータを用いている。ダウンロード数は2万8,139件,接続元のIPアドレスの数は2万3,652,プロバイダ名の数は2,839であった。このIPアドレスを,インターネット資源の登録情報を提供するWHOISプロトコルで分析することで,接続元の国や機関等(学術・政府・企業・非営利機関・一般大衆)を調査した。

 まず,利用対象となった資料数であるが,86%を占めるドイツ語の専門書について,その大半の55%が,オーストリア(11%)・ドイツ(43%)・スイス(2%)といったドイツ語圏の国々からのアクセスであり,アメリカ(12%),ウクライナ(4%),中国(4%),フランス(3%)といった国々が続く。また“Mean downloads”(ダウンロード数を登録タイトル数で割った値。以下,括弧内はその数値)で分野ごとに比較すると,文学史・文学批評(254.2)が最も高く,歴史(235.5),美術史(135.4),音楽(87.7),考古学(32.0)と続く。一方,学術利用に限ると考古学と美術史の利用が多いなど,分野ごとに需要に偏りがあることがわかる。

 次に,アクセス元の国であるが,大半はオーストリア国外からのものである。オーストリア国内からの利用は11%にすぎない。ただし,ドイツ語圏のドイツ・スイスの占める割合は非常に大きく,利用の42%を占めている。残りの47%がそれ以外の世界中の国々からの利用となる。

 最後に,利用者層であるが,アクセスの多くはインターネットサービスプロバイダ(ISP)からであり,利用者層やアクセスの理由を想定するのが難しい。ISPからのアクセスはドイツ語圏からのものが多い。ドイツ語圏はインターネット基盤が高度に構築されているので,ドイツ語圏でISPからの接続は一般人によるものと考えて良い。2番目に多いのが研究者で,10%が研究機関から接続している。オーストリア国内からは2%,ドイツ・スイス両国からは4%,その他の国からは3%のアクセスがある。ダウンロード数の多い研究機関としては,ウィーン大学(オーストリア・295),ケルン大学(ドイツ・80),グラーツ大学(オーストリア・75),フンボルト大学ベルリン(ドイツ・73)と続く(括弧内の数値はダウンロード数)。一方,政府機関(214)・企業(309)・非営利機関(223)からの接続は比較的少ない。ISP以外では899の機関から接続があった。

 以上から,専門書の利用は,ドイツ語圏からのアクセスが多いものの,それ以外の国々からのアクセスが47%を占めるなど,世界中の学術関係者に対してより大きな広がりがあることが明らかとなった。また,ISPを通した利用の多さから,読者層の研究者以外への広がりが想定でき,一般人が利用者となる機会があると考えられる。しかし,言語の影響は深刻で,ドイツ語で書かれた専門書はドイツ語圏で利用される一方,“Mean downloads”の数値が,ドイツ語で書かれたものが192.9に対して,英語のものが161.8,ドイツ語・英語併記のものが440.3であるなど,英語で書かれた専門書は,世界中で利用される機会を持つことが示唆される。

 本稿で紹介した文献から言えることは,隣接してドイツ語圏の国々があるオーストリアとは異なり,「日本語圏」が存在しない日本においてOAの専門書のプラットフォームを作成した場合,国外からのアクセスを考慮に入れるならば,英語に対応したインターフェイス,メタデータ,コンテンツの導入が課題となってくるということではないだろうか。

関西館図書館協力課・武田和也

Ref:
http://dx.doi.org/10.1045/july2015-snijder
https://e-book.fwf.ac.at/
http://www.oapen.org/home