E1589 – 100周年を迎えた米国議会図書館議会調査局

カレントアウェアネス-E

No.263 2014.07.24

 

 E1589

100周年を迎えた米国議会図書館議会調査局

 

 2014年,米国議会図書館(Library of Congress:LC)の議会調査局(Congressional Research Service:CRS)は,その前身となる組織の設立から100周年を迎えた。本稿では,“Library of Congress Magazine”の2014年5-6月号に掲載されたCRS100周年特集記事等を基に,CRSについて紹介する。なお,1948年に当時の立法考査局(Legislative Reference Service:LRS)をモデルに設立された国立国会図書館調査及び立法考査局では,当館刊行物により,これまでもCRSの歴史等について伝えてきている。あわせて参照されたい。

 CRSは,LCに置かれた立法補佐機関で,法案の起草に先立つ初期の議論の段階から,委員会における公聴会,本会議における討論,法律施行後の状況に至るまで,立法過程のあらゆる段階において,上下両院の議員,委員会,議会スタッフ等を補佐している。議会活動に対する主要なサービスとして,CRSレポートの作成,依頼者の要求に応じた概要説明,議会における証言,セミナーの開催,面談,電話回答等を実施している。2012年度では,議会に対し約70万件の調査依頼等への回答及びサービス提供を行っている。CRSは党派に関わりなく全ての議会関係者にサービスを提供するため,その調査・分析は,タイムリーで,正確で,信頼のおけるものであることに加え,秘密厳守,客観的,不偏不党であることも要請される。

 CRSの設立は1914年に遡る。ロバート・ラフォレット上院議員及びジョン・M・ネルソン下院議員(共にウィンスコンシン州選出)の尽力により,1915年度歳出予算法に,立法に関するレファレンスのための25,000ドルが盛り込まれた。これにより立法レファレンス部門が議会図書館内に設置された。

 その後,1946年の立法府改革法(Legislative Reorganization Act of 1946)により,立法レファレンス部門は立法考査局(LRS)と命名され,明確な法的根拠が与えられると共に,その規模及び業務範囲が拡大された。1950年代,LRSは東西冷戦,公民権運動等の分野で議会を補佐し,メディアから「議会の右腕」と呼ばれた。なお,この頃のエピソードとして,議会におけるLRS職員の立法補佐業務がアメリカ航空宇宙局(NASA)の設立につながった,というものがある。

 さらに,議会の情報収集能力及び調査機能の一層の拡充を図るために,1970年の立法府改革法(Legislative Reorganization Act of 1970)が成立した。これによりLRSはCRSに名称変更され,その責務を著しく拡大することとなり,人員も1975年までの5年間で約2.3倍に増員された。1991年に国立国会図書館で講演したW・H・ロビンソンCRS次長は,CRSの果たす役割として「情報工場」「政策コンサルタント」「シンクタンク」の3つを挙げている。

 1995年,LCは一般国民向けのインターネット立法情報検索システムTHOMASを開発し,1997年には複数あった従来の議会関係者向けのシステムを統合した立法情報システム(Legislative Information System:LIS)を公開した。2012年には,議会関係者及び一般国民向けに立法情報を提供するウェブサイトCongress.gov(ベータ版)を立ち上げるなど,LCはインターネットによる議会・立法情報の提供にも力を入れており,CRSもこれらのシステムの開発への参画や,これらのシステムによる議会情報の提供を行っている。なお,2014年後半にはCongress.govは正式版となり,2014年度中にTHOMAS及びLISはCogress.govに移行する予定である。

 CRSの現在の組織の概要は以下のとおりである。2012年度の予算は約1億679万ドルである。職員は約600人で,そのうち400人以上が政策分析官(policy analyst),弁護士(attorney),情報専門官(information specialist)である。調査に関する部署は,アメリカ法部(American Law Division),社会政策部(Domestic Social Policy Division),外交防衛通商部(Foreign Affairs, Defense and Trade Division),政府財政部(Government and Finance Division),資源科学産業部(Resource, Science and Industry Division)の5つであり,ナレッジ・サービス・グループ(Knowledge Service Group)が情報面から上記5部のサポートを行っている。

 CRS100周年特集記事には,「この100年でCRSは議会の信頼を得るだけの知識と経験を獲得した。膨大な量の情報が容易に利用できる現代において,最も適切な情報を収集し,分析し,要約することで議員を補佐するCRSの専門家にアクセスできることは,議員にとって増々重要である。」と記されており,またジェームズ・H・ビリントンLC館長は同誌において「CRSは優れたサービスの2世紀目に乗り出しており,そこで要求される独立した学識を,引き続き議会に対して提供する。」と述べている。CRSは100周年を迎え,スタッフの能力の向上,調査の成果物の多様化及びウェブサイトの合理化を進めていくとのことである。

調査及び立法考査局政治議会課・帖佐廉史

Ref:
http://www.loc.gov/lcm/pdf/LCM_2014_0506.pdf
http://blogs.loc.gov/loc/2014/05/crs-at-100-informing-the-legislative-debate-since-1914/
http://www.loc.gov/crsinfo/about/crs12_annrpt.pdf
http://fas.org/sgp/crs/misc/RL33471.pdf
http://www.loc.gov/crsinfo/
http://thomas.loc.gov/home/thomas.php
https://beta.congress.gov/
http://www.loc.gov/today/pr/2012/12-171.html
http://www.loc.gov/today/pr/2013/13-202.html
http://www.nasa.gov/topics/history/features/galloway_obit.html
米村隆二. 米国議会図書館議会調査局(CRS)における議会サービスの現状.レファレンス. 2002.2, (613), p.52-64.
ダニエル・P・マルホラン. 米国議会図書館議会調査局の現状と将来.国立国会図書館月報. 2001.11, (488), p.12-16.
ジェフリー・グリフィス. 米国連邦議会立法情報システム―THOMASとLIS―.レファレンス. 2001.5, (602),p.110-138.
W・H・ロビンソン. 米国議会図書館議会調査局の現状.国立国会図書館月報. 1992.1, (370),pp.18-22.