カレントアウェアネス-E
No.254 2014.02.20
E1536
ミャンマーの図書館事情:アジア財団レポートより
2014年2月,ミャンマーの公共図書館と情報ニーズについての調査レポートが公表された。米国に本部を置くアジア財団(The Asia Foundation)とミャンマーのMyanmar Book Aid and Preservation Foundation(MBAPF)によるものである。調査では,2013年10月から11月にかけて調査員が全国の図書館を訪問し,図書館員や住民等にインタビュー調査を行っている。レポートは,ミャンマーの図書館の歴史・現況(第3章),関係団体(第4章)を整理した上で,その調査結果が示されており,全体状況が明らかになっている。
レポートではミャンマーの図書館を,(1)政府系の図書館,(2)公共図書館,(3)民間,NGO,僧院の図書館,(4)コミュニティの図書館の4つに大別している。(2)公共図書館は,情報省の部局である情報広報局(IPRD)に登録されたものを指す。(3)や(4)の図書館についても,IPRDに登録されれば公共図書館となるという制度になっており,登録申請を行うか否かは設置者の意思によるという。なおNGO設置のものには,2013年7月にドウキンチー財団が,日本を含む国内外からの寄付により導入した移動図書館など,ミャンマーの図書館に変化をもたらしたものが含まれているという。
政府系の図書館としては,まず国立図書館があるが,これについては現在2か所にある。旧首都のヤンゴンの施設が最大のコレクションを有し,現在の首都ネピドーには新しい施設があり,また各地域に支部もある。大学図書館は教育省の所管となっており,全体で47館ある。主要なものには,ヤンゴンにある大学中央図書館,ヤンゴン大学図書館などがある。この他,保健省の管轄下にある医学研究図書館など,専門図書館もある。
公共図書館としてIPRDに現在登録されているのは55,755館,そのうち5Bs(Books,Brain,Building,Budget,Borrowersの意)を備え,かつ現在稼働しているとされるのは4,868館である。全国の325の行政区画(町:Township)にはすべて公共図書館があり,これらは町の主要部署に設置されているという。また社会主義政権時代からのスローガンとして“一村一図書館”が掲げられていた経緯もあり,都市部(小区:ward)以外の農村部(村:village)にも図書館が多く設置されているという。
今回の調査では,全国の村及び小区にある図書館から206館をサンプルとして抽出している。206館のうち,村の図書館が92%を占めており,また公共図書館として登録されていたのは82%であったという。これらについて,調査員が訪問し,図書館員(206名),利用者・非利用者(各412名),さらに自治体関係者等,計1,275名に対してインタビューを行い,資金,職員,利用状況等についてのデータを収集している。
まず資金面については,特に村の図書館は極めて資金が限られている様子がうかがえる。村の図書館のうち44%は何らかの資金を得ているが,その額は年あたり平均24ドルであった。またIPRDは公共図書館を資金ではなく主に資料提供によりサポートしているという。IPRDは町に資料の購入及び移送のための資金を支給しているが,その支給額は月に20ドルほどであり,村の図書館すべてをサポートするには十分とは言い難いようである。
所蔵資料数は,平均で900点であり,小さなところでは20点,大きなところで10,000点程度である。主題別にみると,宗教関係の書籍は90%で所蔵されており,以下,一般教養は88%,教育は75%,健康は70%,社会科学は50%,政治は50%,経済は37%で所蔵されている。また45%の図書館が児童書を所蔵しているという。開館時間については,一日当たりの開館時間が4時間以上であるのは44%,また週5日以上開館しているのは47%である。施設・設備面については,80%の図書館が600平方フィート(約56平米)以下であり,45%の図書館には電気が通っておらず,また98%の図書館にはコンピュータはない。施設や家具の維持管理などは地域の篤志家からの寄付等により行っている。利用者の多くは,開館時間や施設には不満は示さなかったが,所蔵資料については不満の声が多く,59%は資料が古いとの,また66%は資料が不十分との不満を示しているという。
職員についても予算制約により厳しい状況にある。職員の給与に充てられる予算がなく,多くの図書館はボランティアによって運営されているという。図書館員の学歴については,調査対象の206名のうち,高校卒業が39%,大学生が8%,大学卒業が31%となっている。また,年齢層は,48%が40歳以下となっている。男女比はおよそ2:1となっている。98%の図書館では図書館員の公式な研修に資金を投入したことはないという。
このような厳しい状況にはあるが,利用者・非利用者の97%が,図書館は地域の生活に一定の,あるいは大きな影響があると答えている。図書館の存在意義への理解や,全体状況を総合して,レポートでは,ミャンマーの図書館は,地域の健康や農業,教育などの分野におけるコミュニティの発展において,重要な拠点となる可能性を秘めていると結論付けている。
関西館図書館協力課・依田紀久
Ref:
http://asiafoundation.org/publications/pdf/1312
http://asiafoundation.org/news/2014/02/myanmar-library-survey-highlights-strengths-gaps-in-countrys-information-infrastructure/
http://beyondaccess.net/2014/02/04/myanmar-library-survey/
http://www.thehindubusinessline.com/news/international/nobel-laureate-suu-kyi-launches-myanmars-first-mobile-library/article4959610.ece
http://www.enca.com/myanmar-opens-first-mobile-library
http://www.clair.or.jp/j/forum/series/pdf/j13.pdf