E1467 – 「本の力」展 ― 大震災を「忘れない」ために

カレントアウェアネス-E

No.243 2013.08.29

 

 E1467

「本の力」展 ― 大震災を「忘れない」ために

 

 3度目の3・11を迎えた今,<大震災>出版対策本部の相賀昌宏常任委員会委員長(小学館社長)はあらためてこう訴える。「大勢の人たちによって支援されていると実感することが,挫けそうになる心を支える大きな力になるはずですが,最近ではそうした空気が希薄になっています。未だに多くの人が震災によって引き起こされた惨状の中にいて,そこから自分たちの生活を取戻そうと頑張っていることを忘れないようにする。私たちが出版という仕事を担っている以上,その『忘れない』ということのために,さまざまな形で寄与すべきだと思う。」

 出版界の義援金は,日本赤十字社への委託と被災3県への直接的な支援を行う「大震災出版復興基金」への寄付などを換算すると4億円をこえている。寄贈図書はこの2年間で一般財団法人日本出版クラブが関わったものだけで23万冊に及んだ。被災3県の小学生や震災遺児への図書カードの寄贈は3年目を迎えている。福島からの避難者を対象にした旧赤坂プリンスホテルや同じく江東区公務員住宅の「虹のライブラリー東雲」,三井物産と共同で造り上げた陸前高田市の仮設子供図書館「にじのライブラリー」,イトーヨーカドーやヨークベニマル,出版関連団体とともに福島県の放射能被害のおそれのある子供たちの屋内運動場PEP kids Koriyamaに小さな読書スペースを造ることができた。また,全国学校図書館協議会が行う「学校図書館げんきプロジェクト」にも継続的な支援を行っている。こうした活動を支えているのが,震災から3か月後に創設された<大震災>出版対策本部と大震災出版復興基金である。

 今回,<大震災>出版対策本部がキハラ株式会社と協力して企画した「東日本大震災3・11以降の全出版記録『本の力』展」には,冒頭の相賀委員長の呼びかけに応えた出版各社が日本全国に発信する,「忘れるな」というメッセージが込められている。全国出版協会・出版科学研究所によると,2011年4月から今年6月の間に出版された震災に関連する本は2,352点。今回の「本の力」展にはそのうち1,440点が集まった。協力出版社は370社に上る。寄贈いただいた書籍は,「絵本」「写真集」「地震・津波」「原子力発電」など10のテーマに分類展示されている。残念なのは,「文芸・小説」の出品が少なかったことである。

 公益社団法人読書推進運動協議会の岩田玄二事務局長は,「本の力」展の会場で力作を読み漁った感想を次のように記している。「『ハッピーバースデー3・11』(飛鳥新社)では,地震から27分後に大雪の駐車場で生まれた川口陽生ちゃんのドラマを。……堀米薫さんの『命のバトン』(佼成出版社)では,津波のなかを逃げのびた牛と農業高校生の記録を。写真家・長倉洋海さんの『だけど,くじけない』(NHK出版)では,子供たちのとびっきりの笑顔を。この2年間に出版された東日本大震災関連本には,宝物がいっぱい詰まっています。」(『読書推進運動』549号)

 また,伊藤忠商事広報部CSR・地球環境室の猪俣恵美さんからは次のようなメールをいただいた。「私どもは特に伊藤忠記念財団を通じて子供への読書支援活動を長年継続してきており,この震災を通じて子供たちに伝えるべきことが震災前後で変わってきているのではないか,それに私どもがどう対応できるかということを考えておりました。今回あれだけの本を目にし,じっくりと読む知る機会をいただけたこと,大変ありがたかったです。」

 今後「本の力」展は,2013年9月のくまもと森都心プラザ図書館を皮切りに,2014年9月までのおよそ1年をかけて全国各地を巡回する。その際,大震災復興基金への募金をお願いしながら,多くの方々に「本の力」を感じていただきたいと考えている。今後会場では,展示している本をその場で注文できるようにする予定であり,また,巡回後には展示本を被災3県の図書館へ寄贈すべく,現在調整を進めているところである。

(一般財団法人日本出版クラブ専務理事・武田一美)

Ref:
http://www.dokusyo.or.jp/kikanshi/pdf/no549.pdf