CA1388 – GPO/DOS/UICパートナーシップにみる米国政府情報の動向 / 廣瀬信己

カレントアウェアネス
No.261 2001.05.20


CA1388

GPO/DOS/UICパートナーシップにみる米国政府情報の動向

米国政府印刷局(Government Printing Office: GPO)はオンラインによる政府情報の提供にあたり,連邦寄託図書館制度(Federal Depository Library Program: FDLP)を,各政府機関・寄託図書館との協力関係(パートナーシップ)の枠組みとして再構築しようとしている(CA12201268参照)。その代表例として,GPO,国務省(Department of State: DOS),イリノイ大学シカゴ校デイリー図書館(Richard M. Daley Library, University of Illinois at Chicago: UIC)の三者による「国務省外交問題ネットワーク(Department of State's Foreign Affairs Network: DOSFAN)」(http://dosfan.lib.uic.edu/ERC/index.html)を取り上げたい。

DOSFANは,国務省の現行の主要ホームページから削除されたファイルをUICのサーバに保存(アーカイビング)し,オンラインで利用に供するサービスである。UICは1993年春,国務省広報室(Public Affairs Office: PAO)と協力して,当時既にUICにおいて構築されていた高速なインターネットのバックボーンを利用して国務省の電子情報を流通させる可能性について調査を始めた。最初に構築された形態は,gopherによるテキスト配信である。1995年以降,ウェブが普及したことによってgopherは姿を消すこととなった。そのようななか,UICは,このパートナーシップを正式なFDLPのもとでの活動として認めさせるためにGPOと交渉を開始し,1997年には「省庁レベルの政府機関とともに機能する最初でかつ唯一の公式の連邦電子寄託図書館」としてGPOの承認を得た。ここにGPO/DOS/UICの三者のパートナーシップが確立するに至ったのである。

しかし,この承認とは裏腹に,実態として,GPOのパートナーシップや電子情報管理計画全体がDOSFANとどのような関係にあるのか,という点は漠然としている。また,より問題を複雑にするのは,GPOと米国国立公文書館(National Archives and Records Administration: NARA)の役割分担が曖昧であることである。DOSFANは,DOSの「現在の外交政策にとってはもはや考慮する必要がないが,歴史的経緯を理解するうえで重要な記録」についてUICが保存するものであるが,これは明らかにNARAの領域に踏み込んでいる。この点を明確にしない限り,DOSFANは単なるFDLPの枠内での「最良の例」にとどまるのである。

さて,問題の火種はDOSFAN内部にも存在する。それは行政省庁との役割分担の問題であり,実はこちらの方がより深刻である。DOSFANはもともとUICとPAOとの間で交わされたパートナーシップである。ところが,1998年頃になるとDOSの中の他の部局もウェブによる情報発信に力を入れるようになり,それにつれて,なぜDOSの政府情報がUICを通じて運営されているのか,という点についてさまざまな疑問が提示され始めた。

この間の事情に詳しいイリノイ大学シカゴ校のシューラー(John A. Shuler)氏によると,行政省庁は今や,ウェブを新しい「情報宇宙」だととらえ,自らの領土を開発するように,情報発信を自分でコントロールしたいと考えている。ウェブ環境においては,政府から直接国民へと情報発信がなされ,従来,その間に介在して政府情報流通のための役割を担ってきたGPOやFDLPの枠組みは,ともするとその意味を失いかねないのである。

このような傾向を加速するかのように,2000年6月,クリントン大統領(当時)によって,連邦政府の情報・サービスへの迅速かつ自由なアクセスの提供を目指すウェブサイト「FirstGov」(http://www.firstgov.gov/)の構築が発表された。これは,政府サービスの「ワンストップショッピング」を実現するためのポータルサイトであり,単なる情報提供だけでなく,ウェブの双方向性を活かし,利用者が簡単なフォームに記入したり,直接質問したり,さらには政府機関と市民とが情報を交換したりすることによって,政府のあり方自体を変えていくことをも目指すという。

このような政府と国民との双方向のやりとりが行われるウェブ環境の中で,DOSFANは,GPOやFDLPは,NARAは,そしてより一般的に図書館は,今後どのような役割を果たしていくというのであろうか。GPOが標榜している「電子的な政府情報流通」と,FirstGovが目指す「政府情報・サービスへのアクセス提供」とは何が異なるというのか。

シューラー氏は,「究極的には,図書館員は,政府情報は政府サービスの副産物でしかないということを認識しなければならなくなるだろう。図書館が,政府サービスから独立した世界を作り上げ,政府の第一義的なサービスと関係していないところでも何らかの有益な書誌的構造を作ることが可能であったのは,紙媒体と印刷技術の存在ゆえである」と述べ,インターネット時代にはそれはもはや不可能になると指摘している。

図書館は,これまで専ら印刷物という情報発信者の手を離れた静的な情報を取り扱い,いわば独立した世界を築き上げてきた。ウェブ環境では,情報は,発信者と受信者の双方向のやりとりによって動的に流通する。図書館は,そのようななかで,今後どのようにその役割を見出していけばよいのか。米国の政府情報をめぐる動向は,我々図書館員に重い課題を突きつけている。

廣瀬 信己(ひろせのぶき)

Ref: Shuler, John A. Policy implications of a model public information service: the DOSFAN experience. Gov Inf Q 17 (4) 439-449, 2000
Baldwin, Gil. Government information: broadening access to all. Cathol Libr World 71 (1) 23-27, 2000
One stop government shop. Information Management Report 12, 2000. 11