CA1326 – 補佐職員達の今後 / 伊藤直美

カレントアウェアネス
No.249 2000.05.20


CA1326

補佐職員達の今後

情報化社会と呼ばれる現代において,図書館の役割は大きく変化しつつある。特に,業務の効率化を求める経営上の要請がますます強くなるなかで,年々増え続ける資料と,迅速かつ正確な情報供給を求める利用者の声に対処することを迫られているテクニカルサービス部門にとっては,限られた人員で資料へのアクセスを改善しつつ,いかに受入から利用までのタイムラグを短縮し,膨大な資料の収集整理業務を迅速に行うかが大きな問題になっている。その解決方法として,図書館業務の機械化が促進されると共に,組織再編やアウトソーシング等により業務の効率化をはかる傾向が強くなっている。

こうした時代の流れのなか,アメリカではMLS(図書館学修士)を有する図書館員(professional,以下「有資格職員」)に対し,それを補佐する職員(paraprofessionalまたはnonprofessional,以下「補佐職員」)の在り方が問題になってきている。補佐職員は大卒だが,図書館情報学についてはせいぜい課程修了資格(diploma)を持っているだけの人で,テクニカルサービス部門においては,主題知識を生かし,有資格職員に対するサポート役を果たしている。特に,学術図書館における特定の主題分野のカタロギングや,多くの職員を雇うことのできない小規模な図書館等での活躍が目立つ。「補佐(para-)」という名称は,否定的な印象を与えるが,実際の補佐職員は,初心者やアルバイトなどとは異なり,高度な専門知識と技術を有している。しかし,そのためにかえって補佐職員は,有資格職員に対する独自性という問題を抱えており,組織を見直すときに,繰り返しその位置づけが問われるのである。

そもそも補佐職員が多く採用されるようになったのは,1960年代から1970年代にかけてである。当時急激に増加した資料に対し,従来の処理スピードで対応できなくなったため,補佐職員は有資格職員のサポート役として採用され,滞貨の縮小に大きな役割を果たした。補佐職員は低賃金で,収集からカタロギング,製本,補修,閲覧まで様々な仕事を担当し,ついには責任ある仕事や,従来有資格職員が行っていた仕事も任されるようになった。一方,有資格職員の側はこうした実務からやがて,経営や企画,ワークフロー管理などの管理的業務を中心とするように職務内容を変化させた。

1980年代に入ってOPACが登場する。従来のカード目録では,書架目録と閲覧用目録など,目的別の複数の目録が,テクニカルサービス部門の職員の手作業で維持されていた。これに対しOPACでは,収集段階で作成された一つのマスターレコードを,図書館職員も利用者も利用することができる。目録において,テクニカル/パブリックという区別がなくなったことと併行して,組織においても,両部内の区別の見直しが提唱され,今日の組織再編につながる業務改善の試みが行われるようになった。

1990年代に入ると,テクニカルサービスにとって大きな変化が起こった。図書館経営において効率がより一層追求されるようになり,情報技術を活用した組織再構築が活発になった。書誌や情報の外部資源の活用が可能になり,組織のサービス志向が強まると共に,テクニカルサービス部門を廃止したり,その多くをアウトソーシングによって効率化しようとする動きも生じた。この問題の是非に関しては,現在でも様々な議論が続いている。

こうして,テクニカルサービス部門の位置づけが変化すると共に職員の能力に対する要求が高くなり,主にテクニカルサービス部門で活躍してきた補佐職員の位置づけが揺らいできた。

しかし,一人職場などでは補佐職員が館長として今なお重要な戦力になっているといった現実もあり,彼らの役割の再定義とそのスキルアップを図ることは,重要な課題となっている。ミシガン州の例を紹介しよう。ミシガン図書館協会(MLA)の事務局長であるハーゼル(Marianne Hartzell)氏は,「図書館員がプロとして利用者にサービスを提供するためには,有資格職員と補佐職員との協力が不可欠である」と主張している。MLAには多数の補佐職員が会員となっており,春と秋の年2回,補佐職員のために会合が開催されている。他の州でも同様の試みが行われており,また,アメリカ図書館協会の年次総会でも,補佐職員の会合が開かれている。中には補佐職員のMLS取得に対する奨学金制度を設けているところもある。

アウトソーシングや外部情報源の利用が増加しているものの,テクニカルサービス部門は従来どおりの複雑な技能を要求される場面も少なくない。これまで,補佐職員は,そうした作業の中でトレーニングを受け,高い専門知識を有してきた。一方,有資格職員は,情報化社会の激しい変化の中で生き残るため,図書館経営や情報技術全般に関する幅広い能力が求められている。今後,こうした現状を踏まえ,補佐職員は積極的に専門知識を生かすことを考えてゆく必要がある。それによって,テクニカルサービス部門をはじめとする様々なセクションにおいて,組織構成の点から有資格職員との差異化をはかり,かつ組織内における有資格者と対等な位置づけを獲得し,生き残ることができる可能性が生まれるのである。

伊藤 直美(いとうなおみ)

Ref: Howarth, Lynne C. The role of the paraprofessional in technical services in libraries. Libr Trends 46 (3) 426-596, 1998
Watkins, Christine. Paraprofessionals or professionals without par? Am Libr 29 (8) 10-11, 1998
ウィルソン,悦子 ライブラリアンと共に働く人々 TRCほんわかだより(136)28-30,1998