CA1142 – 宿題引受図書館会社(^_^) / 小田光宏

カレントアウェアネス
No.216 1997.08.20


CA1142

宿題引受図書館会社(^_^)

ところ変わればサービスも変わる。日本の図書館界では否定的に受けとめられていることでも,外国では各図書館の方針によっては,積極的な意味づけをしていることも少なくない。児童・生徒・学生に対して,これまで日本の公共図書館は,ずいぶんとその利用を妨げてきたのではないかという危惧をしてしまう話題である。すなわち,席借り利用(席貸し)や学校の宿題への対応について考えてみたい。

席借り利用に関しては,現在でもいろいろと議論があろう。筆者がかつて訪れたイギリスの図書館の中には,肯定的な認識をする図書館長もいた。すなわち,児童・生徒の学習活動の場となるのであれば,十分に意義があると述べていたのである。これは,一つの見識である。席借り利用が,たとえ本来的な資料利用につながるものではないにせよ,図書館が地域の施設の一つとして貢献できるとなれば,確かに意味のある対応になり得ると言えよう。しかし,彼らは長時間閲覧席を占有する。施設には限界がある。そうした場合,図書館資料を閲覧する利用者の便益と競合するのであれば,優先順位の点から,そうした利用を排除することも考えなければならないというのが,筆者の基本的な考え方である。

「宿題援助クラブ(Homework Help Club)」なるものを組織し,児童・生徒へのサービスを展開している記事が,同じイギリスで話題となっている。ロンドンの区(borough)の一つ,サザク(綴りはSouthwarkであるが,サウスワークなどと読まないでほしい)の公共図書館においてである。この区は,いわゆるエスニック系住民の多い地域であり,以前から多様な社会ニーズに対応すべく斬新な図書館サービスを展開してきた実績を持つ。しかもサザク区では,全国的な水準に比べると教育レベルが低いとされる。経済的に困窮している者が多く,教材や自習資料への教育投資にゆとりのある家庭も少ない。そして,図書館の利用者の大半は子どもである。したがって,図書館に寄せられる相談(レファレンス質問)の多くが,学校の宿題や課題をひとりでは十分に解決できない子どもからのものになっているのもうなずける。

学校の宿題に関しては,レファレンス質問として寄せられても回答に応じない,という説明を,日本の図書館情報学の授業で耳にする。国立国会図書館の「一般レファレンス事務処理要領」においても,回答を行わない事項のなかに,学習課題に関する調査が含まれている。

ところが,ここサザク区では,積極的に宿題解決を援助する活動を展開している。具体的には,担当者(helper)の配置,学校や地域施設への働きかけ,教科書や各種教材の整備と提供,学習用CD-ROMコレクションの形成,資料に関する利用指導などが挙げられている。七つのクラブが現在組織され,連携を図りながら,高学年の小学生から中学生までの宿題に関するニーズに応える場としているのである。担当者は,図書館員(librarian)ではなく,教育やヤング・アダルトに関する経験を持つ者が採用され,相談に応じ,助言を行っている。

なお,心配の向きに述べるならば,宿題の解答を担当者が直接提供することは,どうやら行われていない。あくまでも,解決を図ろうとする者への援助,すなわち,利用指導の域に収まっている。本稿のタイトルからは,あたかも宿題を代わりに解決しているかのようであり,お叱りを受けそうである。宿題と聞いて生じた悪戯心と,ご容赦いただきたい。

サービスは,利用者からも好評で,将来的には活動の幅をさらに広げる計画であるとされている。また,インターネットへの対応も進めると,極めて意欲的な様子がうかがえる。とりわけ,図書館サービスとして特殊なものとしないよう位置づけることが目指されている点には注目したい。こうした活動を行うと,すぐさま<宿題センター(homework centres)>とよばれたりすることにもなるが,形式的には異質な内容とは考えにくいからである。なるほど,これまで図書館が対応を避けてきたテーマであることは確かである。しかし,サービスで用いられている技能とその位置づけを考えると,公共図書館が過去から蓄積してきた範囲に収めることも可能と考えられる。むしろ不安なことは,学校図書館の役割がどのようになるかということではないだろうか。

サザク区では,「放課後サービス(After School Service)」とよばれる活動がすでに行われており,図書館が新たなサービスを開始する下地は十分できていたものと推察される。しかも,このサービスとの緊密な協力関係が保たれ,資料費や人件費を分け持ったりもしているのである。また,サザク区の自治体組織において,図書館が,教育・余暇(education and leisure)部門に位置づけられていることも,こうしたサービスが容易に推進できた遠因になっていると考えられる。

また,このような活動が展開できるイギリス社会の事情や背景にも着目する必要がある。まず,図書館サービスを所管している文化財省(Department of National Heritage: DNH)は,公共図書館が宿題解決の場を提供することは必要であるとの指摘をしている。これは,イギリス社会において,公共図書館に対する教育機関としての期待が高いことを思わせる。また,イングランドとウェールズの自治体の図書館部局の多くは,公共図書館サービス部門と学校図書館サービス部門から構成されており,図書館長は双方の経営をまかされているのである。したがって,図書館長の意識の中では,宿題に対する対応が公共図書館と無縁のものではないと,容易に想像できよう。さらに,前述した席借り利用への図書館側の認識のように,公共図書館の地域への貢献という課題は,強い説得力を持っているのである。

図書館経営研究所:小田 光宏(おだみつひろ)

Ref: Southwark: Homework Help Clubs.
Pub Libr J 12 (1) 11-13, 1997
Helping with homework. Libr AssocRec 99 (4) 190, 1997
Investing in Children: the Future of Library Services for Children and Young People. Department of National Heritage, 1995